ヴァルトス領の『総魔』Ⅳ
ヴァルトス侯爵家の書庫に、オリビア達イザニコスと、王立騎士団の兄達が集まっている。
過去に、今回のような『総魔』が出現したことがあるのか、調べていた。
王立騎士団にも問い合わせたが、蠕動運動をする『総魔』の事例はなかった。
大抵、大型動物の体を成していた。
『総魔』としての強さは、それ程ではないのだが、森林地帯一帯の『澱み』が『総魔』であるとするなら、兎に角デカイ。
魔力と体力勝負になるであろう。
明日は、ハリー達選抜チームも、といっても三人だが、騎馬に乗り、上空から浄化をしてもらう事にした。
また、ララを現地に連れ出して、浄化特化魔法を使わせる話も出た。
「後で、王立騎士団のお守り役に、相談してみるよ」
と言って、ノアがニヤニヤ笑っている。
どうやら、お守り役の騎士も、兄達の同窓のようだ。
※
ララ・モラレス男爵令嬢は、ヴァルトス領館の客室で、お守り役の騎士、オスカー・エドワーズ伯爵子息とハリーを除いた二人のクラスメイトと、食後のお茶を楽しんでいる。
「それにしても『澱み』の消滅って、結構疲れるものなんだな」
「あんなに魔法を連続で撃つなんて、信じられなかったよ」
と、今日の討伐に参加した感想を言い合っている。
ララは、大人しくお茶を飲んでいたが、自分の知らない話をしているのが、気に入らない。
「オリビア嬢と白蛇の連携攻撃も凄かったし、ソフィア嬢、エレ嬢も、あんな豪快な攻撃魔法を出すようには見えないよなぁ」
「学園で見かけるときは、三人共、ご令嬢の雰囲気だもんなぁ」
「肩に蛇が乗っているのを、見たときはビックリしたけどな」
「あれ、精霊らしぞ?」
「精霊の使い魔なんて、スゴいんじゃないか?」
オスカーは、切れ長のエメラルドの瞳で、ララを盗み見た。
ララは、素知らぬ顔でティーカップに口を付けているが、手がわずかに震えている。
(自分以外の称賛が、きにいらないんだろうな)と、簡単に察する事が出来た。
オスカーは、今回の討伐にフォルティス達と参加できると聞いて、嬉しく思っていた。卒業以来だ。
しかし、来てみれば令嬢のお守り役で、一日中お茶をしているか、商人を呼んで買い物三昧。
最近、モラレス男爵は羽振りが良いのだろうか?他人事だか、少し心配になる額だ。
「でも、オリビア嬢って生意気なんだろ?」
「あぁ、ハリーも困っていたもんな」
「最近は、仲良くしているように見えるけどなぁ」
「婚約者だから、仕方ないよな……」
ララのこめかみが、ピクッと動く。
(あら、ハリーと婚約者、上手くいってないの?)
ひとりでに笑みがこぼれる。
「ララ様?明日、ララ様も討伐に参加されては?」
オスカーの形の良い口元が、綺麗な三日月に変化する。
「そうね、ここも飽きてきた頃ですし、早く討伐して家に帰りたいわ」
ララは、ゆっくりとティーカップをマホガニーのテーブルに置いた。
「それでは、明日のために、早めにお休みになった方が良いですね」
と、オスカーは呼び鈴を鳴らし、侍女達を呼び入れた。
ララが何か言おうとしていたが、オスカーは、ララの同級生を促しながら、退室した。
※
部屋を出たところで、指を鳴らしていたオスカーは、フォルティス達に呼び止められた。立ち話もなんなので、侍従に声をかけ、談話室の使用許可をもらった。
ハリーに似て、堅実な雰囲気の談話室だった。重厚な家具で統一されていて、全てにおいて無駄がなく感じる。
「……というわけで、明日ララ嬢にも討伐に参加して欲しいんだけど、うまく誘える?」
ノアがオスカーの顔を伺い見る。焦らすように脚を組み換えたオスカーが
「ちょうど良かった。彼女も飽きてきてたようで、ちゃっちゃと討伐して、家に帰りたいってさ」
彼は、伸びをしながら
「僕もお守りばかりで飽きちゃったよ……」
と、つぶやく。
「ちゃっちゃと討伐できればいいんだけど、スピードと体力勝負になると思うよ」
「でも、オスカーは、ララ嬢をちゃんと見ててよ。勝手な行動取られちゃうと、ちょっと危険かも」
と、イリオスとフォルティスが答える。
「えー」
と言いながら、オスカーは残念そうな顔をする。
そして
「なんか、あいつ気持ち悪いんだよね」
と言って指を鳴らし、解除魔法を使った。
なんで解除魔法?と不思議がる仲間に、実は……とオスカーが話し出した。
ララ嬢が近くに来ると、何とも言えない不快感を感じで、彼女の言うことが全て、のような気分になってしまう。それが気持ち悪くて、小まめに解除魔法を使っている。
でも、何も感じない人の方が多くて、少なくとも、ヴァルトス領では、自分だけが違和感を感じているようだ。
フォルティス達は、まだ、ララに会っていないが、気を付けた方が良いかもな。と話し合った。
次回は、金曜日21時頃、投稿したいと思います。




