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悪役令嬢に転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、溺愛されたみたいです  作者: あろえ
第二部

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第45話:黒田、ルベルト先生を疑う

 ジグリッド王子と別れた後、治療師の仕事に復帰するため、ルベルト治療院を訪れた。


「この度はご心配とご迷惑をおかけしました」


 謝罪行脚である。事情があるとはいえ、いきなり何日も仕事を休むなんて、社会人としてあるまじき行為だ。


 これには、小言ばかりの姑のようなルベルト先生も口をうるさくして――。


「気にしなくてもいいよ。クロエくんが無事で何よりだね」


 ……どうしたんだろうか。ルベルト先生がいじってこないなんて、何かがおかしい。具合でも悪いのかな。


 いや、このルベルト先生は偽物であり、暗殺者が成りすましているのかもしれない! きっとそうだ!


 優しいだけのルベルト先生は、この世に存在しないのだから!


「お姉ちゃん、安心して。その人は本物のルベルト先生だよ。意外なことに、すごく心配していたの」


「本当に意外だわ。ルベルト先生のことだから、しばらくは嫌味ったらしくいじってくると思って、覚悟してきたのに」


「僕のイメージが悪すぎないかなー。急にクロエくんが来なくなって、いつも以上に忙しくなったけど、まったく根に持っていないよ」


 人は失って初めて気づくことがあると聞くけれど、何か心境の変化でもあったのかしら。


「その分、私に仕事を押し付けたからね。見て、もう回復魔法を使えるようになったよ」


 容姿がそっくりな分、ルビアをいじることにしたのね。やっぱりルベルト先生は何も変わっていないわ。


 そう思いながらルビアの方を見てみると、患者さんに回復魔法をかけているにもかかわらず、まったく患部を見ていない。首を九十度回転させて、絶対に怪我の状態を見ないようにしていた。


 その代わり、患者さんが傷口の状況を見て、自己申告でルビアの魔法を止めている。


 普通、傷口を見ながら回復魔法をかけるのだけれど、まだ血が怖いのね。豊富な魔力量があるからできる技だけれど、かなりゴリ押しの回復魔法よ。


 チート持ちの主人公のはずなのに、とてもダサく見えてくるわ。


「独特の治療スタイルを築いたわね」


「この方法でしか、回復魔法が使えなかったの。お姉ちゃんが復帰したら、治療師見習いから再出発しようと思ってるよ」


「絶対にそうしなさい。姉として恥ずかしいわ」


 まあ……私が迷惑をかけた影響でルビアが頑張ることになったから、強くは言えない。それに、私の聖魔法と比較すると、気になることも見えてくる。


 豊富な魔力で回復魔法をかけている割には、治癒速度が遅いのよね。出鱈目に回復魔法を使っているような状態だし、仕方がないのかもしれないけれど。


「ルベルト先生。聖魔法と光魔法を比較した際、治癒速度が速くなるはずですよね。ルベルト先生の回復魔法と比べても、ルビアの回復魔法は遅くないですか?」


「一般的にはそう言われているが、聖魔法使いが少なすぎて、断言はできないよ。まだルビアくんは回復魔法を覚えたばかりで、こういう状態だし」


 納得できるようなできないような……。本当にそれだけで、ここまで影響するのかしら。私が初めて回復魔法をかけたときと比較しても、随分と治癒速度が遅いように思えるわ。


 主人公のルビアだったら、私よりも完璧にできてもおかしくないのに。


「真面目な話、僕にも原因がわからない。いまは魔力量だけでカバーしているが、有事の際だと厳しくなるだろうね。もし完璧に扱えるようになれば、クロエくん二人分くらいの活躍はするはずだよ」


 前言撤回するわ。大器晩成型っていうだけで、完全にチートじゃないの。


「そんなに魔力量が違うんですね」


「ハッキリ言って、別格だね。実際に使いこなせるまでどれくらいかかるかわからないし、それこそ単純に比較してはならない。僕の個人的な意見としては、まだクロエくんも伸びると思うよ」


「……いくら病み上がりとはいえ、優しすぎます。不自然すぎますよ」


「いやー、二人も治療師がいると、僕の負担が大きく減るからね」


 絶対にルベルト先生の言葉は真に受けないでおこうと思いながら、治療師として仕事するため、ルビアと代わる。


 ケロッとした表情をしている分、本当に魔力量は多いんだろう。フルパワーで治療していたはずなのに、疲れている様子を見せない。


 これが聖女の器ってわけね。原作通りに進んでいたら、クロエが落胆するのも仕方ないわね。


 何でもできる才女のクロエを、努力で打ち負かすルビアが出てきたら、絶対後者を応援したくなるもの。攻略対象に見放されて、心に深い傷を負うのも無理はないわ。


 これからどうなるのかしら。やっぱりアルヴィも略奪されるのかなー……。


 い、いや、まだアルヴィとは友達なんだけれども。


「お姉ちゃん? どうかした?」


「ううん、何でもないわ。私が治療師として働き、ルビアが治療師見習いとして補佐するのであれば、本格的にルベルト先生のやることがなくなると思っただけよ」


「そうだよね。給料泥棒なんじゃないかな」


「本人の前で物騒なことを言うねー。これでも、君たちがいない間に治療しているんだよ?」


 冒険者たちが帰ってくる夕方までの間、そこまで忙しい時間はないだろう。私とルビアは平日しか治療師として働かないし、給料泥棒は言い過ぎなのかもしれないけれど……、一人でお茶菓子を食べる姿を見れば、給料泥棒と断定したくなる。


「ルベルト先生、そのお饅頭、私の分もあります?」


「ないね」


 給料泥棒だと断定し、今後は積極的に治療させようと決意した。

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