第13話 悲壮な覚悟
ブログの方で明言しましたが「終末世界の英雄譚」を再開いたします。
1次、2次小説に取り組むも長年コメントどころかまともに評価すらされず、現時点で評価やコメントされた作品に尽力した方が、まだ有意義なのかもしれないと最近は考えていました。
それで3年前になろうにてserumisuさんという方にコメントしてもらったのを思い出し、若干唐突にはなりますが決意した次第です。
作品に目を通していただき、ありがとうございます。
作者のモチベーションと、作品を継続するか否かに関わるため、よろしければ評価、ブックマーク登録、お気に入り等お願いします。
新作にはこの定型文を必ず書き記すようにしていますが、続きを読みたいのであれば、具体的な行動で助けてもらえると幸いです。
またいつ気力が失せるかもしれませんので。
執筆途中の短編を終わらせたいので、不定期更新になります。
鏡の迷宮にて
迷宮の内部は左右をひび割れた土壁に囲まれた、圧迫感を感じる狭い通路が延々と続く。
灯り一つないトンネルのような暗闇の中で佇むと、またもや闇の中から何かが囁いた。
「……ワレノモトへ……コイ……」
(またか、この感覚……薄気味悪いな)
声が聞こえなくなると、迷宮はしんと静まり返る。
(……何か妙だな)
動物の直感が、クロードにそう告げる。
だがその微妙な違和感を言語化するのに、彼は僅かばかり時間を要した。
(……人の遺体が転がってないのはともかく、魔物の気配までしねぇな。どうなってやがる)
人攫いの影響があるとはいえ、冒険者はおろか魔物の気配すらない。
普通は人の出入りが少ないほど、魔物の活動が活発になるのが自然なのだ。
人間がいなければ魔物の個体数は減らず、繁栄していく。
今の状況はそれと正反対の状況が起こっていた。
人攫いの影響が、魔物たちにまで及んでいるのか。
妙な胸騒ぎがして、胸がドクドクと脈打つ。
(……みんなが来るまで、少し調べてみるか)
道なりに進んで二筋道から辺りを見渡すと、無数の緑の光が漂う光景が、クロードの目を惹いた。
オスの蛍のように光が点滅する姿は、光の神を信仰する人々が死に際に見る、死の光と瓜二つだ。
(……この光は)
情景の鮮やかさに見惚れていると、後ろから声がする。
「クロ、遅れてごめん。いつもみたいにかっこよく私を守ってね。私も全力で支援するから」
「お二人、大丈夫ですかね。渋ってましたけど……」
背後から現れたのは、迷宮に慣れているリズとゾフィーの二人だった。
リズは右手に杖を持ち、ゾフィーはいつでも迎え撃てるように弓を構えている。
同時に入っても、迷宮に到着するのに時間差が生じるのはいつものことだ。
「ま、すぐに来るだろ。そんなヤワな奴らじゃねぇしな。それより二人とも、あの光を見てくれ」
「マナ溜まりですか。私、初めて見ましたよ。こんな時でさえなければ、綺麗な光だって思えるのに」
ゾフィーがしみじみと抱えている感情を、ため息交じりに漏らす。
マナ溜まりは魔物の巨大化、凶暴化などを引き起こす、冒険者にとっては迷惑極まりない自然現象だ。
正反対のマナ枯れなる現象が起こることもあり、マナ枯れの地は生物が寄りつかない死地と化す。
マナというものは多すぎても少なすぎても、周囲の生物に害を及ぼすのだ。
「ゾフィーちゃんが最後に訪れた時から、ああなの?」
「いえ、以前はマナ溜まりなんてありませんでした。なんで? 魔法を使う人間が減って、マナの消費量が少なくなったから?」
「ううん、マナはそう簡単に一か所に溜まらないよ。マナの性質を考えたら、ね」
ゾフィーの疑問に、リズが答えた。
魔法学校では魔法の原理を学ぶ過程で、魔法の三要素についての基礎知識をみっちり叩きこまれる。
この手の話は、彼女の得意分野だ。
「マナの濃度は、常に均一に保たれる働きがあるの。でないと、大陸のどこでも魔法が撃てる説明がつかないでしょ? かのマナ枯れの地もリンドムート様が、極大のマナ爆発を起こして……」
「そ、その話、長くなりますか?」
「話そうと思えば、一時間くらいはできるけど」
「えぇっ?! 勘弁してよ。天然だなぁ、リズちゃんは」
