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悪役令嬢に転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、溺愛されたみたいです  作者: あろえ
第一部

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第10話:ジグリッド、クロエに驚く

 ―― ジグリッド王子視点 ――


「はぁ~……幸せぇ~……」


 俺はいま、目の前の映し出される光景が、夢か現実かわからなくなっていた。


 あの沈着冷静なクロエ嬢が……見たこともない笑みを浮かべて、アップルパイを食べているではないか。


 いったい何が起きているんだ。もう一度言おう。()()クロエ嬢が、である。


 幼い頃から貴族という立場を理解し、大人びた態度や行動で周りを驚かせるだけでなく、決して無駄なことをしない。


 公爵家の威厳と妹のルビア嬢を守るように対応し、常に最善の行動を取り続けてきた彼女が、アップルパイで取り乱しているのだ。


 完璧や天才という言葉は彼女のために存在する、誰もがそう思い、一目を置いているだろう。当然、トリスタン王国の次期国王として期待される俺も、彼女に興味があった。


 最初は、その完璧な立ち居振る舞いに対する嫉妬だったのかもしれない。しかし、それがいつしか目標に変わり、彼女のことを目で追う自分がいた。


 こういう才女が人の上に立つべき存在なんだな、と。


「リンゴ、しゅきぃ~……」


 それが今や、ただの女の子になっている。しゅきぃ~、なんて言葉を使うタイプではないはずだが。


 普段のイメージと違い過ぎて、とてつもないギャップに襲われてしまう。


 なんだろうか、この不思議な気持ちは。手元に置いておきたいと思うほど愛らしく、直視できそうにない。


「お姉ちゃんがポワポワしてるところ、初めて見た……」


 俺が目を逸らした先には、容姿がそっくりな双子の妹ルビア嬢がいるわけであって、何とも気まずさを感じてしまう。


 この姉妹は一体何なんだ。ルビア嬢も普段とは違い、妙に落ち着いていて、ギャップがある。


「ルビア嬢でも見たことがないのか?」


「うん。普段はここまで我を忘れることなんてないもん」


「確かにな。いつも素っ気ない印象だが、まさかアップルパイで彼女の真の姿を見ることになるとは」


「本当にびっくりだよ。ずっと一緒に過ごしてるけど、アップルパイが好きなんて初耳だもん」


 仲良し姉妹の印象が強いが、そこは知らないんだな。いや、プライドが高くて沈着冷静なクロエ嬢としては、アップルパイが好きというのは、子供っぽいと思ったのかもしれない。


 姉の威厳を大切にしようと考え、隠し続けてきたんだろう。


「アップルパイ、おいちぃー……」


 絶対にそうだな。今まで我慢し続けてきた反動で、精神年齢が幼児時代まで戻っている。


 学園の姿を見る限りは、ルビア嬢の方がこういう表情をしそうなんだが。


「んー、おいしいー! お姉ちゃんが頬を緩める気持ちがわかるかも」


 幼児化したクロエ嬢を受け入れたルビア嬢は、マイペースにアップルパイを食べ始めた。


 突然こんな行動を姉が取り始めたら、普通は取り乱すはず。こういうクロエ嬢の姿を見たとしても、俺と母上は気にしないとわかったうえで、堂々とアップルパイを食べているのだろうか。


 何といっても、あのクロエ嬢が自信満々に妹の潜在能力を認めるくらいだ。考えもなしに過ごしているはずがない。


「アップルティ、おいちい~」


 いや、このクロエ嬢ではないが。


 それにしても、双子というだけあって、二人とも同じタイミングで別人みたいになるとは。


「ジグリッド様はいつもこういうのを食べてるの?」


 フォークをくわえ、キョトンッとした顔でルビア嬢が話しかけてくる。


 急に距離を詰めてこられても普通は困るが、クロエ嬢の面影があり、違和感はあまりない。普段、これくらいクロエ嬢も心を許してくれるとありがたいとさえ思ってしまう。


「いや、来客用の菓子だ。普段はここまで贅沢をしない」


「そうだよねー。ビックリするくらいおいしいんだもん」


 その変貌ぶりに驚いている身としては、菓子どころではないが。


 しかし、可愛らしい女の子を甘やかせたいという願望を持つ母上には、ちょうどいいのかもしれない。


 幼児退行が進むクロエ嬢をジッと見つめている。


「フラスティン家が養子を出してくれるはずもないわよね……」


 相変わらずだな、母上。さすがにそれは不可能なことだと思うし、もう少し普通の女性として接してあげてくれ。


 小さな頃からあこがれ続けた、俺の初恋の人なのだから。

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