~The 奴隷オークション~
「はわわ、人が沢山居て密な状態になってるですぅ…」
現在、私は町の奴隷オークション会場に来ている。私はかねてから妹が欲しいと常々思っていた。低い身長と、舌足らずな喋り方、そして整った顔立ちは周囲の者の庇護欲を駆き立て、気が付くと私には妹キャラとして生きて行く道しか残されていなかった。
今日私は容姿端麗な妹候補を見つけ出し、お姉ちゃんと呼ばせるのだ。主人と奴隷という強烈な上下関係はストックホルム症候群を引き起こし、すぐに従順な妹に調教されるはずだ。
「この先に、未来の妹ちゃんがいるですぅ…」
奴隷の値段は様々な要素で決められ、安い者はただ同然であるが、若ければ若いほど価値が高くなる傾向があった。奴隷を買う資金は一か月ほど馬車馬のように魔獣を狩りまった結果、2憶3000万ゴールドほど貯まっている。
この国では奴隷は必要な労働者として扱われており、奴隷達は町の様々な場所で働いており日常の風景となっていた。奴隷になってしまった理由は主に3つある。
1、両親が奴隷である、生まれながらの奴隷である者。2、犯罪を犯して財産を没収され、自由市民から奴隷の身分に降格した者。
3、他の国との戦争の結果捕虜になった者。
この町は国境沿いのため、戦争で捕虜になった奴隷達が沢山流れてきていた。捕虜になった奴隷達は殺されるよりはマシだということで奴隷の身分に甘んじている。基本的に町の主人達は奴隷を労働者として扱い、給料も発生させているため待遇は悪くは無い。長年働き、自分を買い、解放奴隷として自由になる者も居るほどだ。
「あれ、リオちゃん!こんな所で会うなんて奇遇だね!」
「ミリアさん、お久しぶりなのですぅ」
ミリア氏とは初日に家に泊めて貰ってからあまり会っていなかった。私の討伐スタイルは、荷馬車を借り、そこを拠点とし、数週間森や山に籠り、荷馬車に魔石などを貯め、ある程度貯まったら町に戻り換金するスタイルだったため、ギルドに顔を出す機会は減っていた。受付嬢はミリア氏だけでは無かったこともあり、しばらく疎遠になっていた。
「ミリアさんも奴隷を買いに来たんですかぁ?」
「ええそうよ、私は必要ないんだけど実家の両親に奴隷をプレゼントしようと思ってね。2人とも還暦を迎えてるからね。日常生活を送るうえで1人奴隷が必要だと思うの。」
「はわー、ミリアさんは親孝行者なのですぅ」
ミリア氏としばし談笑をしているとオークションが始まった。
「さぁさぁ皆さん、おまたせしました!月に1度の祭典、奴隷オークションの開催です!本日は盛り上がってまいりましょう!」
様々な奴隷が登場しては売られていく。今回は獣人の奴隷が多いようだ。戦争で捕虜になった者がほとんどだろう。獣人は男ばかりだったので見送っていた所、ついに女性の獣人が現れた。
「さぁ、皆さん、続いては本日の目玉です!女性の獣人!それに見てください、この整った顔立ちを!何をさせてもS級の働きをすることでしょう!男性陣は目がギラギラしてますね!なんでかなぁ!じゃあここでアピールタイム、彼女に一言伺ってみます!得意なことは何ですか?」
「くっ、殺せ…」
「くっころいただきました!ではでは、開始金額に意味がなさそうな雰囲気を感じますので、1万ゴールドからスタート!」
茶髪ロングでストレート、犬か狼か狐か分からないが尖った耳が立っており、お尻にはフサフサの尻尾も生えているようだ。背が高いようなので妹には不向きだが…いや、妹に身長など関係ない。私は入札することにした。
「100万ゴールドなのですぅ…」
「150万!」
「500万ゴールドなのですぅ…」
「530万!」
「3000万ゴールドなのですぅ…」
「…」
「はい!3000万ゴールド!他にいらっしゃいませんか?…はい!それでは3000万ゴールドで落札!」
3000万も出す必要は無かったかもしれないが、下手に張り合われるのも面倒だったので一気に落札した。
オークションが終わり、商品を受け取りに。もとい、落札した奴隷を受け取りに落札者用の控室へ向かう途中、ある部屋で茶髪の獣人が椅子に座っていた。私が落札した綺麗なお姉さんだ。背が高いので妹ではなくお姉ちゃんになってもらうのも悪くないかもしれない。
