スクトゥムの優しさ
「さて、ここからが本番だ」
男子寮に入るなり、スクトゥムがウラニスに言いながら、口元に人差し指を立て、ニヤリと笑う。
談話室の横の何も表示されていない部屋、取手のない不思議なドアに、スクトゥムは手をかざした。
すると、魔方陣が浮かび上がり、音もなくドアが開いた。
立ちすくむウラニスを、スクトゥムは無理やり部屋に引き込む。
魔法で明かりを灯して、暗闇を進んでいくと、突き当たりに、また、取手のないドアが付いた部屋があった。
再びスクトゥムが手をかざし、ドアを開けると、こじんまりとした談話室が現れた。
呆然とするウラニスを、スクトゥムが無理やりソファーに座らせる。
「紅茶でいいよな?」
と言いながら、五人分のお茶の準備をしだした。
「いやいや、待って。王族が給仕するってなに?」
動揺しているウラニスを横目に
「まぁ、落ち着けよ」
と、淡々と紅茶の準備をしている。
「なんで、五人?」
不思議そうに問いかけると、コンコン。と、壁を叩く音がした。
すると、今まで壁だと思っていた場所に、ドアが浮かび上がり、そして開いた。
驚きが止まらないウラニスを他所に、目の前には、サルビア、オリビア、エレが現れた。
「これ、ありがとう」
と、サルビアが、小さなカードをスクトゥムに返す。
※
「さて、気付いていたかどうかは知らんが、ハリーはオリビアを監視しているようだ」
スクトゥムが言うには、侍従にオリビアを寮の談話室へ案内しておくように、伝えていた。
すると、オリビアが部屋ではなく、談話室に向かった事に気付いたハリーが、女子生徒を介してオリビアを呼び出そうとした。
そこで、侍従が機転を利かせて、先生からの呼び出しがあった事にしたのだ。
「それで、これだ」
と、空間をクルクルと指をさす。
「ここならば、誰にも聞かれず、姉妹の会話ができるだろう?」
と言い、自分達は隣の部屋で待っている。と、不自然に現れたドアに、ウラニスとエレを押し込み、サルビアとオリビアに手を振った。
※
「さすが王子ね」
と、サルビアは感心しながら、紅茶を一口飲んだ。
「で、どうなってるの?ニョロも元気ないじゃない」
と、オリビアの頬を撫でる。
オリビアは、両手で紅茶のカップを包み、温かさを実感していた。そして、ポツリポツリと話し出した。
ハリーより目立ってはいけない。従順な女性が好みだ。しいては、魔力も魔法も控えめが好ましい。のような内容の事を、言葉を変えて伝えてくる。と……
「それで、魔法の授業も、手を抜いてるのね……」
ため息をつきながら、オリビアの隣に座り直したサルビアは、彼女の肩を撫でた。
「良くしてくれる友人もいるし、『仲良し大作戦』をあきらめて、婚約破棄になってもいいんじゃない?このままだと、騎士団に入れなくなるわよ?」
と、聞いてみたが、ハリーの事が好きだから嫌われたくない。自分が我慢すればいい。迷惑をかけたくない。の一点張りだった。
(まだ、ヒロインも現れていないし、婚約破棄の気配もないし……もう少し様子をみても大丈夫かしら?)と、サルビアは考えた。
そして、殿下やウラニス達に『悪役令嬢』の話をして、婚約破棄されると、冤罪からの断罪になってしまう。と伝えて、いざという時、助けてもらうのはどうかしら?と提案してみると、驚きの答えが返ってきた。
「悪役令嬢?それって、なんですの?」




