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揺りかごに揺られて

「なあ、ヨハン」


 部屋に帰る途中だっただろう彼を呼び止める。呼び止めた後に、これがあの一件以来初めての会話だと言うことに気づいて続く言葉が喉に詰まる。そのまま私の言葉と格闘して揉みくちゃになっている内に、ヨハンが話し始めてしまう。


「ザシャ、何日かぶりだな。全然合わないから避けられているのかと思ったよ」


 ああ、避けていたんだ。君に会ったら、どう接すれば良いか分からなくて。君は優しいから、クラウスが怒った時はいつでもフォローしてくれる。だけど今回の件は今までのものより酷い有様で、君だって私にうんざりしているんじゃないか?


「ああ、その、すまなかった。それで、話があるんだ」


「ああ、構わないよ」


 どうして逃げ出してしまったのだろう?私が逃げなければどうなっていたのだろう?後悔した頃にはもう終わっていて、私はただ現状を受け入れる事しか出来ない。


「あの時、逃げ出してしまってすまなかった。アントンが死んでしまって辛かったのは君達の方だっただろうに。それに、私が逃げてしまわなければクルトが死ぬ事も無かったかもしれなかったのに」


 だからこそ、経験を無駄にしてはいけないんだ。この後悔さえも無駄になってしまうから。


「いや、良いんだ。アントンはお前を一番可愛いがっていたからな。お前が生きていたからそれで充分だ。それに、そもそもアントンがいなくなった時点で俺達の部隊は崩壊していたようなものだったから。今思えば頼りすぎていたんだ」


 どうしてヨハンは私に何も思わないのだろう?色々と迷惑を掛けてしまっているのに、怒る気配さえ見た事が無い。それは彼が私の事を許してくれているという事なのか、それとも……


「ヨハン、なんで私にこんなにも優しくしてくれるんだ?」


「お前は俺の弟に似ているからな。だから弟に色々してやれなかった分、お前に世話を焼きたかったんだ。」


 弟が居たなんて聞いた事が無かった。ヨハンならきっと良い兄だっただろうに、どうして色々してやれなかったなんて言っているのだろう?


 とりあえず、ヨハンへの話は終わった。問題は次のクラウスだ。彼は私の事が嫌いだと思う。彼は普段でも私を避けるように動いていたし、私と話す時は大体しかめっ面だった。クラウスと仲のいいヨハンなら間を取り持ってくれるかもしれない。


「……分かった。色々とありがとう。それで、クラウスにも謝ろうと思ってるんだが、かなり怒っていただろ?だから」


 仲裁をしてくれないか?そう言おうとすると、ヨハンが割り込んできた。


「仲直りの仲裁をして欲しいのか?そんなの要らないさ。クラウスの奴、最初はそれはもう猛獣のように怒り狂うけど、しばらく経てば何事も無かったかのように落ち着くからな。あいつも、俺達がボロボロになった事、お前のせいだとは思っていないよ」


 流石に仲裁までは無理なようだ。だが、クラウスがそんな奴なんて気が付かなかった。でも確かに少し経てば少し嫌気が和らいでいたような気もしていたし、普段機嫌が悪かったのも私が謝っていなかったせいだと言われれば、そのような気がする。


 私はそこらのガキと変わらないように、自分のワガママにみんなを付き合わせていたのかもしれない。様々な苦労を掛けたかもしれない。だからこそ、アントンが居なくなった今だからこそ、成長しなければいけないんだ。彼らの苦労を無駄には出来ないから。


「分かったよ。自分で謝ってくる。アドバイスをありがとう」


「ああ。それと、最近何かきな臭い感じがするからお前も気をつけろよ。ほら、あの見張りの奴ら、何だか殺気だってるからな」


 最近感じてた妙な違和感はそれだったのだろう。殺気だってるっていう事は、戦場が近づいて来ているのだろうか?ここは一応前線からそれほど遠くない場所に置かれていたという噂だってあったし、意外と私達の国がここら辺りにまで進軍して来ているの可能性だってあるかもしれない。

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