最悪の出会い?
オリビアは、その後も、雷と氷の合わせ技『雷の氷結』をどうにか形にしたくて湖畔で何度も練習した。
『感電する氷』のイメージだ。
魔力加減を間違えると、静電気が暴走して、一般的な『稲光』モドキになってしまう。
オリビアは、今日も湖畔へ向かおうと、動きやすく汚れの目立たない、黒味がかった深い紫色のワンピースに着替えていると、侍女が今日はこちらを着てください。と、瞳と同じ色、アメジスト色のドレスを持ってきた。
もう、左肩にニョロちゃんが乗っているのに慣れたようで、驚かなくなった。
お客様でも来るのだろうか?挨拶をしに行かねばならない。
聞くと、次兄フォルティスの学友達が遊びに来るそうだ。
この世界の移動手段は、それぞれの地区にあるゲートを利用するのが一般的だが、騎竜や自作の転移魔法を仕込んだ乗り物、自身の転移魔法で移動する方法がある。
フォルティスは、今年17歳で王立魔法高等学校の2年生だ。卒業後は騎士団に入り国境警備にあたりたいそうだ。
夏期休暇が明ければ、最高学年になるので、この休みが皆で集まれる最後の休みなのかもしれない。
オリビアの着替えが終わった頃合いで、執事が迎えにくる。
姉のサルビアと一緒に談話室へ向かう。姉は王立学校1年生だ。
薄い水色の壁紙の談話室は、重厚な彫物を施した白のマントルピースと暖炉を中心に、マホガニーの猫足テーブル、シルバーで光沢のある布地のソファーなど、水色と白を基調に、落ち着きのある雰囲気でまとめられている。
さすがに17歳ともなると、見慣れたフォルティスはおいといて、かなり大人っぽく見えて緊張する。
オリビアの左肩に乗っている白蛇に、一瞬ギョッとしたような表情を浮かべた彼等に『氷の精霊』らしい事を伝える。
挨拶を終えて退室しようとすると、フォルティスから友人の弟が『王立魔法高等学校』に入学を希望しているから、同級生になるかもね。と、隣の領地のウラニス・フォンターナを紹介された。
ダークブラウンの髪色で、スラリとした長身、立ち姿が美しく容姿端麗。確実に攻略対象になりうる。ラピスラズリ色の目元のホクロが艶っぽい。
これは近づいてはいけないヤツだ。クワバラクワバラ……
オリビアは自室に戻り、先ほどの黒味がかった深い紫色のワンピースに着替え、木立の遊歩道を抜け、湖畔へ向かう。
もちろん、ニョロちゃんは定位置の私の左肩にいる。
※
オリビアはニョロちゃんのほっぺらしき箇所をつつきながら、青々とした芝の上に頬杖をついて寝転んでいた。
上手くいかない、行き詰まっている。飽きてきた。
盛大なため息をつきながら、ひっくり返って吸い込まれるような青空を見上げた。
キラキラと煌めく『雷の氷結』に仕上げたいのだが、どうやっても雷が強いのか放電してしまい、小さな稲光が出来てしまう。
まぁ、これでも目的は果たしているので十分なんだが、キラキラしたい……
「キラキラしたいなぁ」
と呟きながら、ニョロちゃんを抱える。冷たくて気持ちが良い……
オリビアがふと、目を開けるとこちらを覗き込んでいるラピスラズリの瞳と目があった。
「何してるの?」
「………申し訳ありません」
うっかり眠ってしまったようだ。とても、恥ずかしい。家族以外に寝顔を見られたなんて……
フォルティスの友人の弟、ウラニスは涼しげな表情で、周りを見渡しながら、あちこち穴が開いて、ボコボコになった地面を指差し
「で、何してるの?」
嘲笑うように口の端が上がる。
生まれて初めてと見た。と、言ってもいい位の表情だ。(私、バカにされてるの?)
今までに感じたことのない感情が、沸々とがわいてきた。なんなの?さっきお会いしたばかりじゃない!
「……ダイヤモンドダストに雷魔法を合わせて、キラキラさせたかったんですけど……」
恥ずかしさと怒りとごちゃ混ぜな感情を押さえつつ、オリビアは、呟くように答える。
「ちょっと、やって見せて」
オリビアは自分の耳を疑った。やってみせて、とは?コレイカニ?
ラピスラズリの瞳を見つめながら繰り返し考える。
それにしても綺麗だなぁ、湖みたい……
目元のホクロが、色っぽくて素敵だわ……
「ねぇ、聞こえてる?バカなの?」
オリビアは、ムカッとしながら、無言で紺碧の湖に魔法を放つ。
『魔法だらけの世の中で、式神使いはいかがでしょう』
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