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悪役令嬢に転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、溺愛されたみたいです  作者: あろえ
第一部

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第31話:黒田、感謝される

「ルベルト先生。昨日は魔物の襲撃があったばかりなので、パーティーは控えた方がいいと思います」


 治療院の中はいつもと変わらなかったが、外に多くの花が飾られていたため、私はルベルト先生に注意した。


 このタイミングでのお祝いパーティーは、とても不謹慎なのである。


 しかし、ルベルト先生に呆れたような顔を返されてしまった。


「主役は呑気なものだね~。表の花はクロエくん宛に贈られたものだよ」


 今日は私の誕生日ではないので、ルベルト先生の言っている言葉の意味がわからない。


 しかし、教室で聞いたジグリッド王子の会話と合わせると、花が贈られてきた理由をなんとなく理解してしまう。


「そういえば、クロエくんたちは王都の出身ではなかったね。昨日みたいな事件が起きたとき、重傷者が治療してくれた人に花を贈って、礼を伝える文化が騎士団にはあるんだよ」


 やっぱりそうなるわよね。私に花を贈る人なんて、他に心当たりが見当たらないもの。


 実際に助けた人の数を花で表現されると、さすがに驚きを隠せないわ。


「冗談じゃないんですよね?」


「僕が嘘をつくと思うかい?」


「はい、思います」


「いや、そこは信じてほしいかな。昨日は多くの治療院がパンクするほどの惨事だったんだ。正直、クロエくんが治療師になっていなかったら、歴史に残る大事件になっていたと思うよ」


 ルベルト先生の言葉を聞いて、私の中で何か大きなものが動いた気がした。


 大事件にはならなかった、それは原作で変わるはずのない未来が変わった、ということを表している。たった一人の人間が違う行動を取っただけで、歴史を改変するほどの力が生まれたのだ。


 私が重傷者の治療を引き受けたことで、パンクせずに済んだ治療院が増えて、軽傷者の治療が迅速に進んだに違いないわ。大量に出血していない限り、治療が終われば戦場に戻れるもの。


 騎士や冒険者が頑張ったことに変わりはないけれど……、未来は変えられるのね。たとえ、攻略対象と関連のないことであったとしても。


 思っている以上に聖魔法の影響は大きいのかもしれない。まあ、大層なことをした実感は湧かないのだけれど。


 何か原作から変えたい未来はあるかしら、と考えていると、治療院に一人の女性が入ってくる。寝ている小さな赤ちゃんを抱いた、若いお母さんだ。


「あの~、こちらにクロエ様という方がいらっしゃると聞いたのですが」


「私ですけれど……?」


「そうでしたか。昨日は本当にありがとうございました」


 唐突にお礼を言われるが、昨日はこんなお母さんを治療した記憶がない。女性騎士や冒険者の数は少なく、顔くらいは覚えているから。


「失礼ですが、どちら様ですか?」


「えーっと、お世話になったのは私ではなく、主人の方です。騎士団で働いているのですが、昨日の戦闘で両肩を大きく負傷して、腕が動かなくなったと聞いています」


 そういえば、両腕が動かないと泣いていた騎士が一人だけいたわ。死にそうな状況で腕を気にする意味がわからなかったのだけれど……、そういうことだったのね。


 まだパパになったばかりだったんだわ。


「今まで怪我らしい怪我をしてこなかっただけに、かなりショックだったみたいで、昨日は家で大泣きして大変でした。しばらくしたら、息子を抱き締められる喜びが込み上げてきたみたいで……」


 嬉しそうに会話を続ける女性を見て、私は助けた命の重さを痛感していた。


 ゲームの世界に転生したとしても、いま過ごしているこの世界は現実でしかない。たとえ原作で、名前も台詞も立ち絵も与えられない人でも、今後はクロエの人生に関与してくることも出てくるだろう。


 そういう人の人生を変えられたことが、今はとても嬉しく思えてくる。


 私が治療師になっていなかったら、この家族はツライ人生を送っていたかもしれない。原作通りに進んでいたら、騎士の男性が治療を受けられた可能性は低く、死んでいた可能性がある。


 人の命を助けるということは、多くの人を幸せにすることにも繋がるのね。


「お礼は素直に受け取っておくわ。でも、あなたのご主人が街を守ってくれたから、大勢の人に平和な日常が訪れたの。お互い様だと思って、あまり気にしないで」


「とんでもありません。本当に助けていただいて、ありがとうございました」


 その後、何度もお礼を言われた私は、さすがに照れ臭くなってきたため、治療の仕事を言い訳にして、赤ちゃんを連れた女性を見送ることにした。


 治療師になってよかった、初めて心の底からそう思えた気がした。

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