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一話

001

 

迷った。

日も落ちかけた山の中で、一人の少年が方向感覚を失い彷徨う。

「ふーーむ。たぬき追っかけて迷うとは。我ながら間抜けがすぎるぜ」

好奇心で逃げていった狸の背を追いかけ山に入ったが完全にどこから自分が入ってきたか見失ってしまった。

「おやおやおや?」

何やらかすかに音がする。いや、これは

「声か?こんな山奥で?しかも女の子の声だな」

こんな山中深くで女の子の声がする理由を考えてみる。

「僕と同じで迷ったのかな。だとしたらまずいのでは?いやまあ遭難してる僕が言えた義理じゃないんだけどさ」

少年は、力があるわけでも体格が優れているわけでもないが、一応は高校生男子という一番頑丈なお年頃なので別に山で小一時間迷うぐらいなんの支障もないが、しかしこの声、恐らく少女であろう声の主が一人で迷っているとあらば命に関わる。

そう判断した少年、結果罫は声の主の方へと足を進めることにした。

「こっちだな」

少しずつ声が近くなってくる。先程まで距離が離れていて何を言っているかは聞き取れなかったが、はっきり「タスケテ」と懇願する少女の声がする。

竹やぶを抜ける最中、服が引っかかって破けてしまうのを気にせず、歩みを進める。

声の主をはっきりと視認すると同時に、一瞬息が詰まる。

確かに少女はいた。しかし、その少女は木に綱引きの縄のような巨大な縄でくくりつけられ身動きが取れないでいる。恐らく中学生ぐらいの年であろうとそのあどけなさが残る容姿を見て判断する。

「助けて!!誰か!!!!お願い!!!!!」

まだ僕に気がついていないのか、未だに一心不乱に叫ぶ少女を尻目に、思考を進める。

いや、普通は速攻駆け寄って縄を解いて上げるべきなのだけど、そうできない、というかしたくない理由があるのだ。

「なんかめっちゃ御札貼ってあるんだけど」

その縄、かなり古びている縄には、これまたかなり古びた御札が、それはもう大量に貼ってあった。

現実的な思考ではないが、彼女が普通の人間であると僕は考えられない。てかここまで十分ぐらいかかるのに声聞こえたのおかしいと思ったよ。明らかに何かしらで封印されてるやつじゃん。

しかし、だとすれば。と恐怖とは別の感情を伴い、少年が意を決する。

「やあ、どうもお嬢さん。こんな山奥で何やってるんだい?」

茂みから身を出し、少女に気さくに挨拶をする。

「助けて!!!私、いつの間にかこんなところに縛り付けられてて・・・・・・。ずっと動けなくて・・・・・・。お願いお兄さん、この縄を解いて!!」

「いやいや演技しなくていいよ。僕は君の正体ははっきりとは知らないけれど、しかし君に関する話は同業者から聞かせてもらったんだ」

デタラメを言う。さあ、どうだ。食いつくか。食いついてくれ。

「な、何を言ってるの・・・・??早く助けて!!」

ふむ。いや落ち着け。引くな。もし普通の女の子だったら謝ればいい。今はせっかく巡り合った可能性にかける。

「いいから、そういうの。僕は君のその縄を解くことはできない、けれど君にとっていい話があるんだ。勿論一方的に与えるってわけじゃなくて互いに利がある、つまりは取引をしたいと考えていてね。どうだい?話だけでも聞いてみるってのは」

なんか専門家風を装って話を続ける。何を隠そう僕は、妖怪だとか幽霊だとか、そういう非科学的な物に昔から興味を抱いていたのだ。しかし今までそれらと巡り合うことは、この十七年間の間で一度もなかった。しかし!!この明らかに「私封印されてまーす☆」みたいな少女!!もしかしたら、もしかしたら、本当にそういった妖怪変化のたぐいかもしれない。

