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悪役令嬢に転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、溺愛されたみたいです  作者: あろえ
第二部

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第59話:黒田、たぶんモブキャラと対戦する

「これより剣術大会を始める」


 多くの住民が押し寄せた会場は、ワーワーと盛り上がっている。関係者席には王妃様やジグリッド王子がいて、多くの騎士団員たちが見守っていた。


 いつも治療に来てくれる騎士団員をあまり見かけないのは、それだけ上の人しか関係者席に呼ばれていないからである。


 暗殺者襲撃事件でお世話になったドレイクさんと、筆頭騎士であるライルードさん、貴族で騎士のサウルもいるけれど、随分と物々しい雰囲気ね。


 それもそうか。この大会で活躍した者は、騎士団に入団する人が多いと聞く。つまり、エリート騎士の登竜門であるため、実力に自信のある者しか出場しない。


 逆にいえば、無様に敗けたら最後。それ相応の評価をされてしまう。


 そんな今年の剣術大会は、明らかに注目を浴びている人物がいた。もちろん、悪い意味で、である。


「どうして貴族令嬢が出場しているんだ」

「えっ? 付き添いじゃないの?」

「たまにいるよな。目立ちたがり屋の我が儘貴族」


 そう、ゴスロリファッションに身を包む、出場選手の紅一点、クロエこと私だ。


 剣術大会において、貴族の地位など関係ない。この場所は強さこそがすべてであり、無礼などとは思わない。実力で黙らせればいいだけの話である。


 だって私は、秘密兵器黒田なのだから。


「いやー、クロエくんは目立ってるね」


「今日はちょっかいを出さずに応援しなきゃダメよ」


 どうしよう、一番来てほしくなかったルベルト夫妻の声が耳に入ってきた。


 勝っても負けてもいじられることは必須であり、今まで内緒にしてきたのに。うぐぐっ、ルビアには口止めしておいたけれど、騎士から情報が漏れたのね……。


 ちょっぴりやる気を阻害されながらも、剣術大会の開会式が進んでいく。


 といっても、大勢の観客は戦いを見に来たわけであって、話を聞きに来たわけではない。簡単な試合の説明と、組み合わせが発表される程度だった。


「これより第一試合を始める。クロエ・フラスティンと、ガウル・バーターの両者を除き、選手は控え室へ戻るように」


 そして、まさかの第一試合が私である。


 初めての公式戦であり、少しは緊張しているが……何も問題はない。全然知らない人が相手なので、モブキャラなのは確定している。


 秘密兵器黒田の相手ではない。


 主催者の誘導に従い、選手たちが引き上げるなか、グレンが私に近づいてきた。


「戦う機会があるのなら、決勝だな」


「去年の覇者は随分と余裕そうね」


「誰かの妹に急かされて、無駄に準備だけはしてきたからな」


 ルビア……。そこはお色気作戦でグレンの気を引き、練習の邪魔をしてほしかったわ。


「じゃあ、決勝で会うことになるわ」


「初戦を突破してから言ってくれ」


 やっぱりつまらない大会だと思っているのか、ため息を吐いたグレンは控え室へと戻っていった。


 当然、剣術大会に人生をかける者もいるため、対戦相手のガウルはグレンの背中を睨みつけている。


 ゴスロリ女は眼中にないのだろう。どうやら彼もまた、一回戦はつまらない戦いだと思っているに違いない。


 この世界にスポーツマンシップという言葉はないのかしら。私は剣道で礼儀を学んだつもりなのだけれど……、モブなら仕方ないのかもしれないわ。


 どのみち負けるつもりはないし、秘密兵器黒田の名前を身に刻むことね。


 早速、剣を構えるガウルは早くも戦闘モードだ。それに対して、貴族令嬢の私は対戦者と審判に礼をした後、剣を構える。


 いよいよ始まるのかという雰囲気になった会場は、先ほどまでのワイワイした空気から一変して、静寂に包み込まれた。


 その空気を察したのか、審判の顔つきが変わる。


「はじめっ!」


 その合図と共に、対戦相手のガウルは突っ込んできた。


 しかし、悲しいかな。顔がタイプではない。


 どうせ剣を交えるなら、イケメンがよかった! よって、手加減など一切するつもりはない!


 歪んだスポーツマンシップを持つ女、それが秘密兵器黒田なのだ。


 サウルとのトレーニングで動体視力を極限まで高めた私は、相手の攻撃のタイミングに合わせて、瞬時に剣を振るう。


「胴」


 横腹にバスンンンッ! と叩き込むと、ガウルは『く』の字になって倒れた。


 やっぱり剣道着って大切ね。ゴスロリ防具で大丈夫かしら。


 いや、剣術大会とはいえ、木刀を使うことに問題があると思うわ。深く入り過ぎて、呼吸が苦しそうだもの。


 会場には治療師が控えているから、すぐに治療してもらってね。


「しょ、勝者……クロエ・フラスティン……」


 頼りなさそうな審判の声が聞こえたが、私はとても満足していた。相手がモブだったとはいえ、初戦を突破するのは素直に嬉しい。


 当然、剣道を学んできた私は、対戦相手と審判に礼をして、舞台を後にする。


 なぜか会場が盛り上がらないことに疑問を抱きつつも、勝ったのだからいいや、と思うことにするのだった。

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