どうやら私が落札者だとは気付いて居ないようだったので話しかけてみる。
「獣人のお姉さんこんにちはなのですぅ…」
「やぁ、お嬢ちゃん。その角…お嬢ちゃんも亜人なんだね。お嬢ちゃんも奴隷として来たのかい?」
ここで、「あなたを買った主人です」とすぐに明かすのは面白くないので、立場を利用して少し嘘をついてみる。
「私はここでお手伝いをしている者ですぅ…あなたを買った主人が、今別な場所で主催者と世間話をしていて時間がかかっているのですぅ…私は様子を見に行くように言われたですぅ…」
「そうか…お嬢ちゃんが奴隷じゃなくて安心した…」
「お姉さんを買った人がどんな人か知りたいですかぁ…」
「知りたくないと言えば嘘になるな」
私は思い通りの展開に口元をニヤリとゆがませた。
「分かったです。じゃあ教えてあげるですぅ…お姉さんのご主人はヒゲが沢山生えた汚らしいおじさんですぅ…奴隷は性奴隷にしかしないらしいですぅ…ハードなSMが趣味で自殺する奴隷が沢山いるって噂ですぅ…」
「そ、そうなのか…私は一族の教えで絶対に自殺できないのだ…」
もちろん、そんなヤバイおじさんは存在しない。だがお姉さんの顔は恐怖で歪んでいる。この顔が見たかったのだ。多くの人は相対的にしか幸せを実感することができない。お姉さんは今恐怖で絶望したことで、これからのなんでもない普通の状態に幸せを感じることができるようになるはずである。
「そのおじさんはぁ、今は何日で奴隷を自殺させることができるかという記録更新にハマっているらしいですぅ…今は3ヶ月が自己ベストだと言ってたですぅ…」
「くっ…死は恐れないが…これからどれほどの屈辱を味わわなければいけないのだ…」
お姉さんは手で顔を覆うと、耳と尻尾がしんなりと垂れた。どうやら感情が耳と尻尾に現れるようだ。
「じゃあ、私はこの辺でおいとまさせていただくですぅ…」
うなだれるお姉さんを置いて部屋を後にする。落札者が商品を受け取る部屋へ行くと主催者らしき人物が立っていた。
「リオ様ですね。この度は私共の商品を落札していただき、誠にありがとうございます。それでは早速、商品をお持ちしますので少々お待ちください」
男はそう言うと部屋から出て行ったが、すぐにさきほどの獣人のお姉さんを連れて戻ってきた。
お姉さんはずっと下を向いていたが、私だと気付くと少し目を見開いた。
「お待たせしました。奴隷の情報は市民カードに紐付けしておきました。これでこちらの奴隷は正式にリオ様の奴隷でございます。またのご利用を心よりお待ちしております」
「ありがとうございますなのですぅ…」
お姉さんはあまり状況が掴めていないようだ。
「お姉さん、私はリオと言うですぅ…お姉さんの名前を教えてくださいなのですぅ…」
「あ、ああ。私はペコリーナだ。えっと状況が掴めていないのだが。お嬢ちゃん、いや、リオ様は私のご主人様ということなのだな。これからさらにどこかに売られるということですかね?」
「さっき話したSM好きのおじさんの話は全部嘘ですぅ…私がペコリーナさんの本当のご主人様ですぅ…でも様付けも敬語もしないで欲しいですぅ…」
「う、うむ。嘘であったのか。騙されることは辛いが、それ以上にさっきの話が嘘であって本当に良かった」
ペコリーナ氏が素直な獣人で良かった。嘘をついたことで拒絶されてしまう可能性もあったが、今はペコリーナ氏の耳はピンと立っており、尻尾も元気になっている。これなら大丈夫そうだ。目的を達成するために動く。
「ペコリーナさんのことはペコリーナって呼ぶから、これからは私のことをお姉ちゃんって呼んで欲しいですぅ…ペコリーナさんは今日から私の妹なのですぅ…最初は戸惑うと思いますがぁ…すぐに慣れると思うので安心してくださいぃ…とりあえず、拠点に案内するのでぇ…ついてきてくださいですぅ…」
ペコリーナ氏と現在の拠点に移動する。現在はお風呂付きの広めの1人部屋を借りて住んでいる。2人になったのでもう少し広い部屋へ移動する必要がある。
「ではまずはぁ…一緒にお風呂に入りましょうかぁ…お互いのことをもっと知らないといけないですからぁ…」
「う、うむ。お姉ちゃん」
