~VS麻薬カルテル~
「は…はわわー!」
私は無数の触手に襲われる夢でうなされて目を覚ました。現状を確認する。どうやらミリア氏が私に抱きついていることが、うなされた主な原因だと判明した。ガッチリと体全体でホールドされていて身動きが取れない。
「ふぇぇ…動けないですぅ…」
しかし、気持ちよさそうに寝ているミリア氏を無理に起こすのも忍びない。それに、ミリア氏は良い匂いがして体も柔らかいので、このままホールドされ続けるのも私としてはやぶさかではなかった。
「起きるまで待つですね…」
―――――――10分後
「むにゃ…リオちゃん…可愛いよ…リオちゃん…」「あ、ごめんなさい!そんなつもりじゃなかったの…!」
「全然大丈夫ですぅ。ミリアさんはとっても良い匂いがしたですぅ」
真摯な謝罪を受け入れる。ミリア氏は私をとても大事に思ってくれている。2人で朝食を食べた後、町へ向けて出発した。
「さて、どこへ行きましょうか」
「そうですねぇ…私はこれからハンターとして魔獣を狩っていきたいので、まずはハンターさん達が使う武器を見てみたいですぅ…」
「武器屋ね、分かったわ。行きましょう」
―――――――移動中
「着いたわ、ここよ」
「はわわぁ…すごいですぅ…」
思わず感嘆の声が漏れる。だが、当然の反応であろう、広い店内の中には実に様々な武器や防具が売っていたのだ。しかも見たことの無い形のものばかりであった。また、武器には装飾が施されており、芸術品と言っても過言では無いと感じた。
「色んな装備があるでしょう?どの装備も武器職人による一品ものよ。基本的にはハンター達が狩った魔獣の素材が使われているわ。初心者向けで一番安いのはこれね、ホーンシリーズ。これにはホーンラビットの素材と、魔素を供給するための小さい魔石が使われているわ。ホーンブレード、ホーンジャベリン、ホーンアックス、色んな武器があるわよ。値段は一番安いホーンナイフが8000ゴールドで、一番高いホーンステッキで1万5000ゴールドね。逆にこの店で一番高いのはアレね、プロミネンスシリーズのプロミネンスソードだけがあるわ、あれにはプロミネンスドラゴンの素材が使われているわ。プロミネンスドラゴンはこの町から森を超えた先にある、レッドマウンテンの主よ。でもあの値段は売る気が無いみたいね、ただの店主のコレクションよ」
「ふぇぇ…素材の魔獣ごとに分けられてるんですねぇ…」
「そうよ、それに見て。同じような武器でも装飾や作りがそれぞれ違うでしょ?作ってる人が違うのよ。職人によって武器の作成方法が微妙に違うから、技術の差がでるの。一番顕著な例は魔素伝達率ね、同じ魔石を使っても魔素の伝達率が高い方が、魔石から供給される魔素によって強い武器になるわ。例えば、炎の魔石を使用した武器で、切った時の炎の大きさが変わるとか」
「性能が悪くても見た目が良い武器が売れることはよくあるわね。自分の命を預けて一緒に戦う相棒だから、皆見た目も気にしているわ。また、有名な職人になると自分の名前と番号を振って付加価値を高めている人もいるわ。」
「はわー、そうなんですねぇ。この筒状のものはなんですかぁ?」
私は筒状の武器に興味を示した。私が居た世界の銃と形が非常に似ていたためだ。
「それは、魔銃よ。魔法使いはステッキを補助に魔法を出すのがスタンダードだけど、魔銃は魔力が無い人でも簡単に魔法を使うことができるの。魔石を素材にして作られた魔弾を、風の魔法を使って発射するのよ。遠距離においては圧倒的な力を誇る魔銃だけど、デメリットもいくつかあるわ。使う度に魔弾を買う必要があること、魔法と違って直線的な攻撃しかできないこと、魔弾を装填するのにスキが生まれてしまうこと、距離を詰められたら使えないこと、などよ。特にダンジョンでは距離が無いことがほとんどだから使いにくいわね。」
「今度使ってみたいですぅ…」
「そうね、午後になったら私の魔銃を貸してあげるから試し撃ちしてみると良いわ。魔獣によって武器を変えるのは基本だけど、特に魔銃を使うと簡単に倒せる魔獣は沢山いるから皆一つは持っているわ。というのも、私もハンターの端くれなのよ。ハンターは収入が安定しないし危険だから、本職はギルド職員だけどね。」
「ふぇぇ…そうだったんですね…」
「じゃあ武器屋はこのくらいにして、次は宿屋を見に行ってみる?」
「はいなのですぅ」
午後にミリア氏の魔銃を借りて撃ってみるのが楽しみだ。宿屋、家の無い私にとって寝床の確保は重要事項である。いつまでもミリア氏のお世話になるわけにはいかない。
―――――――移動中
