第91話:黒田、推される
無事に私の体調が回復する頃、学園の終業式が行われ、帰省する準備に追われていた。
「ポーラ、こんなにも服は必要かしら。もう少し減らしてもいいんじゃない?」
専属メイドのポーラとルビアが手伝ってくれているため、今は一緒に荷作りをしている。
しかし、なぜかルビアが主導権を握っていて、ムッとした表情を向けてきた。
「ダメだよ。お姉ちゃんは公爵家の長女なんだからね。これくらいは必要なの」
「二週間もかかるとはいえ、毎日新しい服を着るわけじゃないんだし……」
「着なきゃダメ。せっかく私服でアピールするチャンスなんだから、貴族らしくリッチにいかないと」
険しい表情を浮かべるルビアを見れば、言いたいことくらいは手に取るようにわかる。それが双子というものだから。
この場合の私服でアピールというのは、公爵家として、恥じぬことはできないという意味で間違いない。
決して、騎士として同行するグレンにアピールしなさい、なーんて意味ではないだろう。
フラスティン家は王都から離れているため、途中で街や村に立ち寄り、お金を落とした方が喜ばれる。つまり、帰省するときは周りに見られることが多いので、模範的な行動を取らなければならないのだ。
妙に可愛い私服ばかり詰め込まれているのも、ファッションリーダーになれ、ということだろう。都会の情報に疎い村の女の子たちに見せびらかし、憧れる存在になることで、私がみんなに夢を与えるの。
私もあんなお嬢様が着る洋服がほしい、それが裁縫師を目指すきっかけになり、人材が育成される。
やっぱり聖女に選ばれるルビアは違うね。知らないうちにどんどんと成長していくんだもの。
少し恥ずかしい気もするけれど、これも公爵家の仕事の一つ。実家に帰るまでは、再び完璧なクロエとなり、スーパークールに過ごすわ。
「ルビアがそこまで言うなら、頑張ってみる」
「お姉ちゃん……。ようやくわかってくれたんだね」
「当然じゃない。高熱から復帰して、すっかりリフレッシュしたんだもの。完璧にやってみせるわ」
「そっか。じゃあ、色々とお土産話、期待してるね!」
「……わかったわ。任せてちょうだい」
一瞬、お土産話という言葉の意味が理解できなかった。実家に帰るだけであり、道中は貴族らしく過ごすだけなのだから。
でも、嬉しそうなルビアの顔を見れば、すぐにわかったわ。だって、私たちは双子なんだもの。
お土産といったら、間違いなくお菓子よ。フラスティン領で新しくお菓子屋さんができていたら、その情報が欲しいのね。
もう、ルビアったら。食いしん坊なんだから。
実家に帰るだけなのにもかかわらず、洋服だけで旅行バッグが二つもパンパンになってしまったが、必要なものと割り切ろう。
「ところでポーラ。護衛の手続きは大丈夫だった?」
冒険者に依頼を出したとは聞いていたけれど、なかなか話が難航していたらしい。二週間も拘束される護衛となれば、人が限られるのも無理はないだろう。
ましてや、公爵家の護衛なのだから。
「何とか間に合った、という感じでしょうか。希望者が殺到しまして、冒険者ギルドのギルドマスターに協力していただき、適任者を選別しました」
「ごめんね。ちょっと意味がわからないわ。もう少し詳しく話してちょうだい」
希望者が殺到とは? いくら金払いがいい貴族とはいえ、護衛は面倒な仕事の一つのはずよ。
「貴族依頼が受けられるBランク冒険者以上を指定したのですが、倍率が約五十倍になりました。クロエちゃんは俺が守るんだ、という方が多く、選別がとても難しくて――」
「もういいわ、ありがとう。聞かなかったことにする」
この世の中、聞いてはいけないこともあると悟った。ルビアが適当に言っているのかと思っていたが、本当にクロエファンクラブが学園の外部に存在したのだ。
推し側から推される側の人間になるなんてね……。世の中わからないものだわ。




