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26・そして、軍は様変わりしていった

 二宮がシュナイダーカップへ出場し、日本は東ロシアや米国の満州景気で未だ景気減速が起きていない頃、軍はどうであったか。


 陸軍は欧州への派兵によって、その編成に大きな変革を迎えようとしている。


 日露戦争を超える砲撃の応酬。気球による着弾観測から飛行機による敵地偵察、更には対地攻撃や空の上での勢力を争う空中戦。


 それまで考えもしなかったことが次々と巻き起こり、考える暇もなく拡大していった。


 その大きな変化を陸軍は取り入れようとして試行錯誤を繰り返している。


 日露戦争頃から取り組んでいる歩兵装備については、平時予算ではもうこれ以上の事が出来ないので半ばあきらめているようだが、それはそれで仕方がない。


 四五式携帯機関銃の配備によって必要とする兵站が大きく増えた。


 四七式騎銃を持つ突撃歩兵の存在によってさらに負担が増した。


 そんな陸軍にはさらに、装甲車や飛行機の配備を考える必要が出てきているのだから大変だ。


 そうなると、すでに一定水準にある歩兵装備をこれ以上強化するよりも、大戦で不足が分かった砲兵の拡充、装甲車や航空機の開発、配備へと軸足を置くのは当然と言えるだろう。


 そうして、陸軍は戦車、装甲車の開発に乗り出し、飛行機はすでに実績のある二宮が多くを請け負う事になった。


 実は、この戦車開発で注目されたのが航空エンジンだった。


 出力があってそのまま戦車に使えるというのが大きかった。


 さらに、変速機関係についても二宮自動車部に有能な技術者が居る。


「いや、重機とか戦車とか知らないんだが?」


 という本人をしり目に、その知識をいかんなく発揮して戦車用変速機の開発にも携わっている。


 何なら、足回りも彼の発想が大いに役立ったと聞いた。


「スペースがない所に足回りを押し込むなら、こういうやり方で良いのではないだろうか?」


 と言って、一般的だった板バネではなく、巻きバネとダンパーを用いた機構に作り変えてしまった。


 ここにもドイツから掻っ攫った技術と技術者が役に立った。


 中島さんがどうしてもエンジンに使うスプリング性能に我慢がならなかったそうだが、ドイツ人技術者とその問題に取り組み、1924年にはバネ製造会社を設立してしまう。


 いや、中島さんがというか、そう言う職種の人を見つけてだそうだが。


 その企業には初めからドイツ人技師とドイツから掻っ攫った工作機械が据え付けられ、中島さんの要望するスプリングの製造を開始した。


 このメーカー在っての二宮エンジン、シュナイダーの栄光と、中島さんは言っている。


 そのメーカーはフォーミュラ用のスプリングも製造しており、以前はアームがそのままバネの役割をしていた車両に比べて格段に性能が良くなったと思う。


 そんな技術力のあるメーカーに発注された戦車用スプリングは極太だという。ダンパーも乗用車やフォーミュラとは比較にならない。


 そして、1929年にはさらに自動車関係のピースが埋まる。


 自動車はエンジンから車輪までの間に変速機を持つが、エンジンと変速機が直結されている訳ではない。接続を入り切りするクラッチが存在するが、その摩擦材を製造する企業も起業した。


 こうして、戦車開発も、細々とだった二宮での開発も一気に飛躍していく事になる。


 もちろん、それらは二宮飛行機自動車部の自動車開発にもすぐさま生かされていった訳だが。


 こうして、国産試作戦車が完成した。


 良かったのか残念なのか、戦車の父と呼ばれる人物はこの時代の人だったと乃木さんが残念がった。



 さて、海軍だが、こちらは重巡洋艦建造をワシントン条約以前に開始していなかったので、いきなり史実の妙高型から開始できるようになると、平賀さんが言っていた。


 ただ、それを実現するには今の海軍の考え方では実現不能になるか、条約制限を大幅に超過する事になる。


 そう、居住性の大幅改善がなされた現在の海軍の考え方で設計すると、2万t近い大型艦になる。戦艦より長い全長を持ち、その分細身になるだけの大型艦。

 そもそも海軍の運用思想が日本近海での待伏せという史実のソレではなく、第一次大戦で行われたような、南北米大陸沿岸や大西洋に展開しての長期作戦が想定されている。


 さすがにソレは実現不可能なので、出来るだけ砲関係をコンパクトにまとめた船にしなければいけないという。


 そうして、苦労の末に導き出したのが、自動装填装置を導入した主砲塔、巡航用ディーゼルを備えて缶室を削減するというものだった。


 だが、現実には自動装填装置の開発は難航し、いくらドイツ人技術者を攫ってきていると言ってもディーゼル機関の完成もすぐには無理そうだった。


 結局、従来同様の人力補助が必要な連装砲塔に、未だ高温高圧が達成できていない蒸気タービンを用いる事から、10~12門の主砲搭載という要求に対して8門、魚雷発射菅装備も取り下げという条件で、何とか基準排水量1万500tに抑えることが出来たという。


 ただ、防御力に関しては削減されず、火薬庫140mm、舷側112mmと重防御は維持された。


 駆逐艦についても重装備というよりも航洋性を持たせることに重点が置かれ、魚雷弾頭威力についても火薬の改良で向上させるため53cmで十分とされた。


 その考えから、この世界での吹雪型駆逐艦はサイズこそ同じ様な大型だが、53センチ3連装魚雷発射菅2基、12.7センチ連装砲2基、8センチ連装速射砲2基というものになっている。


 空母については既存戦艦の改造ではないので、3万t近い大型空母ではなく、史実の蒼龍サイズを3隻建造した。


 そのデザインは先に建造された鳳翔型ではなく、英国が建造したハーミズに近い。


 艦首は密閉式の俗にハリケーンバウという構造をしており、格納庫は密閉式、そして、格納庫は艦尾部分が若干切り欠かれ、後部エレベータを格納庫外に置く形式にしている。これも、ハーミズに倣ったという事になっているが、舷側エレベータの試験を兼ねてここに設けている。


 戦艦の数も少なければ、重巡洋艦の戦闘力も低く、駆逐艦も攻撃力重視ではない。そして空母は外観が英国面。


 平賀さん曰く、「これは帝国海軍は帝国海軍でも、大英帝国海軍だよ」との事だった。

  

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