「着いたわ、この辺り一帯が全て宿屋よ。値段とグレードはピンからキリまであるわ。相部屋だったり、1人部屋だったり。狭かったり、広かったり。この町はハンター達が集まる拠点になってるから宿泊業は盛んなのよ。」
「はわわ…沢山あるのですぅ」
「リオちゃんはお金を持ってるから、相部屋は論外として、グレードが高い所に泊まれば間違い無いと思うわ。」
「はいなのですぅ」
私は可愛い少女であるので、男性と相部屋になった場合、着替えの時などギラギラとした視線が刺さるのは容易に想像できる。また、毎日お風呂やシャワーなどの設備を利用したいため、その点もグレードの高い宿に泊まれば解決できるはずである。
「それとねぇ、この辺りには羽振りの良いハンターが沢山いるから娯楽施設も多いのよ。酒場だったり、ショーハウスだったり、小規模なオークションが開催されたり、カジノもあるわ。ちょっと行ってみる?」
「行ってみるですぅ」
ミリア氏と近くのカジノに行ってみることにした。カジノは宿泊施設と一体になっており、入り口にボーイが立っており、宿泊施設の利用者で無い人は入場料を取るとのことであった。私とミリア氏は入場料の1万ゴールドを払い、入場した。
「昼間だけど人が沢山居るね。ハンター達は一回大きな仕事で稼いだらしばらく遊んで暮らせるから、暇な人達が多いのよ。色んなギャンブルがあるけど、一番分かりやすいルーレットをやってみる?」
ルーレットは地球のルーレットとほぼ同じであった。玉を回転する円盤の中に放り投げ、円盤のどの部分に玉がおさまるのか当てるというものだ。円盤には様々な数字と色が書かれており、どこかに玉がおさまるようになっている。円盤の隣には広い机があり、円盤の数字と色と対応している。ディーラーが玉を投げ、円盤の中でしばらく回転している内に予想した場所を、机の上にチップを置くことで意志表示するのだ。
「賭けた場所に入る可能性が低いほど、当たった時に貰えるチップの倍率が多くなるわ。黒と赤、どっちかに当たったら2倍で返ってくるのよ。でも見て、0と00の場所は緑色だから、黒か赤に賭けた場合の確率は50%じゃないのよ」
2人とも1万ゴールド分のチップを交換してもらい、適当に賭けて遊んでみることにした。だが、私は途中でとんでもないことに気付いてしまった。驚異的な動体視力によりディーラーが投げた球がどこに入るのか正確に分かってしまうのだ。見るという力が常軌を逸していた。ディーラーの身長がディーラーが持っている玉、何個分なのか、小数点以下10桁までは答えられそうだ。玉の秒速も一瞬で測定できた。また、玉の速度がどのくらいで減速するのかも分かってしまった。ルーレットの設備が精密な作りだったことも災いしている。もし円盤の場所によってがたつきがあったらもう少し観察する必要があった。
「黒の14番に1万ゴールド賭けるですぅ」
「えっ、ちょっとリオちゃん嘘でしょ。一点張りは36倍の払い戻しだけど、実際の確率は0と00があるから38分の1、数字にして2.631579%よ」
「大丈夫ですぅ」
入った数字は黒の14番であった。ミリア氏が大変喜んで抱き着いてきたが、ズルをしているような気分になったので、一緒には喜べなかった。1万ゴールド分のチップが36万ゴールドになった。
「赤の27番に36万ゴールド賭けるですぅ」
「ええっ!リオちゃんどうしたの!?」
ミリア氏がえらく驚いている。当然の反応である。傍から見ればわざと負けようとしているようにも見えるだろう。また、2回連続での低確率の場所への高額ベットでギャラリーも集まり出した。行けお嬢ちゃん、というようなヤジが沢山聞こえる。あまり目立ちたくは無かったが、仕方のないことだ。
入ったのは赤の27番であった。ミリア氏は今度は茫然としている。2回連続で一点張りが当たる確率は0.069252%である。10回連続で赤か黒に賭け続けて勝つ確率と同じくらいだ。そして36万ゴールドの36倍、1296万ゴールドが手に入った。オーディエンスの興奮も最高潮に達している。店にいる客が全員集まっているんじゃないかと予想する。
私は次に投げる球を待っているとディーラーに異変が起きた。
「お、俺は…も、もう投げられない…!お、お嬢ちゃんは次にどこに落ちるか分かってるんじゃないのか?」
「全然分からないですよぉ。だから、早く投げて欲しいです、次も一点張りして1296万ゴールドを4憶6656万ゴールドにするんですからぁ」
オーディエンスがまた沸いた。
「ヒッ…4憶…」
「大丈夫ですよぉ、どこに落ちるか本当に全然分からないんですぅ。本当に、今はまだ、全然分からないですからぁ…」