一緒にお風呂に入ったことが無い姉妹など、ほとんどいないであろう。姉妹の親睦を深めるためとはいえ、裸になるのは非常に恥ずかしかったが、顔を真っ赤にしている妹のペコリーナ氏を見ると、しっかりしないとお姉ちゃん失格だと思いなおし、平気な顔をして下着を脱いだ。
「ほら、ペコリーナも下着を脱がないとお風呂に入れないですよぉ…」
「お姉ちゃん、あそこツルツルなんだね…私は何というか、少し毛が生えてきてて…全部生えてくれればある意味隠せるのだが、中途半端な今の状態を見せるのが恥ずかしい…」
妹に先を越されていたのか…私は妹のペコリーナにあそこをまじまじと観察されていると意識すると、耐えがたい羞恥心を覚えた。顔が紅潮するのを感じ、それを振り払うように提案をした。
「じゃあ、せーので脱がせてあげるですぅ…いきますよぉ…ダメですぅ、下着から手を離してくださいぃ…じゃあいきますよぉ…せーのっ!はい!」
ペコリーナは頬を赤く染め、目をつぶっている。とても愛らしい。
「くっ、恥ずかしい…!あんまり見ないでくれ…!」
その後、私とペコリーナ氏は恥ずかしがりながら、お互いの体を洗い、そして食事をし、寝た。ペコリーナは最初こそ警戒して緊張していたが、徐々に私に信頼を寄せてきてくれているのを感じた。
―――――――翌日
「ふぁぁ…よく寝たですぅ…あれ、動けないですぅ…」
朝起きると、ペコリーナが私を抱き枕のようにして、両手と両足をからめ、抱きしめていた。
「なんかデジャヴを感じるのですぅ…」
スヤスヤと寝ているペコリーナを起こすのも忍びないと思い、そのまま待っていると、ペコリーナの寝言が聞こえてきた。
「すぅすぅ…お姉ちゃん、もっと、もっと私を滅茶苦茶にして…うーん、あれ、ここは…」
ペコリーナが起きた。
「ペコリーナおはようなのですぅ…ゆっくり休めたようで良かったですぅ…」
「ふぁ、お姉ちゃん、おはよう。私としたことが、お姉ちゃんのあまりの可愛さに抱き着いてしまっていたようだ」
「おはようのモフモフをさせるですぅ…」
私の尻尾と違い、ペコリーナの尻尾はモフモフで触り心地は最高だった。
「今日は稼ぎに行くですよぉ…」
私とペコリーナは朝の準備をすると、すぐにでかけた。場所は宝石商だ。
―――――――宝石商にて
「ようこそお客様、本日は何をお探しでしょうか?」
「原石も扱ってると聞いたのですがぁ、グラファイトの原石はありますかぁ…?できるだけ欲しいのですがぁ…」
「かしこまりました。少々お待ちください」
男は店の奥へ商品を取りに行った。
「お姉ちゃん、なんで鉱石なんて大量に買うの?」
「今はまだ秘密ですぅ…」
男が袋をかかえて戻って来た。
「お待たせしました。今店にあるグラファイトはこれだけでございます。いくつほどご入用でしょうか?」
「全部くださいなのですぅ…」
私はゴールドを支払い、袋ごと全て購入した。
「それとぉ…宝石の買取りをお願いしたいのですがぁ…よろしいですかぁ…」
「買取りでございますね。かしこまりました。」
「ペコリーナ、今から面白いものを見せてあげるですぅ…」
私はグラファイトを一握り掴むと、両手を合わせた。グラファイトは炭素の塊である。炭素に圧力を加えるとダイヤモンドになる事実はよく知られている。
「これを買取りして欲しいですぅ…」
「!?…かしこまりました」
「えっ、お姉ちゃんどうやったの!?」
両手からダイヤモンドの結晶が現れた。ペコリーナと店主は手品か何かだと思っているようだ。グラファイトのダイヤモンド化を進める。グラファイトを両手で握って圧力をかけてはダイヤモンドにして買取りをお願いする。
「ダイヤモンドができたですぅ…買取りをお願いするですぅ…」
店の男は最初こそ平静を装っていたが、次第に怯えた表情になり、私がやっていることが手品でも何でもないと確信すると、泣き出した。
「ま、ママぁ…怖いよ!助けてママぁ!」
「どうしたんですかぁ…まだグラファイトは半分以上残っているですぅ…全部圧縮してダイヤモンドにするんですぅ…あ、そういえば人体も有機物ですから炭素が含まれているんですよねぇ…あなたも圧縮したらダイヤモンドになるんですかねぇ…なんて、冗談ですよぉ…」
私は場を和ませようと冗談を言ったが、完全に逆効果だったようだ。男は失禁した。