「・・・・・・・・・・・・・」

僕の言葉を聞いた少女は黙り込む。

うーーーむ。いや流石に違うかぁ。古びた縄とか御札とか、まあ用意できなくはないし、彼女をここに縛り付けた犯人がなんかそういう趣味だったのかもしれない。やはりこの世界、伝承の存在は存在しないのか。

クソつまらんギャグまで言っちゃったよ。

少年が半ば諦めの表情で、大人しく少女の縄を解こうかな、と考え始めたその瞬間。黙っていた少女が口を開く。先程までの泣き顔も、泣き声も、感情と言える感情をなくして。

「ほう。ならば小僧、申してみよ。興を削ぐような話であったらその場で食うぞ?」

空気が変わる。

全身を、冷たい氷の様な風が走る。

 

 

あ、ホンモノだ、こいつ。

 

 

やっべーーーーーなにも考えてねえーーーーーーーー。

え、今食うぞって言った?あれ、もしかして封印とかされててもある程度動けちゃう系だったりするの?やっべ。え、やばくね?え、え、え、どうしよう。なんて言おう。「冗談半分で適当言っちゃいました〜☆」って言うか?いやいやいや殺されるって。

「ほれ、言うてみぃ?妾は寛大じゃ、一度だけならうぬの話を聞いてやろう」

縛られたまま、薄く笑って言う。

ほらもう一人称妾じゃん。絶対九尾的なAnythingじゃん。事実を言えば多分死ぬ。でも適当言って助かる気もしない。ならば、答えは一つ。

少年が一つの解を見つける。否、この言い方は適当ではない。錯乱している少年がパニックになってわっけ分からんものを考えついてしまったというのが正しいだろう。仮に目の前の彼女が本当に妖怪変化の類で、自身を殺すことができると仮定して、その答えに行き着いたのであれば、馬鹿を通り越して自殺志願者とも言える、そんな解だ。その解とは!!

「あ。やっぱダメだなんも思いつかん」

・・・・・・どうやら忘れてしまったらしい。

「そうか。であれば、妾は貴様を食うが、構わぬか?いやなに、別にうぬが嫌だと言っても構わずに食うから、特段うぬの返事にはなんの効力も無いがな」

「あ、ははは。そっすか」

木に括られていた少女が、いつの間にか、もうその吐息がかかってしまうのではないかという程の至近距離にいた。

「ではあの、食べる前に一つだけなんか言っていいですか?」

「良いぞ。貴様のその溢れる生気に免じて、聞いてやろう」

わーい。

「僕の骨的な残骸が残ったら、貴方の近くにおいてもらうことってできません?」

「別に構わぬが。意図が読めんな、何故そのような事を望む?」

不思議そうに首を傾げる。まあそりゃ不思議だわな。

「あのー。実はですね。僕昔から貴方みたいな妖怪とかカミサマとか、そういった非科学的な存在と友達になりたくてですね。どうせ喰われるなら死んだ後あなたの近くに置いてもらって友達(残骸)になってやろうかなって」

「ほう、なかなかに愉快な話じゃの。良かろう、貴様のその愉快さに免じて、貴様の遺骨は妾のアクセサリーの一部にでもしてやろうかの」

「あざーっす」

あー。

「面白いやつじゃな、気に入った。殺すのは止めにしてやろう」的な展開にワンチャン掛けたんだけど。やっぱ無理だよねー。

「では、そうじゃのぉ。名は何というのだ?」

「名前、名前ですかぁ」

名前なぁ。一応あるにはあるけど、この名字も名前も、別に気に入ってるわけじゃないしなぁ。どうせ死ぬならなんかかっこいい名前にでも改名するかな。

「白宗治です。どうぞよろしく」

「妾は狐。これで妾とうぬの縁は結ばれた」

わーい。

「では白よ。さらばじゃ」

彼女がそう言うと同時に意識が薄れていく。

生きたまま食うわけではないということに少し安堵するが、そんな感情も徐々に薄れていく。

 

 

意識が閉じる。

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