表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢に転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、溺愛されたみたいです  作者: あろえ
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/104

第17話:黒田、ケーキ選びに迷う

 ルビアとケーキを食べる約束をした私は、スッカリ機嫌を取り戻し、精力的に学業と治療師の仕事を頑張った。


 そして、待ちに待った休日を迎えると、念願のこの場所にやってきた。


 貴族が通うと言われるカフェで、王都でも有名なパティシエが揃う店『フクロウの休日』。その看板には、可愛らしいフクロウとケーキが描かれていて、長蛇の列ができている。


 並んでいる人たちには悪いのだけれど、こういうときに公爵家の貴族パワーが発揮されるのよね。私のことを心配してくれていたポーラが、すっ飛んで予約してくれたんだもの。


 良いメイドと妹に恵まれて、私は幸せ者だわ。


 ルンルン気分でルビアと店内に入っていくと、店員さんに完全個室の部屋に案内してもらった。


 向かい合うようにルビアと座り、メニューを開くと……内なる黒田が這い上がってくる。


 この店は王家のアップルパイと同じくらい評価が高いのよね。しかも、原作よりもケーキの種類が豊富だわ。やっぱり本場は違うわね。


 食い入るように見てしまうのも、無理はない。『恋と魔法のランデブー』を担当した絵師さんのインタビュー記事にまで目を通している私は、そのこだわりとエピソードに感銘を受けているのだ。


 この絵師さん、味覚障害に陥って仕事を転職した経歴があるのだけれど、元パティシエなのよね。ゲームがヒットしたこともあって、パティシエ時代に働いていた店とコラボが決まって、本当に喜んでいたのよ。


 お世話になった師匠ともう一度仕事ができて嬉しい、絵師さんのそのコメントにアラサーの私は涙を流しまくったわ。


 何で一番泣いたかといえば、抽選が外れて食べられなかったことだけれど……。ブラック会社に勤めていた私には、足を運べる機会が少なすぎたのよ。


 でも、今日は本物が食べられるのだから、これほど嬉しいことはない。もう一度ケーキの食べ過ぎで死にたくはないので、一つだけで我慢すると心に決めている。


 どれにしようかなーっと悩むのはいいものの、原作以上に豊富なため、すべてのメニューに目移りしてしまう。


 メニューとにらめっこを続け、オタク特有の優柔不断っぷりを発揮していると、店員さんが注文を聞きにやって来た。


「ご注文はいかがなさいますか?」


 一生決められそうにありません、と言いたくなるほど、ガチで悩んでいる。


「お姉ちゃんはどれにする?」


 姉と同じものを食べたがるルビアも、優柔不断っぷりがすごい。先にクロエが選ばない限りは、自分で決めることができないだろう。


 ケーキを略奪されたら、黒田がブチギレそうなので、同じものを注文するのは賛成ね。


「ルビアは食べたいものがないの?」


「うーん、迷ってるんだよねー」


「私も迷ってるのよ」


 いっそのこと、私がルビアに合わせようと思ったのだけれど、やっぱり選ばないわよね。


 我が儘な貴族も多いのか、店員さんは嫌な顔をせずに待ってくれているけれど、逆に気を遣ってしまうわ。


 うーん……。ここは単純に、私が一番好きな種類のケーキを頼もうかしら。


「決めたわ、チョコレートマウンテンスペシャルとコーヒーをお願いね」


「じゃあ、私もそれにしようかな」


「かしこまりました」


 店員さんが部屋を離れていく姿を見送ると、早くも待ち遠しくてたまらなくなってしまう。


 楽しみだわー。キャー! 本当に転生できてよかったー!


 ハッ! こんなことで時間を無駄にするわけにもいかないわね。せっかくルビアと落ち着いた場所で二人きりになれたんだし、イベント進行状況を確認しておかないと。


「最近は教室でアルヴィ様と話す姿をよく見かけるわね」


「うん。話しやすくていい人だよ」


「そう、好きになったの?」


「えっ!? いや、まだそういう感じじゃないけど……」


 なんか初々しいわね。すぐに顔を赤くして目を逸らしたら、好きって言っているようなものよ。


 アルヴィをけしかけておいて正解だったわ。まだ恋愛イベントが始まったばかりなのに、ほとんど日常の生活だけで好きになっているんだもの。


 でも、現時点ではジグリッド王子が優勢のはずなんだけれど。


「ジグリッド王子とはどうなっているの? 以前、お茶会をしたときに二人でデートしていたでしょう?」


「デ、デートなんて……! 王城の中庭を散歩してただけだよ」


「立派なデートね。どこであろうと、未婚の貴族女性と二人きりで歩くのならば、向こうも気になっている証拠よ。実はお茶会の目的も、それが狙いだったのかもしれないわ」


「お姉ちゃんの考えすぎだから。学園でもジグリッド様と話すけど、まだ距離があるというか、なんというか……」


 二人の男の間で心が揺れてるなんて、のんびり外から見ている分には可愛らしいわね。モジモジしてばかりで、どうアタックしていいのかわからないのかしら。


 ゲーム内のイベントならまだしも、恋愛に疎い私にアドバイスを聞かれても、そればかりは教えられないけれど。


「お姉ちゃんこそどうなの? 好きな人いないの?」


 また懲りることなく略奪愛システムが起動しているのか、ルビアに好きな人を聞かれてしまった。


 本当に私は恋愛を諦めているし、推しとルビアが幸せなら、それでいい。逆ハールートの道を歩むためにも、もう一度ハッキリと言っておいた方がいいかもしれない。


「前にも言ったでしょ、私はルビアの恋を応援したいの。あなたが幸せになってくれることが、私にとっての幸せなのよ」


「でも、お姉ちゃんも恋愛したい思いがあるでしょ? 私たちは双子なんだし、それくらいはわかるよ」


 聞き出して略奪する気満々じゃないの。もっと無意識に近いものだと思っていたけれど、意外に自覚があるのかもしれないわね。


「双子だから、幸せな恋愛はルビアに任せたいの。公爵家の長女として生まれてきた以上、私は自由に婚約できないわ。私が恋愛できない分まで、ルビアに楽しんでもらいたいのよ」


 もっともらしいことを言っているが、実際のところはわからない。勝手に婚約できないのは事実だが、恋愛がNGではないから。


 でも、推しがいる世界で他の男性と恋なんてできるはずがない。中身がアラサーの私は理想の恋愛を求めすぎていて、最悪なほどに恋愛音痴なのだ。


 つまり、いつまでも推しを眺めるに限るわ! ファンってそういうものなのよ!


「いつも……私が甘えてばかりだね」


「いいじゃない、妹なんだもの」


「私は、お姉ちゃんにも幸せになってもらいたいけど……」


 真剣な顔でポツリと言ったその言葉は、嘘を言っているようには思えなかった。


「そう思ってくれるなら、自分の恋愛を頑張りなさい。ルビアの幸せが私の幸せになるんだから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