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悪役令嬢に転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、溺愛されたみたいです  作者: あろえ
第三部

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第88話:黒田、デートに動揺する

 デート計画を押し付けられた私は、行きつけのケーキ屋さん『フクロウの休日』の前でソワソワしながらアルヴィを待っていた。


 どうしてこうなったのかしら。アルヴィとは両想いで間違いないと思うけれど、恋愛は自分たちのペースで進むものであって……。


 緊張で早くもモジモジしていると、アルヴィの姿が見えたので、ビシッと背筋を伸ばす。


「わ、悪いわね。学園が休みの日に付き合ってもらっちゃって」


「全然大丈夫ですよ。クロエ様から声をかけていただけるとは思いませんでしたが」


 すぐに私の体温が上昇してくるのは、アルヴィをデートに誘うというハードルの高い行為をしたからである。


 ルビアにバンバン背中を押され、逃げられない状況を作られ、勇気を振り絞って声をかけたのだ。


 今度の休みにケーキでもどうかしら、と。


 よって、思い出すだけでも恥ずかしい。


「ちょっとルビアの都合が悪くなって、ケーキ仲間がいなくなったのよ。べ、別にルビアの代わりっていうわけではないのだけれど。ほらっ、アルヴィも甘いものが好きじゃない? せっかくならと思って」


 とても早口になるくらいは必死である。


 これはデートであってデートではない、そんな気持ちでいないと、黒田を制御できそうになかった。


「甘いものでなくても、クロエ様と一緒なら、どこでもお付き合いしますよ」


 ずっきゅーん! と早くも黒田の心にクリティカルヒットが叩き込まれる。


 伯爵家とはいえ、アルヴィも貴族であり、恥じらいなく褒めるのはお手のもの。これは日常の挨拶みたいなものであって、真に受けてはならない。


 貴族が女の子を褒める文化がある以上、ここは冷静に対応するべきだ。


「私服のクロエ様は大人っぽいですね」


 しかし、畳みかけるようにアルヴィが褒めてくる。


 ニヤけてしまいそうな表情筋を引き締め、しっかりと立ち向かおう。


「そうでもないわ。今日はあまりオシャレをしてきていないもの」


 平然とした顔で私はこんなことを言っているが、恐ろしいほど気合いの入ったオシャレをしていた。


 ルビアとポーラに連れられ、王妃様の元でめちゃくちゃ丁寧に仕上げてもらっているから。


 お風呂でデトックスから始まり、お肌がツルツルになるエステがあり、服までオーダーメイドで白のフリフリワンピースを用意してもらった。


 すでにデートの準備だけで五時間近くかかっており、過去最大にオシャレモードである。


 途中で昼ごはんもなかったけれど、ルビアが怖すぎて言えなかったのよね。「お姉ちゃんはお腹を空かせて行った方が可愛くなるの」と、意味不明な理由で押しきられたのだ。


 体育館倉庫に閉じ込められたとき、空腹で恥ずかしい姿をアルヴィに見せているだけに、その可能性はないと思うんだけれど……本当にルビアが怖くて言えなかった。


 よって、アルヴィとのデートがなかったら、空腹で地面に横たわっているだろう。普通に話せるだけでも奇跡である。


 なお、予行練習としては、アルヴィも私服がカッコいいわね、とさりげなく伝えて、良い雰囲気を出すはずだった。しかし……ぐぬぬっ、私服姿のアルヴィが可愛くて、言葉が出てこない!


 早くもぎこちないことを認識しながらも、予約していた『フクロウの休日』の店内に入っていく。


 個室に案内されてアルヴィと向かい合うと……、どうしよう。良い雰囲気の部屋でアルヴィと二人きりになってしまった。


 デートだから、当たり前なのだけれど。


 想像以上のプレッシャーとアルヴィの可愛さにやられ、早くも会話が思い浮かばない。


「注文はどうされますか?」


 そして、誘っておいたにもかかわらず、リードしてもらっている。


 いや、まあ、殿方にリードを譲るのも、それはそれでマナーみたいなものだから、これはOKだとしよう。


「今日は予約の段階で注文してあるの。すぐに持ってきてくれると思うのだけれど」


 正確にいえば、ルビアが予約を取り、予め注文してくれている。何を注文したかは聞かされていないが、『フクロウの休日』だったら、十中八九ケーキだろう。


 早く持ってきてほしいなー、と思っていると、部屋をノックした後に店員さんが入ってきて、予約注文していたであろうケーキとドリンクを持ってきてくれた。


「こちら、カップル専用のスペシャルセットになります」


 にこやかな営業スマイルを決めた店員さんが置いていってくれたのは、幸せオーラ全開のケーキセットだった。


 スポンジケーキがハート型になっているだけでなく、盛り付けられているチョコやイチゴまでがハートの形をしている。ピンク色の生クリームでラブラブ度を上昇させ、一つのケーキを二人で分け合うようなスタイルだ。


 さらにカップル専用ということもあり、ドリンクが一つしかないにもかかわらず、ハート型のストローが一本しか差さっていない。


 途中で枝分かれてしていて、二人で飲めるようになっているのだが……、見つめ合って飲め、とでも言うのだろうか。


 ……聞いてない。こんなの聞いてないわ! 私が注文した空気になってるし、何とか誤魔化さないと!


「る、ルビアと一緒だと食べられないから、せ、せっかくなら食べてみたいなと思っただけよ。深い意味はないの。とても浅いわ。足湯くらい浅いの」


 どうしよう、完全にクロエムーブが消失し、オタクの黒田が出てきている。制御不能すぎて、意味不明な言い訳をしてしまった!


 デートととかカップルなどという言葉が脳内を占拠して、黒田の制御が効かない!


「僕は大丈夫ですよ。ちょっと恥ずかしいですが」


 許可が下りても困る。許可が下りなかったら、もっと困ったけれど。


 どうしよう。パニック状態に陥るものの、空腹の黒田を抑える術がなく、心の中で暴走しかかっている。


 ここまで来たのなら、吹っ切れて過ごした方がいいのではないか、と。

 嫌々食べていると思われた方が、悪い印象を与えるのではないか、と。


 これは、アルヴィと結ばれるチャンスなのではないか……と。

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