友情
秘密の通路を通って、女子寮へ戻っているオリビアとエレは、一言も話さない。
自分の鼓動が聴こえてきそうな静寂の中で、靴音だけが響いていた。
意を決して、エレが話しかける。
「ねぇ、無理してない?」
オリビアの歩みが止まる。そして、静寂が続く。
エレは続ける。
「私の妖精達が教えてくれてるの。ニョロが元気がないって、オリビアが困っているって」
静寂が、すすり泣きに変わっていった。
※
エレが、目を赤く腫らしたオリビアと談話室で、お茶をしていると、一人の令嬢が、カツカツと足音を立てながら、やってきた。ソフィア・アルメデス侯爵令嬢だ。
オリビアとソフィアは、オリビアの領地で紹介されて以来、食堂や談話室などで、お茶をする友人の一人だ。
「ごきげんよう、オリビア様、エレ様」
空いている椅子に座り「これを」と言って、招待状を彼女達に渡してきた。
「夏の休暇に、私の領地へ遊びに来て頂きたいの」
と、お願いをするように、両手を組み、小首を傾げながら、頼んでいる。
「ご両親の許可は頂いてるから、心配なしないでね、いい気分転換になると思うわよ」
と、オリビアの手を取り、耳元で囁く。
『あまり、無理しないで』
どうやら、オリビアの兄フォルティスから、ソフィアの兄ノアにも話が回ったようで、心配してくれているようだった。
フォルティスとノアは同窓で、騎士団にいる。
「話くらい、聞くわよ」
と、エレもオリビアの肩を抱く。
オリビアは、よい友人に恵まれて良かった。と、また目を赤くするのだった。
※
正直、オリビアもどうしていいのか、わからない。
真面目に授業を受けると、機嫌が悪くなる。魔法の威力が強すぎると、文句を言う。魔力が高すぎると、すねる。
今まで、オリビアの周りの人々は、彼女の努力に対して、誉めてくれていた。認めてくれていた。
しかし、ハリーは彼女の努力に対して、不満を漏らす。初めての経験だ。自分のすべてを否定されているように感じていた。
『それは、オリビアに嫉妬してるのよ』
周りを気にしながら、ソフィアが囁く。
ソフィアとハリーは、同じクラスなので、意識していなくても、様子はわかる。
婚約者が生意気で困っている。と、周りに話しているらしい。
自分が選抜に入れないのに、オリビアが選抜なのも、気にしているそうだ。
「それって、ワガママじゃないですか!」
エレが、立ち上がる様な勢いで憤る。
「侯爵家の嫡男で、跡取りだからねぇ……」
と、訳あり顔で、呟くソフィアだったが、だからと言って、オリビアを虐げていいわけがない。
「ま、そろそろ騎馬を選ぶ時期だし、騎馬も連れて羽を伸ばしましょ」
と、意味深な笑顔を向けてきた。
『実は、一つ頼まれて欲しいことがあるのよ』
と、コッソリ伝えてきた。
詳しいことは、現地でね。と言い残し、ソフィアは談話室を後にした。
「もう、騎馬を選ぶ時期なのね……」
と、月日の過ぎる早さを実感した。
悩み事の相談ができて、心中スッキリしたオリビアは、冷たくなった紅茶を飲み干し、エレと談話室を後にした。




