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ある日の昼下がり

 オリビアとエレは、昼食を食べようと城下へ行こうとしていた。

 校門を出て、石橋を渡り目前に広がる並木道を通り抜け、双頭の門の守護兵に挨拶をした。

 さて、どこへ行こうか。と相談していると、オリビアは視線に気付いた。

(また、ニョロちゃんね……蛇って忌み嫌うものだったかしら?)

 エレが、「懲りないわね……」と、呆れながらも、『粉雪』を出して、ニョロに食べさせている。


 たわいもない話をしながら、二人で歩いていると、いつの間にやら、大聖堂の噴水の前に来ていた。

 噴水の周りには、色々な露天が並んでいて、美味しそうな匂いが鼻を楽しませる。

 その中でも、焼いたお肉にタレをかけて、パンで挟んだ『サンドパン』の店に行列が出来ていた。

 それを食べてみることにした二人は、列に並んだ。


 サンドパンを受け取り、お店の人に言われるまま、身分証を、魔方陣の描かれている四角い箱の上に置いた。魔方陣が光り、会計が終わったようだ。

 始めてみる魔方陣の使い方に、驚いた二人だった。


 その後、果物の香りがする紅茶も買って、木陰のベンチに座って食べた。

 オリビアは、『悪役令嬢』の事を考えずに、友人と過ごす時間が、とても楽しく感じている。

 このまま、何も考えずに一人の伯爵令嬢として生きていきたい。と、憂鬱になる。


 物思いにふけるオリビアの顔を、不思議そうにエレが覗き込む。

「なんでもない」と、首を振り、サンドパンにかぶりつき、顔を見合わせて、二人は笑いあう。


「おや、珍しい。精霊の使い魔かい?」

 急に声を掛けられ、オリビアは驚いた。

「使い魔?」

「そうさ。古来、魔女が、連れてるっていう生き物だよ」

 と言いながら、ニョロちゃんに手を伸ばしている。

 黒マントで上半身を覆った、年齢不詳の綺麗な女性は、オリビアを見つめ

「その制服は、魔法高等学校だね?楽しみだねぇ」

 と、笑いながら

「この先の路地で、小物を扱っているから、気が向いたらおいでね」と、手を振り立ち去っていく。


「オリビア様は、魔女じゃないのにね?」

 と、エレが不満そうにサンドパンにかぶりつく。

「魔女並みに魔力があるって、誉められた事にしましょ?」

 と、オリビアは肩をすくめて、また二人でクスクス笑う。


 ※


 校舎の門をくぐった所で、オリビアは婚約者のハリー・ヴァルトスに会った。陽に照らされた彼の髪は、鮮やかな唐紅に見える。憂いを含んだセピアの彼の瞳に、クラクラする。

「オリビア、なかなか会えないものだね」

「ハリー様、ごきげんよう」


 同じ敷地内にいるはずなのに、言葉を交わすのは、婚約発表をしたパーティー以来だった。

 相変わらず、穏やかに微笑む婚約者に、オリビアはドキドキしてしまう。

(緊張なのか、断罪の恐怖なのか、それとも?)と、オリビアはドキドキの理由を考えてしまう。


「なんだか、バタバタしていて……お会いしたかったです」

 と、ハニカミながら伝える。

「オリビアは、人気者だから仕方ないね」

(人気者?)と不思議に思ったのだが、伝えたい事があるので、そちらを優先してしまった。

「お渡ししたい物があるので、お時間いただけないでしょうか?」

「じゃぁ、談話室はどうかな?」


 オリビアは、ニヤニヤしているエレと一緒に、大急ぎで寮の部屋に戻った。

 トランクの一番上に、大切にしまっておいた小箱を取り出して、胸に抱える。

(どうか、私たちを守ってください……)


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