苦笑しながら、ゾフィーはリズと話をしていた。
「要約すると、何らかの理由で迷宮一帯のマナが増大してるってことだよな。リズ」
「そう言いたかったの。クロは賢いね」
「でも、なんでマナ溜まりなんて。原因はいったいなんなのでしょうかね」
ゾフィーが不思議そうな顔で光を見つめる横で、クロードは自らを死神と称する女を思い出す。
迷宮に細工を施したのが彼女の一味だとすれば、合点がいく。
「緑の光と夜の鬼火、ってやつね。慎重にいきましょう」
「……魔物が強くなる現象でしたね。失踪した62人、生きていても無事に帰ってこれるかどうか」
ノーラは迷宮にやってくるや、危険なものに近寄るな、という意味を持つことわざを口にする。
彼女と同時に到着したアイクは、その場にいた全員が誰もが想定したであろう考えを、ぼそりと呟いた。
彼が何の気なしに放ったであろう一言は、クロードには残酷に聞こえた。
ゾフィーが自らを鼓舞して振り絞った気力が、蠟燭の火に息を吹きかけるように、あっけなく消えたりしないか。
クロードには、それが気掛かりだった。
「めったなことを言うもんじゃない。まだ生きてる可能性だって……」
「いいんです。どんな結果であっても、ありのまま受け入れるつもりですから。なので、いがみあうのはやめてください」
クロードが彼に注意すると、他でもないゾフィーが遮る。
まだあどけなさが残る少女が抱えるにはあまりに重い、悲壮な覚悟を背負って、彼女はここまで来た。
胸の内を知ったクロードは
(俺より年下の子に、こんな思いさせやがって。あのクソ女の横っ面をぶん殴ってやらなきゃ、気が収まらねぇ……)
拳を握り締め、クルトゥーラへの憎悪をたぎらせる。
「傷つける意図はなかったんだ。気分を悪くしたならすまねぇな」
「ゾフィーさん。きっと大丈夫だから。大丈夫」
静かな迷宮内に、アイクの謝罪とリズの根拠のない大丈夫が虚しく響く。
彼女は失踪者を探すと、心に誓ったのだ。
使命を投げ出した先に待つのは、無限とも思える苦痛。
打倒魔王の理想を、一度捨てた自らが通った道だからこそ、自分のことのように心が痛む。
「ウルゼルのご両親も、アスプリアンさんの奥さんとお子さんも、みんな悲しんでます。私だけが不幸だなんて思いません」
「ゾフィーちゃんは強いな。でも無茶は禁物だよ。俺は生死不明の人たちより、生きてるゾフィーちゃんを優先するからね」
「はい、クロ―ドさん」
ゾフィーが気丈に微笑むと、クロードもつられて笑った。
彼らの生死を見届けることを、彼女も望んでいる。
自分にできるのは、彼女の力になることだけだ。
決意を新たにして仲間を見遣ると、ノーラが心ここにあらずといった様子で呆けていた。
いつも人に注意をする立場の彼女にしっかりしてもらわないと、示しがつかない。
「ノーラ、真面目な話してんのに、どうしたんだよ。ちゃんと俺らの話を聞いてんのか、緊張感ねぇぞ」
クロードが呆れて物申すと
「ねぇ、何かが跳ねるような音が聞こえない?」
「バカ言ってんじゃねぇよ。こんな所で誰がそんなことするんだ? さっき俺が変なこと口走ったから、やり返してんのか?」
「嘘だと思うなら、静かに耳を傾けて。あっちから音がしたから」
実直な彼女が、人を小馬鹿にした嘘をつくとは思えない。
彼女に言われた通り、指差した方角に聞き耳を立てると、ドンドンドン、グシャリグシャリ……小気味よい音がクロードの耳に届く。
物音に気がついた一行に緊張が走ると、各々が腰を低くして武器を取った。
今後の拙作「異世界のジョン・ドウ 〜オールド・ハリー卿にかけて〜」は、noteにて有料販売を考えています。
「終末世界の英雄譚」も12万文字に到達した場合は、有料でサービスの提供予定。
執筆作業に多大なる労力を割き、それに見合わない評価、コメント数に疲弊したのが最大の原因です。
ならば金銭的な対価を払ってくださる方々のみに提供するという考えに至った次第。
ご理解ご協力のほど、お願いします。
作品に目を通していただき、ありがとうございます。
作者のモチベーションと、作品を継続するか否かに関わるため、よろしければ評価、ブックマーク登録、お気に入り等お願いします。




