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悪役令嬢に転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、溺愛されたみたいです  作者: あろえ
第二部

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第58話:黒田、場違いな衣装を着る

 剣術大会当日を迎えた私はいま、絶望していた。


 ルビアと王妃様が用意してくれた衣装が奇跡的に間に合ってしまったのだが、なんと、ゴスロリ風のワンピースだったのだ。


 まさかアラサーを迎えて、ゴスロリファッションに挑戦することになるとは……。


 正直なところ、ゴスロリファッションには興味があったし、クロエの姿なら似合わないことはない。着心地も良く、動くやすくもあった。


 でも、大勢の観客を前にゴスロリ姿で登場して、剣を振るう姿を見せるのは、ハードルが高すぎるわ。


 いったいどうしてこうなったのかしら。計測してもいないのに、サイズもピッタリなのよね。


「いいわ! やっぱりクロエちゃんは可愛いものが似合うもの!」


「お姉ちゃん、もっと自信を持って! すっごく可愛いよ!」


「あ、ありがとう……」


 あれだけ意見が割れていたのに、息ピッタリじゃない。あの短期間で何があったのよ。


 これは似合うとか自信がないとかいう問題じゃないの。ゴスロリファッションで剣術大会に出場するのは、場違い感が半端ないのよ。


 王妃様にデザインをお願いした以上、着ないなんて選択肢が取れるわけないし……。いったい誰よ、王妃様にお願いしようと思ったのは!


 私だけれど!!


「じゃあ、私は関係者席に戻るわ。個人的に期待しているわね、クロエちゃん」


「あっ、私も行く。今日はグレンくんを応援するから」


「あら? クロエちゃんを応援してあげないの?」


「お姉ちゃんが勝つと思うから、グレンくんを応援するんだよ」


 などと話しながら、とんでもない二人の嵐が去っていくと、私は控え室にポツーンッと取り残された。


 王妃様が絡んでいる以上、こうなったらゴスロリから逃れられない。色々な意味で邪念を取り払い、精神統一をしよう。


 シーンと静寂に包まれた部屋の中で、ゴスロリは剣術大会に向いている、と謎の呪文を唱えていると、コンコンッとノックされる。


 今は大変ピリピリしているときであり、放っておいてほしいのだけれど、なかなかそうもいかない。


 これでも貴族だから、大会関係者の人が説明に来たんだと思うわ。面倒くさいわね。


 そう思いながらムスッとした表情でドアを開けると、そこにはジグリッド王子とアルヴィがいた。


 すぐさまビシッと背筋を伸ばす私の姿を見たからか、すぐに二人は目線を逸らしてしまう。


 どうしよう。推しに最低な顔を見せてしまった。二人とも顔が赤くなったのは、色んな意味で見てはいけないものを見た影響かな。


「き、綺麗だな。いや、いつもクロエ嬢は綺麗だが。な、なぁ、アルヴィ?」


「えっ? あっ、はい。と、とてもお似合い……ですね」


 まさか、お世辞を言い慣れているジグリッド王子が言葉を詰まらせるなんて。場違い・似合っていない・センスなし、という三連コンボを叩き込まれた感じなのかな。


「やっぱり、剣術大会には変よね……」


 さすがに私は、わかりやすくズズーンと落ち込むことしかできない。だって、明らかにおかしいんだもの。


「そんなことはない! 今日のクロエ嬢は綺麗であり、なおかつ可愛さも持っているよ!」


「そうです! いつもの印象とは異なりますが、クロエ様の魅力を引き出すには、む、むむ、むしろこれくらいでないと!」


 貴族の二人が取り乱す姿を見れば、相当気を使わせていることがわかる。でも、そこまで大袈裟に言われると、黒田は単純な女なので、やる気が出てくるのだった。


「ふふっ。それなら、二人はちゃんと私を応援してね」


「お、おう」


「は、はい」


 必死にフォローしてくれる二人がおかしくて、私はつい笑ってしまった。


 他の観客に何を言われようと、推しの二人が応援してくれれば、それでいいかもしれない。あとは剣術大会で、グレンに力の差を見せつけるように戦うだけ。


 場違いな存在であることは間違いないけれど、それはそれで黒田らしいわ。


 大丈夫。今日まで練習してきた私ならできる。二人の顔を見れて元気も出たし、前世の未練はここで断ちきろう。


 今こそ秘密兵器黒田の力を見せてやるわ!

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