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8・そして、大事件が勃発した

 奴隷貿易船の擬装は中々に巧妙だ。


 たいていは中国の商船やジャンク船が使われているのだが、相当ヘマをやらかすヤツ以外は正規の商船として堂々と済州島に入港したりもしているという。


 まあ、済州島で奴隷の子供に逃げられたヘマな奴も居たが。白い粉なんて自分達で使ってバラす船員すらいる始末で、相当蔓延しているらしい。


 沿岸部を日本の陸海軍で蹂躙してしまえば良いじゃないかと幾度も議題に上がるほどの状態なのだが、表向き、博愛だの自由だのを掲げる米国の手前、その面前でやるのは如何なものかと裁可されることなく、ダラダラと戦闘が続いている。


 米国の商船が狙われたこともあり、米海軍と共同で対応したりもした。

 

 積み荷が盗まれ、船員が殺されていたりもしたが、案外冷静だな、あの国。


 そんな事を思いながら、今日も今日とて警備中である。


「あの船、昼間っから宴会してますね」


 見張り中に隊員がそんな呆れたように言う。


 なるほど、たしかに船上でパーティーやってるらしい。


 そして、そう言えば今日が7月4日であることに気が付いた。


「独立記念日だ。本国より早く祝ってるんだろう」


 そう隊員に返した。


「独立って、米国のっすか?」


 と、未だに船を見ながら聞いてくる隊員。


「そうだ。あの国はまだできて130年しか経たない新しい国だからな。英国から独立したのが今でもうれしいんだと思うぞ」


 そう言うと、隊員はこちらを見て感心している。


「さっすが宮様。物知りっすね」


 宮さまと一緒に任務に就いてるだけでも誇りなのに、良いこと聞いたと喜んでいる。


 その船はフロンティアを求めて米本国からやって来た乗客を多数乗せているらしい。こちらに気付いた女性と子供が手を振ってきたりしている。


「海賊に狙われたらやばいっしょ」


 と、冗談めかしにいう隊員。


 最近は対馬襲撃こそ多いが、海上警備隊に加えて米海軍にも警備艦が配備されたことで黄海での海賊活動は下火になっている。


 この警備艦、米国への初輸出では船室が狭い、天井が低すぎる、ハッチが狭すぎると散々に文句を言われたので改設計を行って随分と広々とした乗り心地の良い船に生まれ変わったという。


 海上警備隊への新造艦も同じ仕様との事でうらやましい限りだ。


 そんな米海軍の警備艦も今では12隻を数え、日本側が済州島に配備する14隻に迫るほどの勢力である。ポンとこれだけ揃える国力には恐れ入る。


 そして、日米ともに海賊は皆殺しにしているので非常に効果的に掃討が行えているらしい。


 そんな訳で、最近は奴隷貿易船摘発がメインと言えるほどに海賊が減った。


 もちろん、居ない訳ではない。


 楽しそうな船上パーティーを見上げながら、大連へ向かうその船を見送った。


 ポツポツと行きかうそうした商船や、大陸へ向かう船。


 特に大陸へ向かう船は奴隷貿易の疑いがあるので重点的に監視している。


 もちろん、半島へ向かう船にも武器が乗せられているだろうから、それらの監視も行う訳だが。


「救難信号です!先ほどの商船、コロンビア号!!」


 この辺りで救難信号って、遭難は考えられない。あり得なくはないが、海賊の襲撃と見て間違いないだろう。


 さっそく反転して救援に向かう俺たち。


 まさか、水平線に消えてすぐに襲撃を受けたって事だから、俺たちが漁船団でも見逃したか、タイミング悪く遭遇したって事なんだろうな。


 船が見えるまでに随分時間がかかった。


 そして、見えだしてすぐに威嚇で6斤砲を撃ち込む。


 どうやらそれで気付いた奴が居たらしく、商船を取り囲んだ船が動き出す。


 近くまで寄ったところでまだ動かない船に機関銃を掃射し、6斤砲の射程にある船も射撃していく。


 もたもたしていた海賊船をハチの巣にして、のろのろ逃げていた海賊船に6斤砲で穴を空ける。


 そうやって海賊を蹴散らしながら何とか商船に到着したが、縄梯子がかけられたままになり、どうやら相当荒らされたらしい。


「まだ残った海賊が居るかもしれん、慎重に行くぞ」


 ある意味都合の良い事に、俺たちは人質救出訓練も受けている。トリガーハッピーに人質の犠牲を増やさずに済むのが救いか。


 惨状を覚悟して船内に乗り込めば、まだ蠢く海賊が少数だが存在したらしい。


 構造が詳細まで分からないので、とにかく客室や甲板の掃討を行い、船倉への警戒をしながら乗員乗客の救護を急いだ。


「おい!何やってんだ!!」


 誰かが叫ぶ。


 どうやらカメラマンが船上の撮影をしているらしい。


 乱暴に静止しているが、止める気配がないので、俺は隊員の方を制止した。


「新聞屋だ、好きにさせてやれ」


 そう言って辺りを見回す。


 すると、そのカメラマンに保護でもされていたのか、彼の後ろから子供が駆けて来た。


 行く先は服を引きちぎられて無残な姿に変わり果てた女性。もしかして、先ほど手を振っていた親子では無いのかと何とも言えない気持ちになってしまった。


 そんな子供が泣きじゃくる姿をカメラマンが撮り続けていたが、だからと言ってどうする事も出来なかった。


 その後、救難信号を聞きつけた他の商船や警備艦も集まって来た。


 船倉の捜索も行われ、更に海賊も射殺されたが、話しはそれだけでは済まなかった。


 翌月、どうやら例の写真が新聞に載ったらしい。


 後に取り寄せたところ、加工はされているが、明らかにあの女性と分かる。そして、そこに縋りつく子供と呆然とそれを見つめる俺たちの姿だった。



 その写真が米国に火をつけた。


 冬を待たずに韓国討伐論が議会を席巻し、1910年3月には早くも艦隊が済州島へとやって来た。


 この間、外交での解決のための交渉が持たれたが、韓国政府はロシアの後ろ盾があると勘違いして虎の威を借る鶏状態。米国ごとき敵ではないと攘夷論を振りかざしている様だった。


 そんな状態なのでまったく妥結の糸口もなく、4月1日、エイプリルミッションと言われる作戦が発動されることになる。


 それは黄海沿岸の町や村を尽く更地にするような作戦で、6月には西部開拓時代の人間狩り状態になっていた。


 近代軍に対抗手段がない大韓帝国は義和団の乱よろしく民衆、盗賊、海賊を動員しての闘争を行うのだが、ただ狩り取られていくだけとなる。


 6月17日には対馬海峡や日本海沿岸も更地にして回った米艦隊が仁川に上陸、漢城を叩き潰したことで皇帝が満州国境へ逃走し、騒乱を鎮圧する事に成功した。


 のだが、韓国が頼みにしていたロシア軍は全く動かなかったので、攘夷対象がロシア軍にまで広まり、ロシア兵を殺害した事で6月21日にはロシア軍による掃討作戦が始まる事になる。


 8月には朝鮮を脱出した皇帝が北京に現れ、清と日本に対米、露交戦を訴えたのはまさに喜劇と言えるだろう。


 すでに崩壊直前の清にその力はなく、日本はただ嘲笑って終わらせるのだった。

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