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悪役令嬢に転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、溺愛されたみたいです  作者: あろえ
第二部

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第80話:黒田、原作と現実を比較する

 思い詰めたようなルビアを見て、私はすぐに問い詰めた。


「ライルードさんの呪縛、小さくなったんじゃなかったの?」


「うん、うまく抑え込めていたはずだよ。騎士団遠征が始まる朝にも様子を見に行ったもん」


「じゃあ、どうして……」


「わからない。夕方になってから急に悪化したって今連絡が来て、戻るように指示をもらったの。でも、私一人だと不安だから、お姉ちゃんにもついてきてもらいたくて」


 連絡が来たということは、王妃様の近衛騎士が馬でやってきたのね。呪縛の件は極秘扱いだし、原作でもそうだったもの。


 ただ、どうしても納得できないことがある。急速に進行したライルードさんの呪縛が何を意味するのか、サッパリわからない。


 ルビアは嘘をつく子じゃないし、間違いなく治療はうまくいってたはずよ。


 どちらにしても、このまま放っておくわけにはいかないわね。早くライルードさんの元へ行って、ルビアに治療してもらわないと。


 もどかしい気持ちを抑えて動き出そうとしたとき、ジグリッド王子が険しい表情をしていることに気づく。


「クロエ嬢、ルビア嬢。焦る気持ちはわかるが、もう少し周りをよく見て話すべきだったな」


 ジグリッド王子が一本の樹を見つめると、その影から一人の騎士が姿を表した。


 ライルードさんの息子であり、知らされてなかったであろうグレンである。


「呪縛とは……何のことだ?」


 混乱したグレンは、明らかに動揺していた。ジグリッド王子も危険だと思ったのか、ゆっくりと近づいて、たしなめる。


「落ち着け、グレン。今までお前に知らせなかったのは、本人の希望だ。これはトリスタン王国の秘密事項にも該当する」


「親父が死にかけてると聞いて、どうやって落ち着けと言うんだ? 同じ立場だったら、ジグリッドは落ち着けるのか?」


「……そうしなければならない。万が一のことがあったとしても、俺たちにやれることはないだろ」


 歯を食い縛ったグレンは、ジグリッド王子の胸ぐらをつかむ。


「やめて。ジグリッドくんが悪いわけじゃないよ」


 必死にルビアが仲介に入るが、決して良い雰囲気とは言えなかった。


 ここまでグレンが取り乱すのは、ジグリッド王子が剣術大会に出場せず、決勝で戦っていない影響が大きいだろう。オリジナルルートを通った影響で、二人は王子と騎士の関係ではなく、友人関係のままで進んでいるから。


 それなら、どうしてライルードさんだけは原作と同じルートをたどっているの? ゲーム内でもハッキリと延命治療と表記されていたし、ルビアの回復魔法は確実に効果があったはずよ。


 王妃様にも協力してもらっていたし、早期治療で改善していたのに。


 仮に悪化させようと命を狙う人がいれば、呪縛をかけた組織の人間だろう。でも、放っておけば呪縛で死ぬライルードさんを、改めて組織が狙う必要はない。


 何かが変だわ。原作をプレイしてきたからこそ、確実におかしいと断言することができる。でも、肝心の呪縛を悪化させている原因がまったくわからない。


 一触即発のジグリッド王子とグレンから目を背けて、天を仰ぐように見上げれば、いつしか輝く星空が消えかけていた。


 星が黒く塗られ、顔を出していた月も形が崩れ、異様な光景が目に飛び込んでくる。


 世界が違うとはいえ、この世界の月蝕は不気味ね。暗い夜すらも闇に侵食されるみたいで、足がすくむほど怖いもの。


 魔力濃度が高まるだけでこんな光景になるなんて……ん? 魔力濃度?


 私の中でいま、何かが引っかかった。直感に近いといった方がいいかもしれない。


 もしかして、月蝕で呪縛の効果が高まったんじゃないかしら。治療が上手くいっていたとしても、月蝕が増幅装置のように働けば、苦しめられることにも納得がいく。


 呪縛の大きさは変えられたとしても、月蝕の時期だけは変えることができない。それなら、原作通りに進んでもおかしくはない。


 光が届かない時間にもっとも呪縛の影響を及ぼすとしたら、闇魔法の系統かしら。


 それなら……聖魔法が有効な気がする。そして、オリジナルルートを通ったからこそ、最大限に聖魔法を引き出す手段もあった。


「ルビア、私も一緒に戻るわ。二人で聖魔法をかければ、呪縛に効果があるかもしれない」


 原作では、ルビアとクロエが共同で魔法使うことは一度もなかった。二人が魔法を使えるようになる時には、姉妹の仲に亀裂が入っていたから。


 でも、この世界では違う。ルビアとの姉妹関係は良好で、協力して魔法をかけることができる。


「どういうことだ? 二人で魔法を使ったからといって、結果が良くなるようなものでは……」


「わかった。お姉ちゃんが言うんなら、そうなんだと思う。アルヴィくんのときもそうだったもん」


 ルビアが言いたいのは、暗殺襲撃事件のときのことだろう。アルヴィが刺されたナイフに塗ってあった毒の成分を、私は解析せずに言い当てている。


 でも、あれは原作で記載されていたことで、正解だと断言できた。今回は、原作と現実との違和感から推測したものであって、確証はない。


「助けられる可能性が出てきただけにすぎないわ。急いで向かいましょう。グレンも付いてきなさい。詳しい話は道中で説明するわ。……グレン?」


 突然、親を看取らなければいけなくなったグレンは、心の整理がついていないんだろう。うつむいて唇を噛み、動けないでいた。


 気持ちはわからないでもないけれど、ライルードさんはグレンの名前を呟きながら死ぬ。無理やりにでも連れていった方が、互いに後悔しないと思う。


 今は優しい言葉をかけて心のケアをしている場合ではない。そう思ってグレンの手を取ろうとしたら、ジグリッド王子がグレンの胸ぐらをつかんだ。


「クロエ嬢が王都へ帰るのに、護衛が必要になる。ライルードみたいな騎士になりたいなら、何も考えずについてこい。俺も一緒にいく」


「……悪い」


「気にするな。昔から俺とお前とこういう関係だ」


 やっぱりグレンにとって、ジグリッド王子は特別な存在なのかもしれない。浮かない顔をしているものの、目はしっかりと前を見据えていた。


「じゃあ、まずは近衛騎士と合流しましょう。王都へ戻るためにも、馬を借りる必要があるわ。ルビア、案内してちょうだい」


 うんっと頷くルビアと共に、私たちは暗い夜道を進んでいくのだった。

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