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悪役令嬢に転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、溺愛されたみたいです  作者: あろえ
第二部

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第54話:黒田、剣を構える

 学業も治療院の仕事もなくなる休日を迎えると、私は朝から王城の訓練場へ足を運んでいた。


 大勢の屈強な騎士たちが汗を流し、向かい合う者同士で剣をぶつけあう。その音が鳴り響き、気合いを表すように誰もが大声を張り上げていた。


 まさに力と力のぶつかり合いであり、がむしゃらに気合いだけで戦っているような印象を抱く。


 どうしても可哀想だと思ってしまうのは、体格差のある騎士と打ち合っている人だ。明らかに力負けしていて、押されっぱなしだった。


 そこに、騎士団長であるライルードさんが見回りに来る。


「恐れるな! 己の弱さを知り、強くなれ!」


「は、はい!」


 正直、かなり怖い。剣道の練習で来た私とは、温度差が違いすぎるもの。


 これは魔物や人と命を懸けて戦う剣であり、生き延びるために過酷な訓練をしている。強い魔物と対峙しても、国を守る騎士が引くことは許されないから、あえて厳しく接しているのだろう。


 ライルードさんに声をかけられた騎士も諦めることはない。むしろ、率先して格上の騎士に挑んでいった。


 こんな気迫溢れる彼らの姿を見れば、戦場で対峙したら、私に勝ち目はないと思う。しかし、剣術大会はあくまで競技だ。それゆえ、私に有利部分があった。


 目の前の敵だけに集中する剣道は、どうやって相手の体に一発を叩き込み、一本を取るのか考える。魔物の大群や隣国の軍勢を想定する騎士とは、戦い方が異なるだろう。


 少なくとも私は、何度も剣をぶつけ合い、力比べや体力を削り合う真似はしない。クロエの身体能力と黒田の剣道経験を活かして、心技一体の剣術を使うの。


 だって私は、秘密兵器黒田なのだから。


 そして、騎士の雰囲気に慣れるために、ちょっと良い男サウルが協力してくれている。誰にも邪魔されない訓練場のすみっこで、二人だけの愛の特訓……もとい、剣術大会の訓練に励む。


 どんな訓練をしているのかというと、私のオリジナルトレーニング、黒田の欲望活性法だ。


 仁王立ちする私に向けて、剣を構えたサウルがすごい勢いで突っ込んできた後、ピタッと目の前で寸止めしてもらう。


「本当にこんな練習でいいのか?」


 思わず、サウルが疑問を抱いてくるのも無理はない。でも、ちゃんと付き合ってくれるところが優しい。


 さすがアルヴィのお兄様である。


「大丈夫よ。とても有意義な時間を過ごしているわ」


「やっぱり女心はわからないな」


 本当はちゃんと目的を説明して行いたいのだが……、それは絶対に無理だった。


 ちょっと良い男サウルが猛スピードで突進してきたとき、私は目に焼き付けようと必死でピントを合わせる。これによって動体視力を鍛え上げ、敵の攻撃を見切るという練習なのだ。


 もちろん、私は馬鹿ではない。剣道を習っているときに聞いた言葉を活かし、あえて、このようなトレーニングを行っている。


 貪欲なやつは伸びる。その言葉を信じて、私はイケメンパワーで己の身体能力を活性化させようとしているのだった。


「男性と力で張り合うつもりはないわ。速さで上回るためにも、目をならしておきたいのよ」


「一応、勝つ気はあるんだな」


「そうでないと、わざわざ休日に来ないでしょう?」


「やる気があるなら構わないが、俺も騎士団の訓練がある。午前中しか付き合えないぞ」


「ええ、それで十分よ。感謝しているわ」


 距離を取るために歩き始めたサウルの背中は、騎士の訓練で鍛え上げられていて、とてもたくましい。騎士の鎧をまとっている影響もあり、妄想がはかどるばかりである。


 ちょっと良い男と秘密の特訓なんて、夢のシチュエーションよね。既婚者に手を出す趣味はないし、アルヴィのお兄様といけない関係になるのは、さすがに……。


 などと妄想を繰り広げている間に、サウルが猛スピードで突進してきて、剣を寸止めしてきた。


 なぜ焦らしプレイをされているような気持ちになってしまうんだろうか。開いてはいけない扉が開きかかっている気がする。


「何か感覚でもつかめたか? 口元が緩んでいるぞ」


「え、ええ。トレーニングの成果が出ていると思うわ」


 こんなところ、絶対にアルヴィに見せられないわね。友達の兄に欲情するなんて、本当に黒田はどうしようもない奴だわ……。


「おっ、珍しいな。訓練場にアルヴィが来るなんて」


 どっきーーーん! として振り向くと、そこにはテクテクと歩くアルヴィがいた。


「クロエ様が剣術大会に出ると聞いて、どうしても気になってしまいました」


「まったく、忙しいやつだな。知らないうちに男の顔をするようになりやがって」


 ちょっとその部分を詳しく聞きたいわね。男の顔をするアルヴィが私を気になるということは、恋愛感情を抱いていると認識してもよろしいのでしょうか。


「本当に僕は見に来ただけですよ。気にせずトレーニングを続けてください」


「言われなくてもそうするよ」


 ……えっ? 私、今からアルヴィに寸止めプレイを見られるの?


 それはそれでまた別の扉を開きそうな気もするし、さすがに恥ずかしいわ。本当はやりたくないのだけれど……今回ばかりは仕方ないわね、剣を構えようかしら。


 正確にいえば、剣術大会用に作られた木刀なのだけれど。


「ちょっと待って。次から剣を構えてもいいかしら」


「打ち合うのか?」


「いえ、ちょっと感覚が掴めてきたから、剣を構えたいと思って」


「そうか。良いところが見せられるといいな」


 さりげなくボソッと応援してくるあたり、色々とバレているような気もする。そんなに私って顔に出るタイプなのかしら。


 まあ、良いところを見せたいわけではなく、恥ずかしいところは見せたくないだけだ。


 でも、私が剣を構えたくない理由は別にある。必ずと言っていいほど、珍妙な現象が起こってしまうから。


 距離を取ったサウルと向き合い、私が剣を構えると……、やはり黒田の特性が発揮されたのだろう。明らかにサウルが目を細め、萎縮してしまっている。


 これが黒田は秘密兵器と呼ばれる所以(ゆえん)であり、小学生から剣道を続けさせられた理由でもあった。


 剣の構えは超一流、剣の技術は超三流。秘密兵器と呼ばれた補欠要員黒田は、前世が有名武将ではないかと疑われるほど、剣を持ったときのオーラがすごいのだ。


 昔の剣道仲間たちには、こう呼ばれていたわ。黒田の構え、と。


 そのままではあるのだけれど、全国大会で活躍した先輩ですら、構えだけは黒田に勝てない、と何度も言われていた。


 本物の騎士と対峙してもなお、圧倒させる何かを放っていると証明されたいま、とても複雑な気持ちである。


 個人的な意見だが、知らず知らずのうちに私生活でもこのオーラを解き放っていたことで、私はアラサーでも恋愛経験がなかったと推測した。


 なお、剣を打ち合った瞬間に雑魚だとバレるので、完全にビビり損だ。しかし、剣道というものは、相手の力量を剣の構えで判断するものであって……。


「本当に、勝つ実力があったんだな……」


 などと、すぐにサウルに誤解されてしまう。


「勝負は時の運。剣術大会にならないとわからないわ」


 ひとまず、アルヴィに良いところを見せたくなったお調子者の私は、乗っかることにするのだった。


 雑魚だとバレないように、絶対に剣だけは動かさないことにする。

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