第33話:黒田、テスト期間中でも読書する
ルビアが治療師の仕事を始めて、一週間が経つ頃。魔法学園がテスト期間に入ったため、治療師の仕事を休むことになった。
ルベルト先生も気遣ってくれていたし、公爵家の私たちがテストで悪い点数を取るわけにはいかない。学業と仕事を両立しなければ、周りからの評価も下がってしまう。
これは完璧すぎるクロエを目指す私だけの話ではない。
何といっても、学園に通うほとんどの生徒が貴族なのだ。普段は仲良くしていても、爵位が違うだけで立場が変わる。
校内にテスト結果が貼り出されるし、王城にも結果が送られ、今後の就職活動や地位にも大きく影響するだろう。
そう、これは貴族同士の意地とプライドがぶつかり合う、テストという名の戦場であった。よって、休み時間であったとしても、教室は殺伐とした空気が漂っている。
「やだ、ピンク色のタンポポがあるわ。可愛い」
マイペースに植物大辞典を読む私だけは違うが。
オタクって怖いわよね。普段は読まないような本でも、好きな世界の話なら、自然と興味が湧いて読んでしまうんだもの。
えーっと、なになに? 花言葉は、略奪愛……。
前言撤回するわ。急に可愛く見えなくなったの。やっぱりタンポポは黄色に限るわね。
ふんすっ! と鼻息を荒くして、植物大辞典の続きを読んでいると、問題集を持ったルビアが近づいてきた。
さすがにルビアも公爵家の一員であり、とても真剣だ。治療師として働くためにも、絶対に良い点数をテストで取らなければならない。
決して、略奪愛という言葉に反応したわけではない。……と、信じている。
「お姉ちゃん、この問題を教えてほしいんだけど」
「教えるのは構わないけれど、そこはテストの範囲外よ。まだ習っていない部分ね」
「どうりでわからないと思ったよ」
こんな時でも天然が炸裂しているけれど。
「仕方ないわね。テスト範囲の部分に付箋を貼ってあげるから、ちょっと貸しなさい」
世話が焼けるわ……と、ルビアの面倒を見るくらい私には余裕がある。
オタクの私にとって、歴史の授業は教科書の知識が浅すぎるくらいだし、学園の基礎学科は中学生レベル。魔法の授業は新鮮で楽しく、治療師の活動もしているため、実技も余裕があるだろう。
よって、黒田のおかげで完璧なクロエに近づくという奇跡が起こっている。
食い気しかないと思っていたけれど、意外なところで名誉挽回してきたわね。なお、本人が一番ビックリしているわ。
知識を詰め込み過ぎて糖分が足らないからと、何かしら理由を付けてケーキを食べたがるけれど。
「同じ双子でも、賢さだけは全然似なかったよね」
「ルビアには愛嬌があるし、ダンスは得意でしょ?」
まあ、どっちも人見知りすぎて、ほとんど役に立っていない。
「テストに社交ダンスの項目はないんだもん」
「我が儘言わないの。勉強を頑張らないと、ルベルト先生に一生いじられるわ」
「お姉ちゃん、それは違うよ。勉強しなくてもいじられるから」
たった一週間しか関わっていないのに、早くもルベルト先生がどういう人かわかるほど、ちょっかいを出されているとわかった瞬間である。
ずっと一人で治療院を運営してきた以上、腕はあるのよね。国からも認められるほどだし、前回の魔物襲撃事件のときも冷静だったもの。
性格さえよければ、何も文句はないのに……もったいないわね。
「今度、奥さんのマリーちゃんに言っておくわ。もう少し旦那を躾ておくように、ってね」