「今はまだて…!投げたら?投げたら分かるの?やっぱ答えないで!聞きたくない!うわぁぁぁぁぁ!」
ディーラー発狂し、どこかへ走り出してしまった。ただ、仕方のないことかもしれない。ふらっとやってきた少女がいきなり一点張りを2連続で当て、3回目もなお自信満々で当てようとしているのだから。ディーラーが居なくなり、ルーレットが出来なくなったので私は1296万ゴールドのチップを換金し、ミリア氏と別な場所を見に行くことにした。
「今度は広場に行ってみようか。綺麗な噴水があって、定期的に噴水のショーが行われているんだよ」
広場へ行くと中心に池のような場所があった。よく見ると池の中に噴水用の設備と思われる装置が沢山設置されていた。おそらく時間になると噴水のショーが始まるのだろう。ミリア氏と何をするでもなく過ごしていた。
―――――――その時であった。
100mほど離れた建物の屋根の上から私の頭めがけて高速で魔弾が飛んできたのだ。私はそれをキャッチすると狙撃手の元へ走り出し跳躍した。100m程度であれば一回の跳躍で難なく飛ぶことができる。狙撃手の隣へ着地し、ポカンとしている狙撃手から魔銃を取り上げると調教を開始した。
「今のは多分攻撃ですよねぇ…もう攻撃して来ないで欲しいのでこの魔銃丸めちゃいますねぇ…」
私は長い風船でプードルを作るかのように魔銃を丸めた。丸めている途中で男は失禁したが、騒ぐことは無かった。そして男に少し前まで魔銃だった丸い物体を渡しながら言った。
「絶対無いと思うのですがぁ…本当に絶対無いと思うのですがぁ…、本当の本当に、全然分かってもらえなくて、万が一ですよ?万が一、次に同じようなことがあった場合、魔銃を丸めても意味が無かったってことでぇ、今度は魔銃を使用した人を丸めることにするですぅ」
男は生気の無い顔でポカンとしていて不安だったが、失禁したので伝わったと思い、その場を後にした。
ミリア氏の元へ戻ると、ミリア氏は何人もの男の集団に捕えられていた。ミリア氏は男の1人にナイフを突きつけられている。
「来やがったな!そこを動くんじゃねぇ!こいつがどうなっても良いのか!?ああ!?」
「リオちゃん!逃げて!こいつら本当にヤバイやつらだから!」
「お前ら、早くSランク魔獣用捕獲ネットで捕えろ!念のため3重にしておけ!」
男の合図で発射されたネットに私は包まれた。ネットは発射時は柔らかいが、対象を包むと硬質化するようにできているようだ。1回、2回、3回、私は捕獲ネットとやらに3重に包まれた。
「はい、捕獲完了!バーカ、ちょろいぜ!脳筋野郎が!体をピクリとも動かせねぇだろ?」
あれよあれよという間にネットに包まれてしまったが、ミリア氏を助けることを優先した方が良かったか。デカルトの言葉を思い出す。「困難は分割せよ」まずはできることからやろう。とりあえず調教を開始することにした。
私は両手を上に上げることでネットを引きちぎり、自由になった。そして、バラバラになったネットを拾い、ちぎった。細かくしたネットを重ね、さらにちぎり小さくすることを何度も繰り返す。ブチン、ブチンと音がする行為を取り巻き達は静かに見つめていた。
「ば、化け物…」
取り巻きの誰かが呟いた…包囲網が少しずつ広がっていくのが分かる。だが、身の丈2mほどのリーダー格の男が叫んだ!
「お前らうろたえるんじゃねぇ!俺はこいつの手口を看破した!こいつは一見怪力に見えるが、そう見せかけているだけだ!例えばその捕獲ネット!そんな簡単にひきちぎれるわけがねぇ!どこかでネットをすり替えたんだ!子供騙しだ!」
「ネットがすり替えられていたのには驚いたが、お前何か大切なこと忘れているんじゃねーのか?人質がいることとかをな!」
男が現実を受け入れられないのも無理は無い。もう少し分からせてあげる必要があるようだ。
「ミリアさんには傷一つ付けさせないですぅ…」
「は?だったらおとなしくしてろ!」
「どうせ刺す気が無いですぅ…」
「馬鹿が、考えが甘すぎるぜ…そんなにお望みなら悲鳴を聞かせてやるよ!」
男がナイフを振り上げる、あの軌道だと太ももを刺すつもりだろう。私はそれを見て動き出す。足の指を地面にめり込ませ加速した。ただ地面を蹴るだけでは十分な摩擦が得られず、滑ってしまうからだ。傍から見ている者には私がいきなり消えて地面が爆発したように見えただろう。次の瞬間には男のナイフをつまんで止めていた。
「お分かりいただけましたでしょうかぁ…」
男は失禁した。私はその後、全員に二度と悪さをしないように念を押し、ギャングを解散させた。