ヴァルトス領の『総魔』Ⅴ
翌朝、オリビア達が騎竜の待機場に向かうと、女性の甲高い声が聞こえてきた。
「私も騎竜に乗りたいの。乗れるはずよ!」
周りにいるヴァルトス領の騎士達が困り果てていた。
ハリーが、騎竜には選ばれた者しか乗れない事を、何度も丁寧に話していたが、埒が明かない。
オリビア達がどうしたものか、と見守っていると、王立騎士団で指折りの人気者であり、ララ・モラレス男爵令嬢のお守り役に命ぜられたオスカー・エドワーズ伯爵令息が、騎馬に乗りながらやってきた。
「騎竜は、乗り心地が悪いから、私と一生に騎馬で参りましょう」
馬上からララに手を差し出した。朝日に輝く彼のブロンドには、思わず見とれてしまう。
「あなたが、そこまで言うなら」
と、ララは機嫌良くオスカーの手を取り、馬に横座りした。
※
飛び立っていく、ララ嬢を見送りながら、オリビアは(まるで悪役令嬢みたいだったわ)と、考えていた。
オリビアの思っていたヒロイン『ララ』は、登場している男性全てに愛されていた。可愛らしく、愛らしく、可憐で……
しかし、どうだろう。この世界の『ララ』は、ワガママで、周りを振り回す厄介者だ。
ハリーが、騎竜乗りを目指しているから、物語が変わってきているのだろうか?
それに、ララが、誰を攻略しようとしているのかもわからない。
眉目秀麗な男性が好みという事だけはわかる。
(ララは、攻略対象にハリーを選ぶかしら?)
オリビアは、朝日に照らされ、より燃えるような赤髪のハリーを見つめながら、憂鬱になるのだった。
※
「申し訳ありません。お待たせしました」
ハリーが、オリビア達に謝る。
「別にハリーが悪いわけじゃないじゃない」
ソフィアが言う。
「まぁ、そうなんだけど。一応、同じ選抜メンバーだからね」
と、困ったように笑う。ちょっとハニカム感じの笑みに、オリビアの心臓が騒ぐ。
(あぁ、私、ハリーが好きだわ……)
昨年、散々な想いをしたのを忘れる位には、ハリーの事が好きなんだ。と、改めて実感したオリビアだった。
「さぁ、私達も行きますか」
エレに背中をつつかれ、オリビアは我に返った。
「そうね」
と、火照る頬を隠すように、騎竜の天鼓を探した。
※
「何これ。気持ち悪い」
ララが、オスカーの腕に顔を埋める。
イザニコス達『澱み』退治メンバーは、対象となる森林地帯の上空に到着した。
昨日、いくらか消滅させていたので『濃い澱み』は減ってはいるのだが、少し短くなった『総魔』であろう黒い紐が森林地帯を、グルグル回るように蠕動運動をしている。
「所々にある『濃い澱み』を集中して狙うか……」
と、イリオスが提案した。短期決戦を計りたいので、一人で対応できる試してみることにした。
それぞれが目標とする『濃い澱み』の上空に待機する。
「いいか、撃ち洩らしても心配するな、次で仕留めれば問題ない。着実に小さくしていこう」
イリオスが激をとばす。
選抜チームには、砂煙を払う手助けと、浄化を頼んだ。
「ララ嬢、浄化特化魔法を期待してますよ」
オスカーがララに囁きながら、少し離れた所の『濃い澱み』の上空に待機した。
「ララ嬢は、一発撃ち込むだけでいいので気楽にいきましょう」
と、形の良い唇で微笑む。
イリオスの合図で、一斉に攻撃が始まり、砂煙が立つ。何度か爆音が響き砂煙が立ち昇っては消えた。
ララも即されるまま、浄化特化魔法を撃ち込んだ。
ララと、他の生徒が連続して撃ち込む魔法とを比べながら、オスカーは思った。
(わざわざ編入させる程の魔法の威力じゃないな。ただ貴重な人材ってだけだ)
風魔法の使い手達が、砂煙を払って確認する。
いくつか残った核に『澱み』が引き寄せられているが、問題にはならないだろう。
「一人でも『濃い澱み』を消滅させられそうだな」
と、フォルティスが残った核を消滅させながら言うと
「魔力操作が、半端なく難しいんですけど」
と、イザニコスの令嬢達から不満が洩れた。
「これくらいの魔法操作が出来ないと、騎士団じゃ使い物にならないぞ」
「せっかくの騎竜乗りが、もったいないな」
と、兄達、騎士団メンバーから煽られる。
「あら、私が、ちゃちゃっと消滅させちゃいましょうか?」
と、ララが名乗り出た。
「ララ嬢が討伐してくれるなら、一発で終わるな」
と、騎士団の兄達が、もてはやす。
「これは、頼もしいな」
と、スクトゥム王子も乗っかる。
気分を良くしたララは
「あなた達は、騎竜に乗れるだけなのね」
と、イザニコスの令嬢達を蔑んだ。
騎竜に認められるだけの、魔力と素質があるだけでもスゴいことなのだが、彼女達は、騎士団メンバーの茶番に乗ることにした。
「すみません。役にたてなくて。ララ様、お願いします」
オリビアが、ニッコリ微笑む。
「私どもは、お邪魔にならないように、向こう方で慎ましやかに、討伐しておりますわ」
ソフィアが、離れた所を指さす。
「ララ様、よろしくお願いいたします」
エレも、頭を下げる。




