16・そして、神話は崩れていった
南部さんは大忙しでフェドロフ小銃の製造が可能な工場建設を差配している。
なんでも、戦争が終れば退官してその工場を買い取って自分の会社にするそうだ。
そんなフェドロフ小銃だが、日本仕様は大きくオリジナルと異なる事になるらしく、日本で作れる規格、精度、材質にする関係から、連射機能はオミットする。
「ロシアの変な方向に突き抜けた冶金技術でどうにかなってる部分を日本が完コピするのは不可能です。今の日本で製造可能な仕様を考えれば、強度的にセミオートの半自動小銃になります。不足する火力は四五式携機をセット販売すれば良いんですよ」
と、何やら商売魂に燃えている。
と、思ったのだが、南部さんの黒い噂として聞いたところによると、SKSという傑作小銃を垢のせいで短命に終わらせた復讐だとか意味不明な事を言っているらしい。
そんな南部さんが東京工廠とは別に、より田舎に大規模な土地を得て火砲工場を作り、国産マザーマシンを大量導入してフェドロフの生産に加え、売却需要を見込んで四五式携帯機関銃のラインまで設けているらしい。
その工場では四七式騎銃の生産も行われて、特殊部隊へと優先的に配備される予定だ。
どうも、特殊部隊の方がこうした機材の運用に向いているだろうとの事だが、たしかに、今のところ大きな不具合もなく使えている。
新機軸の機構を持つ銃器なのに極めて優秀な事だと思う。
そうこうしているうちに1915年も終わりに近づき、どうやら今年も四姉妹はプサンで冬を過ごすらしい。なんでも、皇帝自ら軍の指揮に出向いているとかで、少なくとも戦争が続いている間は冬はテーハンで過ごすらしく、場合によっては疎開してくるかもしれないという。
何だか頭痛の種が増えた気がしないでもないが、海に出て遭難しない様にして欲しいもんだ。
欧州ではドイツ側の攻勢があったとかで多くの犠牲者が出ている。
フランス軍が何であそこまでわけわからんことをやるのか謎だと乃木さんが手紙で送ってきているのは、結構フランス相手にストレス溜めてるんだろうな。
欧州戦線で砲弾を大量消費するため、日本の生産量では追い付かないので米国に生産を委託したりもしている。ロシアもボルトアクション小銃を米国へ大量発注しているとか。
そんな中でも構造が簡単な迫撃弾や擲弾の生産だけなら、国内でも何とかなっている。が、それでも日露戦争の頃の火薬製造能力では全く足りず、生産設備の増強に次ぐ増強というのだからトンデモナイ戦争だ。
そして、今年から二宮飛行機も欧州へと向かうらしいが、欧州機の著しい性能向上に対してついて行けない面があるらしい。
そして、5月の末には派遣艦隊も加わった大海戦が行われたというのだ。
日本艦隊は日本海海戦の完勝という自信からかなり突出して戦闘に臨んだが、悲劇の連続であったという。
平賀さん曰く、自分が設計に加わっていれば大落角弾への対応もしていたんだろうが、当時はまだ主力艦の設計には加わっていなかったので、扶桑型みたいな設計になっていなかったとの事。
さらに、慢心も大きかったという。
ロシア海軍に勝ったという気持ちが先走り、自分たちが負ける訳も沈むわけもないと思って突撃していったが、全く歯が立たなかった。
結局、河内が爆沈。それも、敵弾ではなく、操砲か揚弾時の事故ではないかと言われている。薩摩は腔発を起こして3番砲塔が作動不能になり集中砲火を浴び、随伴していた旧式装甲巡洋艦の筑波も撃沈されたらしい。
日本海軍だけで大型艦2隻沈没、2200名の戦死者を出す大損害となり、海軍は大騒ぎになっている。
この海戦の結果、巡洋戦艦戦力が損耗した英海軍は、日本に再度、金剛型派遣を要請してきたことから、今回はそれに応じ、新たに欧州派遣艦隊が編成されるという。
権兵衛さんによると、爆沈や腔発は下瀬火薬の問題点が表面化したのではないかという。もともとあの火薬は非常に鋭敏で危ない代物らしく、今後、その扱いを再考する事になるだろうとの事だった。
海軍のこの損害が報じられると、国民にも衝撃が広がる。
半ば無敗の海軍と思われていたソレが実は普通の海軍だったのだ。
陸軍は、満州での敗退が有るので欧州で多大な犠牲を出しているのも容認していた面がある。陸軍なんてそんなもんだろうと。
しかし、海軍までもが打ち負かされるとは思っていなかったらしい。
厭戦機運が出てきているのも仕方がない。
だが、悪い事ばかりでもなく、欧州での戦争によって様々なモノが輸出されるようになり、日本も派兵している事で更に輸出量が増えていた。
その好景気はこれまでに経験した事が無いもので、厭戦機運を薄めるのに十分な物と言えただろう。
そして、地上でも大規模な戦闘が複数起きて毎日のように日本のどこかに戦死通知が渡されていく。
戦場ではそんな中でも、日本軍陣地は高火力を持っていて、歩兵火力では英仏を凌駕していた。独軍も重要性の低さとその火力の高さから避けて通る事が多いんだという。
なんせ、ドイツより先に浸透戦術を始めているのでドイツが同じことをしようにも、かなりの確率で押し返された上に、よく分からない火を噴く道具で榴弾が直射され、塹壕内へと的確に小型砲弾が飛び込んできて機銃が潰され、戦力がそがれたと思うと突撃してきて機関短銃をばらまかれる。挙句は奇声を発して白刃突撃してきた兵士に真っ二つにされる。撤退しそこなった日本兵は死地で喜々としてカタナを振り回してドイツ兵を斬りつける地獄絵図。そんな所にわざわざ攻撃など掛けたくないだろう。
そんな事情から、ドイツ軍にとって日本陣地は出来れば相手にしたくないといった空気が蔓延しているという。日本兵は殺魔人とか言われてるってさ。
そして、そろそろ交代要員には四七式騎銃を持たせた突撃歩兵を組み込むとかで、更に火力が増すことになるんだとか。
そうそう、四五式携帯機関銃にフランスが興味を示しているとかで、向こうで日本軍への供給も込みでライセンス生産に入るんだとか南部さんが言っていた。
なんか、フランスのゲテモノ機関銃を闇に葬ったとか、黒く嗤う南部さんが居たらしい。




