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悪役令嬢に転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、溺愛されたみたいです  作者: あろえ
第二部

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第72話:黒田、もどかしい気持ちになる

 ライルードさんの状態が気になった私は、治療するルビアと一緒に王城へと訪れていた。


「騎士団に入らないか?」


「ごめんなさい」


 剣術大会で優勝した影響もあって、ライルードさんに嬉々とした表情で勧誘されてしまう。当然、答えはノーである。


 貴族令嬢の私が命懸けで戦えるはずもないし、治療師として活動する方が合っていると思う。


 慣れた動きで治療を始めるルビアは、テキパキと動いていた。


 これも略奪愛システムの影響なのだろうか。私がだらしない姿を見せるほど、ルビアがしっかり者に成長している気がする。


「呪縛はどうなの?」


「うーん、最近は変化ないけど、小さくはなってるかなって感じだよ。なんかね、鍵穴に鍵が合わないような感じで、うまくいかないんだよね」


「小さくなるだけすごいじゃない。私は鍵穴すらわからなかったもの」


「うーん、どうしてなんだろうね。私よりもお姉ちゃんの方が回復魔法は上手なのに」


「魔力量の問題だと思うわ」


「そうかな。あまり魔力を使ってないんだけど」


「ルビアの魔力量と比較されても、当てにならないわよ」


 実際に計測して比較したわけではないが、ルベルト先生の言葉を参考にしたら、数倍は違うだろう。双子とはいえ、主人公には勝てない仕様になっているんだと思う。


 ケロッとした表情で首を傾げるルビアを見ると、ちょっと悔しいけれど。


 主人公に勝てるはずもないか、と思い直した私は、ライルードさんと向かい合う。


「ところで、騎士団遠征にライルードさんは来ないんですか?」


「わざわざ騎士団長が足を運ぶほどのものでもあるまい……と言いたいところだが、遠出は避けたい。下手に動いてしまえば、部下たちに気づかれるだろう」


 ルビアの治療がうまくいったとしても、やっぱり痛みを伴っているのかもしれない。騎士団の訓練には参加してるから、夜に痛むのかな。


「そう……。その間はルビアが治療できないから心配ね。同行してくれるのなら、向こうでも治療ができると思っていたのだけれど」


「気にしないでくれ。十分に治療してもらっている。少しくらい治療を受けんでも、死ぬようなことはない」


 不吉なことは言いたくないが、原作では、騎士団遠征中に訃報が届いていた。延命治療がうまくいってるのなら、まだまだ生きていられるとは思う。


「仮に死んだとしても、クロエ殿のおかげで未練はない。あいつはもう、騎士の道を歩む覚悟ができた」


 こういう素直になれないところが、息子のグレンにそっくりだった。


 原作では、グレンの名前を呟きながら息を引き取った、そう書かれていただけに、歯がゆい気持ちになる。


 死の運命は変えられなかったとしても、せめて、グレンが看取ってあげてほしい。さすがにそんなことは言えないけれど。


「……騎士として、まだ彼に教えることもあると思いますよ」


「天から見守るのも悪くはないだろう」


「地上で見た方が見ごたえがあります」


「フッ。見られるに越したことはないが……高望みするには、あまりにも小さい手だ。老兵の命など、背負うものではない」


 そう言ったライルードさんは、治療するルビアの手をチラッと見た。


 やっぱり筆頭騎士になるような人は、周囲のことも考えられる人なんだろう。呪縛で死を迎えたとき、ルビアが背負わないように配慮してくれているのだ。


 あくまで延命治療であって、死の運命を変えるものではないことを、ライルードさん自身が一番わかっているのかもしれない。


「すいません。色々と軽率でした」


「いや、十分にいい夢を見せてもらっているよ」


 にこやかな表情を向けてくれるライルードさんからは、出会った頃のような切羽詰まった雰囲気はなかった。


 本当に未練はないのかもしれない。そう思いながら、ルビアの治療を見守るのだった。

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