騎竜
抜けるような青空、遠く果樹園のオレンジと深い緑、パキッとした色彩鮮やかな景色の中、青々しく茂った芝の上で、数多の騎竜達が、頭を垂れていた。
その中心にはオリビアが、狼狽えながら、ひとり立ちすくんでいた。
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王立魔法高等学校の一年の後半、だいたい夏期休暇の一ヶ月程前に、二年時よりパートナーとなる騎竜を選ぶ。正しくは、選ばれるである。
というのも、騎竜は自分の認めたパートナー以外は、背中に乗せない。それも、一生に一人と決めている。
パートナー以外も乗せる事はあるが、パートナーが同乗しているか、パートナーを上回る何かを持っている、と騎竜が認めた者だ。
それほどに気難しい生き物なので、学校で認められた生徒だけが、騎竜に選ばれる権利を得る。
今年度は十名で、その中にオリビア、エレ、スクトゥム王子、ウラニス、ソフィアも入っていたが、生徒には知らされない。
学校側が選んでも、騎竜達から、選ばれない事もあるからだ。過去には、一人も選ばれない年もあった。
選定基準は秘密となっていて、公開されていない。魔力の高さと質が、関係しているのではないか、と噂されている。
ある晴れた日の昼下がりに、オリビアは、校長に呼ばれ騎竜の飼育地区に来ていた。
青々とした芝の飼育場で、若い騎竜達が自由に過ごしている。
先生方が見守る中、オリビアは飼育場の真ん中へと、騎竜達の中に進み出る。
騎竜が気に入れば、目前で頭を下げる。気に入らなければ、近寄らない。ひどい時は、威嚇し咆哮する。
緊張しているオリビアは、飼育場の真ん中で、目を閉じ両手を組んで祈るようにしていた。
(どうか、気に入られます様に)
せっかく、努力して王立魔法高等学校に入り、騎竜に選ばれるチャンスを物にしたのだから、選ばれたい。ハリーは、不機嫌になるだろうけど、騎竜に選ばれたい気持ちの方が、勝っていた。
小さなざわめきを感じ、おそるおそる目を開けたオリビアは、驚愕した。何が起きているのか、わからない。
飼育場の騎竜達が、自分を取り囲んで、頭を垂れている。
思わず振り向き、先生の指示を仰ごうとしたが、様子を見るに、先生方も困惑しているようだ。
さて、どうしたものか。と、オリビアが悩んでいると、一匹の騎竜が、歩みより頭を上下に振った後に、再び頭を垂れた。
なんとなしに、騎竜の頭に手を置くと、頭をもたげ上空に向けて咆哮した。
そして、何事も無かったかのように、群れに戻っていく。
これで、オリビアは騎竜に認められた形になり、後日選ばれた者と騎竜達が、生徒の前で発表される。それまでは、口外しないように誓約されられた。
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また、別のある日、騎馬を選ぶ時期でもあるので、飼育場に行き、各々気に入った騎馬を選んだ。
騎馬は、一般的な馬に羽が生えていて、乗馬ができれば、扱いはさほど難しくない。
夏期休暇中に、騎馬との仲を深める事と乗馬練習が、例年の課題になっている。
オリビアは先生に『あなたは騎竜がいるから、選んだ振りでお願いね』と、耳打ちされた。
それからのオリビアは、ハリーの機嫌を損なわない程度に魔法を制御しつつ、授業を受け、なんとか、選抜チームを降ろされる事なく過ごしていた。
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明日から夏期休暇という朝、一年生が訓練所に集められていた。
そこには、六匹の騎竜が座っていた。
名前が呼ばれる
「スクトゥム・エーリオン」
スクトゥムが、前に出ると、彼の髪色に似た、琥珀色の鞍を渡され、一匹の騎竜が隣に並ぶ。
「ユリウス・ドゥーカス」
彼のエメラルドの瞳に似た、緑の鞍が渡され、隣に騎竜が並ぶ。
他の四名は、ウラニス・フォンターナ、ソフィア・アルメディス、オリビア・ウェントス、エレ・クロニエだ。
ウラニスには、ラピスラズリの瞳に似た、青い鞍、ソフィアには、髪に似た若草色の鞍、オリビアには、アメシストの瞳に似た紫の鞍、エレには、アクアマリンの瞳に似た、水色の鞍がそれぞれ渡された。
六名の生徒と六匹の騎竜が、前に並んだ。
校長の声が響く。
「以上が騎竜に選ばし、騎竜乗りとなります」
生徒、先生方より拍手喝采を受けながら、騎竜の隣に準備された椅子に座る。説明が続く。
「彼らには、今後、騎士団の任務に同行してもらうこともあります。また、二年時に、彼らだけの授業もあるので、別クラスとなります。他、クラス替えはありません」
「なお、このまま騎竜クラスは、乗竜の練習を行うので残ってください。後は、解散です。よい夏休みを」
また、違った意味での拍手喝采が起こり、王立魔法高等学校は、夏期休暇に入った。




