表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢に転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、溺愛されたみたいです  作者: あろえ
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/104

第40話:黒田、不覚を取る

 箱に入ったショートケーキが傾かないように意識しながら、走って追いかけていくと、すぐにルビアとアルヴィを発見した。


 楽しそうに話ながら歩いているため、私は少し離れてついていく。


 ジグリッド王子が言っていた通り、この街で何か問題が起きているのね。今日は騎士の数が多いわ。原作では気にすることがなかったけれど、暗殺者の情報が入ってきているのかしら。


 下手に隠れて尾行したら、私も怪しまれかねない。慎重に行動するべきね。


 まだ何も起こっていないとはいえ、もう少し歩いたところで事件が起こるはずだから。


 気を引き締めた私は、アルヴィの足元を注視する。


 どんな変化も見逃さないようにしていると、突然、僅かに光をキランッと反射するものが見えた。そこにアルヴィが足を乗せた瞬間、ツルッと滑って派手に転んでしまう。


 あれは……水魔法の一種かしら。かなり遠くから扱っている影響か、威力は弱いけれど、足を止めさせるには十分ね。


 確か、暗くて狭い路地裏の方から様子を見ているはずよ。私が認知していると気づかれないようにしないと。


 危険な路地裏を視界に収めつつ、歩行速度を上げた私は、慌てふためくルビアと右腕の痛みを我慢するアルヴィに接触する。


「あら、どうしたの? 珍しいわね、怪我をするなんて」


「お、お姉ちゃん!? ルベルト先生のところに行ったんじゃ……」


「色々あって、やっぱり寮に戻ることにしたのよ」


「そうなんだ。でもよかった。お姉ちゃんがいてくれたら、アルヴィくんの怪我もすぐに治療してもらえるね」


 今の私にとって、アルヴィの怪我を治すのは朝飯前だろう。しかし、これはあくまでルビアとアルヴィのイベントにすぎない。


「なんだか恥ずかしいところを見られましたね」


 呑気なことを言いながらも、痛そうな表情を浮かべるアルヴィには悪いけれど、もう少し痛みを我慢してほしい。


 元々ここにクロエが来るはずはないので、治療は私がするべきではないから。


「ルビアが治療してみるのはどうかしら」


「えっ? わ、私……?」


「そうよ。人見知りのルビアが、いきなり騎士や冒険者の治療なんてできないわ。練習台と言っては悪いけれど、アルヴィ様の体を借りるべきだと思うの」


「そんなこと急に言われても、まだ練習してる途中なんだよ? うまくいく保証なんてないのに」


「大丈夫よ。いまルビアが一番仲良くしている殿方でしょ。ちゃんと思いを込めれば、きっとうまくいくわ」


 さりげなくアルヴィが大本命ですよアピールをした私は、アルヴィに向けて軽くウィンクをして、物語がうまく進行するように誘導する。


「僕からもお願いするよ。ルビア様に回復魔法をかけてもらいたいかな」


「アルヴィくん……。はぁ、わかったよ」


 意を決したルビアが、怪我をしたアルヴィの右腕を優しくつかむ。


「私からのアドバイスよ。二人とも目を閉じて、回復魔法で治るイメージを明確に持った方がいいわ」


 一瞬、魔法を行使される側のアルヴィがキョトンッとしたが、ルビアと目を合わせて、互いに目を閉じた。


 本当はアルヴィが目を閉じる意味はないし、ルビアは治療する部位を目視した方がいい。でも、まだルビアは血が怖いのよね。


 しっかり魔法を行使するためにも、暗殺者の襲撃で驚かないためにも、目を閉じさせる方が正解だと思うわ。


 目を閉じたルビアが深呼吸をすると、どうしてこのイベントが『聖女の目覚め』と言われるのか理解できる光景が目の前に広がった。


 魔法適性を判別する『始まりの式典』で見せた光景と同じように、ルビアの聖魔法が淡い淡黄色の光となって、周囲を照らし始める。見るものすべてを魅了する神イベントであり、通行人の人々が目を奪われ、足を止めていた。


 よって、暗殺者には絶好の機会が訪れる。アルヴィの命を狙うとしたら、このタイミングしかあり得ない。


 貴族が命を狙われるのは、当然のこと。どうしてアルヴィが標的なのかはわからないけれど、私が守ってみせる。


 魔法障壁の準備はしてあるし、気を緩めない限りは――。


「お姉ちゃん、もう治った?」


 呑気なルビアにペースを乱されてしまうけれど、ま、まだ大丈夫よ。律儀にギュッと目を閉じている影響で、自分が放つ強い光にすら気づいていなさそうね。


「もう少し魔法に集中しなさい。まだ治っていないわ」


 私がそう言った瞬間だった。一番隙ができたところを見計らい、視界に映っていた路地裏から黒い服を着た一人の人間が猛スピードで飛び出してきた。


 アルヴィには指一本触れさせない、そんな思いで暗殺者と向き合うと、予想以上に殺意に満ちた目を向けられたため、委縮してしまう。


 あれ? アルヴィが狙われるはずなのに、どうして私が狙われているのかしら。


 もしかして、原作で本当に狙われたのは……。




 聖女……だった?




 暗殺者の殺意に押され、毒が塗られた刃物を向けられた私は、思考が停止する。


 絶対に気を抜いてはいけないとわかっていたのに、殺されるかもしれないという恐怖に声すら出せず、動くことができなかった。


「クロエ様! 危ない!」


 混乱する私をかばうかのように、アルヴィに押し倒される。動けない私が受け身なんて取れるわけもなく、手に持っていたショートケーキの箱を手放し、背中から地面に叩きつけられた。


「チッ、しくったか」


 低い男の声が聞こえた後、暗殺者が逃げていくのがわかった。それと同時に、とてつもない騒ぎになるとわかるほど、いろんな声が聞こえてくる。


 街の住人の叫び声だったり、犯人を追いかける騎士の声だったり、ルビアの言葉にならないような気の抜けた声だったり。


 でも、そんなものはどうでもよくて、私は一つだけ気掛かりなことがあった。覆いかぶさっているアルヴィの体温とは別に、手に感じてはいけない温かいものを感じるから。


「大丈夫……ですか。クロエ様……」


「ええ、大丈夫よ。()()()()も……大丈夫よね?」


「僕は、大したことありません。それより、ケーキ、飛ばしちゃってすいません……」


「そんなのいいわよ。それより教えてほしいの。痛く、ないわよね?」


「ちょっとだけ……ですよ。でも、クロエ様が無事なら、治して……」


 自分で意識を保つことはできなくなったのか、アルヴィは私の胸に頭をうずめた。


 嘘……よね。そんなわけないわ。原作だと、かすり傷で死の淵を彷徨ったのよ。もし刺されて体内に猛毒が循環してしまったら、きっと命は……。


 まだ私の勘違いかもしれないと、淡い期待を胸に抱きながら、恐る恐る手を挙げる。自分の目に映し出された光景を見て、希望が失われた気がした。


 もう見慣れたはずの血が、今日ほど怖いと思った日はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