20・そして、新たな時代が幕を開ける
戦争が終わり、日本は不景気に突入しなかった。
豪州の鉄鉱石利権を得た事で良質な鉄を得る目処が立ち、国内ではシベリア騒乱で多量の線路を必要とした満州からイルクーツクまでの短絡線建設にと鉄鋼需要や貨車需要に相乗りして国内の鉄道を標準軌に改軌する事が決まった。
そうすることで、満州向けに大量生産されている汽車や貨車を国内でも安く導入できるようになるのだから悪い話ではない。
さらに、東ロシア帝国の建国に伴ってこれまで以上にロシアとの取引が増えている。
これまでとは比較にならない程人口が増えた極東地域の需要を満たすためには様々なモノが必要だった。
ロシア人の胃袋を持たすためにテーハンは徹底的に改造されている最中だ。
山を切り崩して海を埋め立て干潟を干拓している。そうして得た畑で大量のライ麦やソバを生産して、東ロシアの食卓に届けることになる。
さらに、米国の大盤振る舞いで権益であった満州北部も東ロシアは手に入れることが出来た。
こうして広大な農地を得た東ロシアは流入した人々の腹を満たす食料を得ることが出来るようになったのだ。
その事から派生して、満州向けの農業機械は遼東半島で作る事になるが、いくら土地を整備したとはいえ、満州や沿海州のような平野が広がる訳ではないテーハン向け農業機械は日本にも需要があるだろうと、米国のメーカーが進出し、日本では中島さんが暇つぶしがてらに開発した小型エンジンを使うトラクターが生産を始めている。
そう、少し時期が早かったが、四国発祥の農機大手は自社製エンジン無かったなと、同じ四国出身の二宮さんの伝手で、四国で農機メーカを起業してもらった。
そこに、中島さん設計のエンジンを卸している訳だ。
中島さんは本来、レース関係の技術者だそうで、何かとエンジンや機械に詳しい。
そして、本業であるレース関係の事もやりたいと、レース事業部も立ち上げ、時代錯誤なレーシングカーの開発にも勤しんでいる。こんな、空力ウンヌンという概念すらない時代に21世紀のレーシングカーなんて根付くのだろうか?
「だって、ウィングあった方がレーシングカーっぽいじゃないですか」
という中島さん。自ら車体やミッションを設計、開発していらっしゃる。その情熱をレーシングカーじゃなくて市販車に使ってもらえれば・・・
などと少々残念な思いだった。
そして、鉄鋼の過剰供給が懸念され出したところへ、海軍は戦艦の補充建造を始めるという。
なにせ、欧州で戦艦が沈んでいるんだから。
さらに、結納替わりに東ロシアに金剛型を売却してしまった。
なので、都合6隻の38センチ砲戦艦を建造するんだという。
さらにあと4隻ほど計画しているが、それはワシントン条約が開催された場合の見せ札らしい。
そんな戦艦建造計画に合わせて、呉工廠や長崎造船所、更に神戸も設備強化が行われている。
横須賀については関東大震災前だし、遼東半島輸出の関係で産業が西日本でより発展しているから行われた措置だ。
さらに、横須賀を強化できない代わりに、四国は今治に巨大な造船所がお目見えする。
そこも合わせれば6隻の戦艦すら余裕で建造できる。それでも鉄余りになりそうなのだという。
その6隻の戦艦は38センチ三連装砲3基という日本の標準戦艦になるらしい。
扶桑型を踏襲した集中防御で比較的コンパクトにまとめられている事が特徴だ。
平賀さん曰く、他の国がこの要求仕様を実現するには4万トンを超えるところを3万5千トン強でまとめたと自信をのぞかせている。
そんな戦艦だが、米英からはあまり脅威と見られていない。
というのも、結局、欧州へは扶桑型を派遣しなかったし、薩摩型は爆沈したり腔発と集中砲火によるダメージで廃艦になったりと、あまり良いイメージが無い。もちろん、当時の技術力では英独戦艦に劣っているのは仕方がなかった。
そんな訳で、扶桑型やそれに続く6隻は薩摩型の改良型といった認識が英米ではなされている。中身は大和をベースにした完全に時代を先取りした戦艦なのにね。
そんな事をしているとやはりというか、米国が戦艦を制限しようと言い出した。
史実の様にワシントンに集まり軍縮会議が行われた。
日本が問題視されたのは東ロシアにポンと金剛型を売却した事だったが、やっちゃったものは仕方がなく、東ロシアの分は金剛型4隻の維持として決定された。
日本に関しても、金剛型売却や戦没艦に伴う補充分については認められることになった。
中身はポスト条約時代の防御思想を持った戦艦だが、誰もそんなことは知らない。
そして、平賀さんがジェーン年鑑に1万t規模で8インチ砲を積む準主力艦なる論文を寄稿した事から重巡洋艦競争も英米で始まっていた。
日本は戦艦建造を優先してまだ建造に着手すらしていない状態だったが、保有枠を貰う事が出来た。
そして、この会議で日英同盟と日米安保が議題に上げられ、日米英ロによる極東四か国条約、太平洋については日米英仏による太平洋四か国条約という話になったのだが、米英がお互いけん制し合って結局現状維持と相成った。
空母についても保有枠が設けられたが、日本は戦艦建造数すべてが認められたので転用ではなく、新造が認められた。
そこで、平賀さんにダメコンぴか一のエセックス級にしたら?と聞いたのだが、アレにも欠点はあるし、何より米国型の開放型格納庫は日本周辺海域では不利になるという。
荒れやすく格納庫に波が被るようだと飛行機の整備や寿命に影響が大きすぎるのだという。
だからと言って、開放型をうたいながら丈夫なカバーを用意して開閉出来るようにしたのでは、ただ重量がかさむだけなので、防御も兼ねて密閉式にした方が軽量化も出来るし防風防潮、防御力強化といったメリットがあるのだという。
カタパルトはどうかというと、今の機体性能では不要だし、あってもただの死重量とコスト高にしかならないと否定された。
アングルドデッキという奴も、レシプロ機では必要になる場面が無いらしい。
では、舷側エレベータはというと、それはあって良いが、エレベータ装置の開発から入るので、いきなり装備できるかは自信がないそうだ。まずは、内装型エレベータを作り、追々開発していきたいらしい。
「舷側エレベータは装甲空母の弱点を減らす効果があるので、ぜひ欲しい装備ですね。カタパルトも、レシプロ末期の6t級の大型機が登場すれば必要になりますよ」
との事だった。