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悪役令嬢に転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、溺愛されたみたいです  作者: あろえ
第一部

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第16話:黒田、アルヴィと出会いイベをする

 学業と治療師の両立を始めてから、二週間が経過する頃。予想以上に疲労が蓄積して、気分の優れない日が続いていた。


「クロエお嬢様。治療師の仕事をもう少し控えられた方がいいのではありませんか?」


 昼ごはんを食べ終えてボーッとしている影響か、専属メイドのポーラに心配そうな顔で見つめられてしまう。


「大丈夫よ。ポーラのお弁当があれば、元気が出るもの」


「元気がなさそうな顔で言われましても……。食欲が落ちていない分、栄養面は大丈夫だと思いますが」


 どんな時でも食欲旺盛な黒田の話は置いておくが、毎日何時間も仕事をしていると、どうしても治療師の活動が目に焼き付いてしまう。


 そのため、ポーラのお弁当という癒しアイテムの効果が落ちているのは、事実だった。


 食事で魔力が回復するし、本当に癒されるのだけれど、どうしても怪我の光景が頭によぎるのよ……。


 推しのことばかり考えて、スヤスヤ眠っていた日々が嘘みたいだわ。今は悪夢を見てうなされるんだもの。


 そんなことを言うと、ポーラに余計心配されてしまうので、絶対に言えないが。


「本当に心配しないで。ポーラが笑ってくれていた方が元気になれるわ」


「クロエお嬢様……」


 完璧なクロエを演じているはずなのに、彼女らしさがうまく出せないことを自覚しながら、私は屋上を後にした。


 もっとしっかりしないとダメね、と思いつつも、思っている以上に黒田のダメージが大きい。


 ゲームの知識だけでは乗り越えられない壁もあるのね。原作を改編して、逆ハールートを進んでいる弊害なのだけれど。


 はぁ~、と大きなため息を吐くと、ポンポンッと誰かに肩を叩かれる。


 こんなときにいったい誰よ、と思いながらムスッとした顔で振り向く。すると、ルビアと恋仲に発展途中のアルヴィだった。


 自然にビシッと背筋を伸ばしてしまうのは、推しだからである。


「クロエ様、ハンカチを落とされましたよ」


「えっ? え、ええ。ありがとう」


 ハンカチを受け取ろうと右手を前に出すと、偶然にも、アルヴィの手に触れてしまう。その瞬間、ビビビッ! と全身に電流が駆け抜けた。


 はぁぁぁ、推しに触れてしまったわ……! なんて罪深い行動を取っているのかしら。うぐっ、この部分を高解像度の静止画(スチル)にしてもらいたい。


「……どうかされましたか?」


「えっ? いや……」


 しまった。ハンカチにアルヴィの指紋が付いている、などと変態的発想で埋め尽くされて、黙視したまま固まっていたわ。何とか誤魔化さないと。


「今回はルビアと間違えなかったのね」


 黒田の馬鹿~~~! なんでこんなときに出てくる言葉が嫌味なのよー!


 アルヴィを攻略する気はないけれど……、終わったわ。


 絶望的な気持ちになる私とは対照的に、アルヴィは優しく微笑みかけてくれた。


「今のクロエ様を見ていると、僕でも後ろ姿でわかりますよ。明らかに元気がありませんよね」


 ……待って。私、推しに見られていたの? 元気がないとわかるほど、いつも見ていてくれたの?


 ハッ。落ち着きなさい、黒田。今はクロエなの。アルヴィが見ていたのは、あくまでクロエよ。


 今はクロエらしく振る舞わないといけないわ。


「そうかしら。普段の私と変わらないわ」


「ふふっ、そうですか。そういうことにしておきますね。では、失礼します」


「あっ、待ちなさい」


 優しく微笑んでくれたアルヴィが去ろうとしたとき、私は咄嗟に引き止めてしまった。


 特に何か考えていたわけではなく、反射的に声が出ただけで……。


「心配してくれたことには礼を言うわ。ありがとう」


 少しでもよく思われたいとか、もう少し話していたかったわけではない。ただ、アルヴィに声をかけてもらい、気持ちが楽になった気がする。


 だから、そのお礼を伝えずにはいられなかった。


 すると、高飛車のクロエに礼を言われると思っていなかったのか、アルヴィはキョトンッとした後、満面の笑みを浮かべてくれた。


「とんでもないです。こんな形でも、クロエ様と話せたことが嬉しかったですよ」


 出たー! アルヴィスマイルーーー!! それだけは至近距離でやらないで、浄化されちゃうー!


 アルヴィの後ろ姿を見送る私の顔は、恋する乙女になっているだろう。だって、推しに笑顔を向けられたんだもの。


 やだ、何この神イベント。ハンカチを拾ってもらって、アルヴィスマイルを向けられるなんて、まるでゲームのワンシーンみたいだわ。


 ……あれ? まずくないかしら。


 このシチュエーション、ルビアの恋愛イベントが始まったときと完全に一致している。いくら双子とはいえ、ここまで被ることはあるのだろうか。


「ねえ、お姉ちゃん。アルヴィ様と何を話してたの?」


 ドッキーン! としてしまうのも、無理はない。パッと後ろを振り向けば、略奪センサーが感知したかのようにルビアが立っている。


「ええっ!? ど、どうしたのよ、ルビア」


「ん? 廊下でお姉ちゃんとアルヴィ様が話していたから、珍しいなーと思って」


 ルビアのキョトンッとした顔が少し不気味に映るけれど、嘘をつける様な子ではないと、私が一番理解している。


 略奪するときは、急激にメンヘラになるはずだから。


「アルヴィ様に落とし物を拾ってもらったから、お礼を伝えていただけよ」


「そっか、アルヴィ様は優しいもんね」


 早くも乙女の顔になるルビアを見て、私は安堵のため息を吐いた。


 純粋に気になっただけ、その可能性が高いわ。略奪センサーが反応したものの、略奪スイッチは押されていないみたい。


 すると、私が大きなため息を吐いた影響か、ルビアが心配そうな表情に変わる。


「お姉ちゃん、最近顔色が悪いけど、大丈夫?」


 アルヴィに気づかれているのなら、ルビアにはバレバレよね。完璧なお姉ちゃんになるはずだったのに、まさかこんなことになるなんて。


 週末の休日は完全にオフだし、ゆっくり休んで身も心も回復させよう。


「心配いらないわ。ちょっと寝つきが悪くて、寝不足なだけよ」


 そういえば、原作でもこういったシーンは何度かあったわね。普段はクロエが気にかけているけれど、会話が少なくなったり、会わなくなったりすると、ルビアが心配するの。


 だからこそ、姉妹の仲の良さが際立っていたのだけれど。


「ねえ、たまには一緒にケーキでも食べに行かない?」


 その言葉を聞いて、私の黒田スイッチが反応する。


 出たー! ルビアとのケーキイベ!! そうだわ、ルビアが元気付けようとしたとき、必ずケーキを食べていたのよ!


 もう、ルビア大好きよ! 最高の妹だわ!


「絶対に行くわ! 今度の週末に食べに行きましょう!!」


 スッカリ機嫌を良くした私は、ルビアとの休日デートの予定を入れるのだった。

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