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悪役令嬢に転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、溺愛されたみたいです  作者: あろえ
第一部

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第14話:黒田、当て馬聖女の道を歩み出す

 幸いなことに、アルヴィとの出会いイベントを目撃できたため、私は学校を終えた後、ある場所に足を運んでいた。


 恋も聖女も当て馬ロードを爆走するための場所、ルベルト治療院である。


 クロエとルビアが聖魔法の素質を開花させるためには、ここに来ないとダメなのよね。


 学園で魔力操作の授業はあったとしても、聖魔法や光魔法に精通する先生はいないし、すぐに手詰まりになってしまう。


 自分で師を見つけなければ、せっかく聖魔法に適性を持ったとしても、宝の持ち腐れだ。


 そのため、原作のクロエも早い段階で動いて、この治療院で仕事を始めていた。


「よろしくお願いします。私を雇ってください」


 最初は、回復魔法を施す治療師を補助する『治療師見習い』になり、修行を積んだ後に治療師の職に就くはずなのだが……。


「頭を下げないでください。公爵家の方にお願いされても困ります」


 ルベルト治療院の院長、ルベルト・ハーツ先生に拒まれ続けている。


 それもそのはず。私は治療師見習いがやりたいわけではない。


「早く聖魔法を使いこなせるようになりたいのです。初めは上手くいかないかもしれませんが、治療師として雇ってください」


 完璧な当て馬令嬢を目指す私は、早く一人前にならなければならない。すぐに実戦を経験して、少しでも前に進まないと、原作のクロエを越えることなんてできないから。


 天然のルビアがうまく回復魔法を扱えずに、可愛くピエーンとするなか、何食わぬ顔で私が回復魔法を使って、その可愛さを際立たせたい。


 姉のクロエは完璧すぎて、手の届かない存在だと思わせるためにも。


 そして、そんな完璧な姉の聖魔法を乗り越えたルビアが手にするのは、偉大なる聖女の称号と逆ハーである。


 ルビアを女帝のように君臨させ、周りの人間にも納得させなければ、現実で逆ハーなんてできるわけがない。だから、私は最高の当て馬の道を歩み、ルビアに追い抜いてもらわないと困るのだ。


 ……あと、個人的に早く魔法を使ってみたい気持ちもある。だって、せっかく魔法のある世界に来たんだし、憧れるんだもん。


 しかし、やっぱり治療師のハードルは高いのか、ルベルト先生は首を横に振っている。


「うちは国が運営している治療院で、勝手に治療師を雇用することができないんだ。君の話は風の噂で流れてきているが、どうすることもできないよ」


「国の許可があれば雇っていただける、ということですね?」


「そうだね。どこも治療師不足で悩んでいるし、本当はうちだって手助け願いたい。でも、治療師見習いの経験のない人を、国も許可するはずが――」


「では、よろしくお願いします。すでに王妃様より一筆いただいておりますので」


 言質も取れたことなので、王家の家紋が押された正式な書類を取り出し、ルベルト先生に手渡した。


 私の当て馬計画に障害など存在しない。拒まれることは想定の範囲内だったため、着せ替え人形になったとき、密かにお願いしておいたのだ。


 色々と手続きが必要だったみたいで、書類が届いたのは数時間前だけれど、良いタイミングだったわ。


「これは、本物か。王妃様はいったい何を考えられているのやら……」


 やられたな……という表情を浮かべるルベルト先生を見たら、断ることはできないと確信する。


 いくら正式な書類を用意しても、現場の先生が納得するとは思えない。そのため、わざわざ言質を取った後に手渡しのだ。


 これで治療師見習いとして扱うことはできなくなったはずよ。


 はぁ~、と大きなため息を吐くルベルト先生は、観念するように苦笑いをした。


「治療師の仕事は、君が思うよりもずっと厳しい。実際に治療師見習いを希望した人でさえ、今は逃げ出して一人もいない。本当にやるつもりなのかい?」


「お願いします。公爵家の名において、絶対に逃げ出さないとお約束します」


「わかった。でも、僕は女性の治療師を育成した経験はない。学業と両立するとなれば、かなり厳しくもなる。本当にいいんだね?」


「はい。よろしくお願いします」


「では、明日から来なさい。それまでに君の白衣を用意しておくよ」


 心の中でガッツポーズを決めた私は、聖女の当て馬として、スタートラインに立ったのだった。

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