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悪役令嬢に転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、溺愛されたみたいです  作者: あろえ
第二部

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第47話:黒田、推しの属性を見抜く

「グレンは少し関わりにくい子だけれど、何かあればジグリッドに言ってくれればいいわ」


 苦笑いした王妃様は、全責任をジグリッド王子に丸投げした。


 気持ちがわからないでもないと思ってしまうのは、それだけグレンが理解されていないからである。


 この国の筆頭騎士である第一騎士団長の息子で、剣術の才に恵まれたグレンは、大人の騎士と同等の戦闘力を持ち、高く評価されてきた。


 そんな彼と渡り合えるのは、同年代だとジグリッド王子だけだと言われていて、二人はとても仲が良い。


 グレンは一代限りの男爵家であり、ジグリッド王子の方が圧倒的に身分は上になるが……。


「おい、暇だろ」


「いや、お茶会で忙しい」


 絶対に敬語を使わない。一緒にいるときは、いつもじゃれ合っているのだ。


 私としては、この二人が揃うだけでも眼福である。ここだけの話だが、二次創作で二人のBL本が発売されており、すべて三冊ずつ買った。


 現実では……、さすがにその光景は見られそうになく、とても残念である。


 いや、そんなことはどうでもいい。どうでもよくないが、BLの可能性は別の機会に検討しよう。


 なぜなら、原作と展開がズレているからだ。


 暗殺者襲撃事件を受けて、一つ年上のグレンが護衛するのは、ジグリッド王子のはず。学園自体の警備が厳重なので、ほとんど形だけの警備であり、周りに圧をかけることが目的となる。


 当然、グレンも学園の学生であり、護衛するためには……。


「学園での護衛を想定していると思うんですが、彼は二年生ですよね?」


「そこは本人も了承済みよ。グレンは学年を一つ下げることになったわ。ジグリッドも心配だし、適任者は彼以外にいないのよ」


 なるほど。私がメインの護衛対象になっただけで、基本部分は原作と同じなのか。


 でも、一応本人の意思も聞いておきたい。


「単純な疑問なんですが、グレン様は私の護衛で満足しますか?」


「……気にするな、仕事だ。敬語もいらん」


 ふんっと顔すら合わせないグレンだが、不満があるわけではないだろう。単純に、王族に依頼されたから引き受けただけだと思う。


 寡黙な騎士というキャラは、ゲームだとカッコイイけれど、現実だと思ったより圧を感じるわね。本人は何も感情を抱いていなくても、受け手側は嫌われていると誤解しそうだもの。


 ……ルビア、ちゃんと攻略できるのかしら。


 うーん、とルビアのことで私が悩み始めると、勘違いされてしまったのか、ジグリッド王子がグレンにちょっかいを出し始めた。


「今日からクロエ嬢の護衛騎士なんだ。グレンの方が敬語は必要かもな」


「……ふんっ」


 やっぱり顔を合わせてくれないグレンを見て、私は急激に恋しくなってしまう。


 なかなか懐かない子犬を見ているみたいだわ。現実でジグリッド王子とのじゃれ合いを眺めていると、カッコイイよりも可愛く見えてくるの。


 アルヴィとはまた違う可愛さね。早くデレるところが見てみたいわ、えへへ。


 推しのことになると暴走しがちな黒田を押さえ込もうとしていると、突然、部屋の外からワゴンのローラー音が聞こえてきた。


 常人では判断できないと思うが、身体能力の高いクロエの体と食欲旺盛な黒田の欲望により、奇跡的に感知してしまう。


 そう、もうすぐ甘いものがやって来るのだ。なんといっても、メインはお茶会なのである!


「ジグリッド。たまには顔を出せ」


 早くも話が終わったと判断したであろうグレンは、ジグリッド王子を外に連れ出そうとしていた。


 軽く服を引っ張る姿は、じゃれているようにしか見えない。


「いや、まだ話し合いの途中だろう」


「ただの顔を合わせだ。用が済んだ以上、ここにいる意味はない」


 ムッスーとした表情を浮かべているけれど、これはたぶん、あれだ。


 ジグリッド王子に早く遊んでもらいたくて堪らない、子犬化現象が起きているのだろう。


 私には見えるもの。お尻についた可愛い尻尾をブンブンと振り、必死に甘えているグレンの姿が!


 どうしよう! 推しがカッコイイ系なのに、甘えん坊で可愛すぎる! こんなに餌付けしたいという感情を抱いたのは、生れて初めてよ!


 よって、ジグリッド王子には申し訳ないが、餌になってもらうとしよう。


「ジグリッド王子がいなくても、私は構わないわ。王妃様と二人でも話は進められるもの」


「そうね……。別にジグリッドがいる必要性はないかしら」


「俺が嫌なんだ。グレンに付き合わされると、ろくでもないことに――」


「決まりだ。剣術大会を辞退した罪は重い」


 早くじゃれたくて仕方ないであろうグレンは、ジグリッド王子をズリズリと引きずって、部屋を後にしていった。


 仮にもここは王城であり、一国の王子を粗末に扱ってはならないはずなのだけれど……、じゃれているのなら仕方がない。


 なんだかんだで抵抗しないジグリッド王子の姿が、二人の仲を一段と際立たせていた。


 って、そんなことよりも、いまジグリッド王子が剣術大会を辞退した、って言わなかったかしら。来月に行われる剣術大会では、グレンとジグリッド王子が決勝で戦うはずなのだけれど。


 開けっぱなしの扉をボーッと見ていると、二人と入れ替わるようにワゴンを押したメイドさんが部屋に入ってきた。


 そのワゴンの上に載っているスイーツ、それはイチゴ大福である。


 普通、大福の皮に包まれている状態では、中身の果物を見抜くことはできないだろう。しかし、黒田レベルまで食欲旺盛になると、中身を雰囲気だけで察知してしまうのだ。


 だって、大きさと形でだいたいわかるから。


 久しぶりの餡子に黒田が小さくガッツポーズを決めるなか、メイドさんが王妃様の顔色をうかがい始めた。


「王妃様。ジグリッド様の分はいかがいたしましょうか?」


 なんと! 千載一遇のチャンス到来である!


 イチゴ大福は思ったより小さく、一つだけでは物足りない。二つ食べてちょうどいいと思ってしまうのは、我が儘だろうか。


 いいえ、黒田の中では常識です。


「あの感じだと、今日の夜まで戻って来そうにないわね。残しておくのアレだし……クロエちゃん、二つ食べる?」


「いただきます」


 千載一遇のチャンスに対して、二つ返事をするのだった。


 棚からぼたもち、ならぬ、棚からイチゴ大福である。

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