第87話:黒田、恋愛は赤点を取っていたみたい
期末テストが無事に終わり、何とかルビアが平均点を取ることに成功すると、いよいよ夏休みがやってくる。
恋愛イベントが豊富な夏休み……と言いたいところだが、私にもやらなければならないことがあった。
「ポーラ、グレンのことは聞いてるわよね?」
王国の騎士団からフラスティン家の騎士になるためには、正式な手続きが必要になる。今は王妃様の命令によって、グレンが私の護衛騎士として過ごしているだけにすぎないのだ。
だから、寮の部屋で資料を確認していたのだが、やっぱり王都だけで処理するのは難しい。
「はい。旦那様には手紙でお知らせしましたが、やはり実家に帰省しなければならないかと」
「それが普通よね。王妃様が推薦したとはいえ、お父様が認めない限り、正式に騎士として迎え入れられないもの」
ゲームであれば、サクサクッと進んで回想だけで終わるのだが、現実はそうもいかない。原作には登場しなかったお父様にお会いして、当主の判断を仰がなければならなかった。
クロエの記憶だと、頑固親父で怖いイメージがあるだけに、ちょっと不安になる。
「学園でのご活躍は、旦那様に連絡しております。遅かれ早かれ、クロエお嬢様の護衛騎士は必要になっていたでしょう。いいタイミングだったと思いますよ」
「私としては、完全に予想外よ。まさか夏休みに実家へ帰ることになるなんて、夢にも思わなかったもの」
夏休みにジグリッド王子とルビアの恋愛イベントがあることを考えれば、ここで実家に帰省するわけにはいかない。
何とか二人をサポートして、ラブラブな展開に結び付けたいのだ。
何か良い作戦はないかなーと考えていると、ポーラが申し訳なさそうな表情をして、私の顔を覗き込んできた。
「そのことなんですが……」
「どうしたの?」
「実は、ルビアお嬢様より指示をいただいておりまして、すでにこちらの方で帰省の準備を進めていました。ですので、帰省しないという選択肢はないかと」
不穏なことをポーラが口にした、その時だった。部屋がノックされ、狂気に満ちた表情でルビアが入ってきたのは。
「お姉ちゃん。恋愛の科目、赤点だよね……?」
どうしよう。期末テストの勉強で厳しくやり過ぎたかしら。冷や汗がダラダラと出てくるくらいには、ルビアが怒っている。
これは、絶対に逆らってはいけないやつよ!
「る、ルビア? えーっと、テストに恋愛の科目は、な、ないんじゃないかしら」
「跡継ぎを考えるのも、貴族の役目だもん。恋愛音痴には、補習が必要だよね……?」
「そ、そう? 私は順調と言いますか、十分に幸せな生活を送っていると言いますか――」
「補習、必要だよね……?」
「はいぃぃぃ」
逆らえない。略奪するときに見せるメンヘラルビアよりも怖い。
これもオリジナルルートの影響だろうか。恋愛催促属性を持ち始めたルビアが誕生しているのよ。
姉とは思えないほど、しゅーんとなった私は、一枚の計画書を渡される。そこには『アルヴィデート計画』という文字が書かれていた。
「じゃあ、実家に帰省する前に、アルヴィくんとデートしてこようか」




