オリビアの想い
オリビアは、小箱を胸に抱え、待ってくれていたエレと共に、談話室へ向かう。
談話室のドアを開けると、いくつかのグループが使用していた。
(ハリー様は……)と一歩中に入り、見渡してみると「こっちこっち!」と、手を振る彼に気付き、思わず笑みがこぼれる。
勧められるままに、赤いベルベットの布張のソファーに腰かける。
緊張のあまり、エレの手をギュッと握りしめていたオリビアは、一呼吸おき
「ハリー様、こちらを受け取って頂けませんか?」
と、おずおずと、小箱を差し出す。
「なにかな?」
二人の手が、わずかに触れあう。オリビアの心臓が跳ねる。
ハリーが、大切そうに箱を開けると、アメシストで飾られた『イヤーカフス』が出てきた。
「つけて頂けますか?」
オリビアの頬は、薄紅色に染まっている。
「もちろんだよ、喜んでつけさせてもらうよ」
と、微笑みながら、左耳につける。
「オリビアは、僕に興味がないと思っていたから、嬉しいよ」
彼は、優しく瞳を細め、頬を赤らめる。
(私の断罪回避の為なのに、こんなに喜ばれると、申し訳ないわ)と、少し後ろめたく思うのだが、ハリーの笑顔を見ていると、とても幸せな気分になる。
(不思議な人だわ……)
見つめあっているオリビアとハリーを、エレは微笑ましく眺めていた。
その後、この時の談話室での、仲睦まじい二人の様子が噂になり、『蛇使いの令嬢』に対して、好意的な視線が増えていった。
ニョロちゃんの愛らしさも広く浸透して、中庭の噴水で泳いでいると、令嬢達からの黄色い声が上がるようになった。
※
一年生の主な授業科目は、『防御』である。他に、歴史や地理、外国語などがあり、軍略に関する基礎的な事柄も学ぶ。
もちろん、社交の為のマナーや踊りもあり、不定期ではあるが『王立学園』と合同で舞踏会が行われる。
オリビアは防御が苦手だ。雷魔法なので、攻撃の方が想像しやすい。また、『破壊』に類する魔法なので、忌み嫌われている所もある。
初歩的な雷の有効な防御は『雷球体』結界のような物で、外からの攻撃を防ぐ物である。
後は、領地特有の風精霊の加護を使った『雷風』激しい雷と風で、前面の攻撃を防ぐ。
オリビアがこの魔法を放つと、防御しながら、攻撃もしてしまう。魔力が高い故なのだが、本来は、魔力の総量を増やしてから、三年で行う内容なのだ。
なので、多少嫌味に取られてしまう所も……ある……。
しかし、今年度は他に二名、並外れた魔力持ちが在籍しているので、オリビアはそこまで目立っていない。
第五王子スクゥトゥムと、フォルティスの友人の弟、ウラニスだ。
防御魔法の時間なのに、訓練所は穴だらけで、爆発音と砂煙がひどい。
「お前ら! 防御になってないっ」
先生の悲鳴に近い声が聞こえる。
殿下の『雷球体』から、槍が飛び出していく。オリビアの、火花よりすざましい。
ウラニスの『火球体』からは、火龍が躍り出ている。
防護壁がなければ、寮が消えていたかもしれない。
授業が終わり、次のクラスが、訓練所に集まっくる。その中にハリーの姿を見つけたオリビアは、落ち着きがなくなる。
駆け出したい気持ちを抑え、トコトコ速足で近づいてくるオリビアを見て、ハリーは嬉しさを隠しきれない様子で、優しく目元を緩めている。
※
冬が終わる頃に、オリビアの耳は、燃えるような唐紅で飾られ、ハリーの耳も、柔らかく淡いアメシストで、飾られるようになった。
憂いを含み、柔らかく微笑むハリーの瞳から、目を背けられなくなっているオリビアは、『悪役令嬢の物語』のことを、あまり考えなくなっていた。




