11・そして、新たな同志と対面した
一通り話はまとまった。
そして、話しはやがて来る第一次世界大戦についてだ。
遼東半島に米国が居ることでアジアでの戦いがどうなるのかちょっと分からない。
ただ、米国が参戦しないのであれば、史実と大きな違いは無いだろうという。
「問題は、豪州の白豪主義かも知れませんな。あまり知られてはおりませんが、第一次大戦時に豪州を訪れた日本艦艇を誤射しておるのですよ、かの国は」
と、伊藤さんが言ってくる。
一年早く外相が亡くなってしまった事で政界も混乱しているし、未だに暴れるテーハンへの憤りが国内には広がっている。
当然だが、こんな状態では半島からやって来る難民の扱いなど分かり切ったものだ。
「さすがに対馬に来る者は居ないだろうが、隠岐や敦賀、新潟に流れ着く者が居るらしいですな。漁場を荒らしまわった相手と知ればどうなるか・・・」
戦争での話もあるが、何より大きいのは機船となって沖合に出るようになった漁船が海賊の襲撃を受ける事件は良く起きていた。未だにゼロにはなっていない。北部山岳地帯のアヘン工場を完全には潰しきれておらず、溢れかえっていた武器の回収も満足には進んでいない。
そのせいでテーハン州内では厳戒態勢が敷かれ、テーハン人を追い出した安全地帯でしかロシア人は生活していないのだと言うから恐ろしい。
ロシア人に日本人とテーハン人の見分けなど付かないだろうが、どうやら、厳格に入域規制をしている事で何とかやりくりしているという。
そんなテーハン情勢が横たわる中で、もう一つ衝撃的なのは米国だった。
「米帝が遼東地区に逃げ込んだ鮮人を奴隷にしているらしいですぞ。かの地には咎める者も居らず、なにより、テーハンへの感情を考えれば、『奴隷として人間的に』使役されているだけ人道的とさえ言えますが」
と、どこか呆れたように言う伊藤さん。
まあ、日本へ流れついた難民の扱いも相当酷い事を考えると、さもありなん。
そう言えば、大陸商人がここぞと人攫いに入っていると警備隊でも噂を聞いている。
ちなみに、ロシアによるテーハン併合の結果、海賊行為が著しく減少したので海上警備隊は日本海に張り付いた警備活動からより広範囲で活動する海上救難を始めている。
北方での漁業管理、内海での航路管理、済州島や対馬での入管、税関支援業務もある。
黄海における海賊対処も皆殺しから拘束へと変化している。米艦が素直に従っている訳ではないという事情はまあ、置いておいての話だが。
そんな話をしながら、新たに加わった二人を呼ぶ機会を設けた。
平賀さんはもちろん、同類だった。
「三連装砲がこんなに早く実用化されているのはビックリしましたが、そうであるなら、大和型を基準としたコンパクトで重防御の戦艦を今から作っていきますよ」
と話してくれた。
どうやら、彼曰くの違法建築は正規の建造物として形を整えているという。
「まだまだ溶接がモノになる訳ではないので工程も多く、重量も嵩みますが、史実の扶桑型よりコンパクトに軽量に、それでいて安定性のある船に仕上がる事でしょう」
と言っている。
「しかも、史実より計画が早まり、起工も今年行う事が出来るようなので、第一次大戦に2隻を間に合わせることが可能です」
と言う。
そして、権兵衛さんを見る。
「はい、テンプレという奴です。英国に派遣して大海戦に参加する。もちろん、お考えでしょう?」
なるほど、分かっているらしい。
「海上警備隊も船団護衛を行う部隊としてうってつけですからね」
と、俺も付け加える。
そして、もう1人、乃木保典さんを見た。
「陸軍の派兵も出来ればやって欲しいですね。父を指揮官として私自ら向かおうと考えております」
そういえば戦術はどうなったのかと思ったが、擲弾筒や迫撃砲、更には機関短銃まであるので、その兵器類をベースに戦術を構築すれば問題ないという。
「今後の陸軍はこうした遠征軍としての役割が主体となると思います」
ちょうどこの頃に起きた辛亥革命にどう対応するのかを問うてみた。
俺としては一つの中国は怖いので分裂してほしい。
「殿下、それが最善かと。孫文を支援する者たちは後の大アジア主義者らが居りますが、東亜が団結して西欧に対抗するなど、21世紀にも出来ていない代物です。なにより、そのためには東洋におけるルネサンスが必要ですが、残念な事に中華思想が全く宗教改革されずに残されている以上、無理というもの」
と、伊藤さんが言った。
中華思想には上下関係はあっても対等な関係や契約の概念といったモノがなく、横のつながりではなく誰かを頂点とした支配体制しか成り立たないという。
大アジア主義でも結局は日本が盟主的なものであったし、21世紀の中国の台頭と言われるモノも19世紀的な帝国主義などですらなく、紀元頃の中華大陸のソレ。三国志の時代から先へ進んではいないだろうという。
「そもそも、中華『民国』とは名乗ったものの、民は単に皇帝ではないという記号でしかなく、専制や独裁から離れた政治体制は確立できておりません。彼らは理解していませんし、キリスト教的な民主主義が根付くとも思えませんな。まあ、実は日本もそうなんですが」
と、苦笑いする。
結局、満州もなく、大陸権益が史実の様に存在しない事もあって、政府としては英国に付き従っても問題ないと考えている様だ。
「さて、では、アレですかな」
この世界、史実には無かったものがいくつもあるが、今一番の話題は日米安保であろう。
もちろん、史実戦後のそれとは中身がまるで異なる。
「日英同盟にくさびを入れる目的もあるのでしょうな」
という権兵衛さん。
日英同盟がつつがなく改訂されそうである。
ただし、米国を敵国対象から外すという項目が付加された。
そして、米国が日本に安全保障条約を持ちかけて来た。
何の安全かというと、遼東半島防衛に関するもので、極東で戦争が起きて米国権益が侵される場合、日本もその防衛に参画するというものだった。日本に何のメリットがあるのかよく分からないが、たしかに、解釈次第では、日本にある米国権益を守るという大義でもって、日本は米国の庇護を受けられるという事になる訳だ。
「しかし、拒否る理由もないではありませんか」
乃木さんもそう言う。俺も大きなデメリットが無いなら容認できると思う。
「日英同盟への警戒ではあるでしょうが、かと言って、米英が戦う場面も考えられませんし、これといった不都合は当面ないでしょうな」
権兵衛さんも結局はそう締めくくった。