オリビアのために
オリビアとサルビアを残し、隣の部屋に入ったスクトゥム王子は、立ちすくんでいるウラニス、エレにソファーに座るように促した。
「驚きが多過ぎて、消化できないんだけれど」
エレが、ため息をつきながら、上目遣いでスクトゥムを睨む。
「まぁ、なんだ。私は王族だった。って事さ」
ウラニスが、ソファーに座り直し、膝の上で手を組んで、スクトゥムを問いただす。
「なぜ、オリビアに、そこまで入れ込む?」
「オリビアが欲しい」
『はぁ?!』と、二人声が揃う。
「オリビアは、婚約者がいるんだぞ?」
「王族だからって、やって良いこと悪いことがあります!」
掴みかかったウラニスの手をほどきながら
「あー、すまない。言葉が足りなかった」
と、説明を始めた。
スクトゥム王子は、第五王子で王位継承権は持っているが、卒業後は継承権を放棄して、騎士団に入る予定でいる。
そこで、在学中に優秀な生徒を勧誘して、自分独自の騎士団を作り上げたい。なので、選抜チームとして、候補メンバーの相性を確認していると。
「私のいるクラスは、攻守共に優れている者を、集めている。その中でも選抜チームは特別なんだ。だから、オリビアには復活してもらわないと困るんだよ」
「私、土魔法だけど、いいの?」
「エレの魔力は、素晴らしいし、土魔法もいいと思うよ。是非、協力して欲しい」
初めて自分の魔法の良さを、理解してもらえて、エレは感激していた。
ドンドンドンドン!!!
壁が、ものすごい勢いで、叩かれている。
慌ててスクトゥム王子が、手をかざしドアを開ける……や否や
「殿下!今すぐ騎士団に連れていきなさい!」
と、サルビアがスクトゥム王子に迫った。
※
サルビアは、スクトゥム王子の権威をフル活用し、騎士団でフォルティスを王家の馬車に押し込み、そのままウェントス家のタウンハウスへと向かった。
スクトゥム王子の出迎えの為に、エントランスに出て来ていた長兄ビエントに会うなり、サルビアは、彼にすがり付いた。
「大変よ!オリビアの一大事だわ」
ウェントス家の談話室の、マホガニーのテーブルを囲んでビエント、フォルティス、サルビア、それと、巻き込まれたスクトゥム王子が、白い光沢のあるソファーに座っている。
「サルビア、一体何が起きたんだい?殿下まで巻き込んで……」
と、困ったような顔で、ビエントがサルビアに小言を言う。
サルビアは、両手を膝の上で握りしめ、唸るように話した。
「オリビアが、『悪役令嬢って、何ですの?』って言ったのよ! あんなに、怖がっていたのに!」
談話室がざわめく。王子だけが、訳がわからずに、キョトンとしている。
「どう考えればいいのか、悩むところだが、オリビアが言っていた、物語の世界に入り込んでいるって事なのか?」
「オリビアが、同化していってるって事か……」
「すまんが、サッパリわからないぞ?」
スクトゥム王子が、説明を求めた。
サルビアは、大きく息を吐いて説明を始めた。
「オリビアは、卒業パーティーで、婚約破棄された後に断罪され、死ぬか追放される運命なんです」
昔、オリビアがいきなり倒れて、目が覚めたと思ったら、自分は『悪役令嬢』だと言い出した。
王立魔法高等学校の三年時に、平民でピンク頭の回復か浄化魔法が得意な女生徒が編入してきて、婚約者を奪ってしまう。
そして、卒業パーティーで婚約破棄と共に、冤罪の罪で裁かれる運命なのだと。
その運命から逃げるために、いろいろ作戦を立てていたのに、それを忘れてしまうなんて、あり得ない。と、サルビアは訴えた。
「それで、物語の世界の登場人物とオリビアが同化していっている、といいたいのか? なるほど……」
スクトゥム王子は、何やら考えはじめ、ウェントス家の談話室は、重苦しい空気がたちこめている。
「確認なんだけど、今現在、オリビアの婚約状態は、良好。という、認識でいいのかな?」
腕組みをしながら、スクトゥム王子は確認した。
「ハリーの領地での、オリビア人気もありますし、当初の目的は達成されていると、思います」
と、ビエント。
「でも、オリビアの我慢の上で成り立ってる、良好な関係だからなぁ……」
と、フォルティス。
「そうなのよねぇ……オリビアに、『好きだから』って言われちゃうと……ねぇ……」
と、サルビア。
「まぁ、貴族同士の結婚で、良好な関係なんて滅多にないからなぁ」
と、言うスクトゥム王子を、ウェントス一族で睨む。
激しい視線を、両手で押さえるような仕草をしながら
「どうだろう。冤罪で処罰されない方向で考えるのは?」
しばらく考え込んだビエントが
「確かに。オリビアが一番気にしていたのは、私達に裏切られて、断罪される事。と言っていたな」
それもそうだ。と、フォルティス、サルビアも同意する。
「よし、オリビアの冤罪の件は、私に任せてもらおう。そのかわり……」
と言いながら、スクトゥム王子は、意味深な笑みを浮かべた。




