~圧倒的なパワー、力こそパワー~
異世界転生した私であったが、転生した世界のことはあまり教えて貰えなかった。今はジャングルの中で一人彷徨っている。
どの方向に村や町があるなど分からない。持ち物はサービスで付けて貰ったこの世界で一般的な服のみ。
現状を確認する。
体の基本ベースは転生前と同じようだが、頭に角が、お尻に尻尾が生えている。驚いたことに尻尾には感覚があり、自由に動かすことができる。大部分が筋肉で占められているようであり後ろ回し蹴りの要領で有効な攻撃をすることができるようだ。
また、手には鋭くとがった爪があった。試しに近くの木を切ってみると、バターのように簡単にえぐることができた。皮膚は見た目は変わりなかったが、非常に硬く、自分の爪でも簡単には切れそうになかった。
そもそもの力が上昇しており、手頃な木を握ってみた所、木が限界まで圧縮され、握った形がそのまま残った。思わず声が出る。
「はわわ…」
まさかと思い、石を握ってみるとプラスチックか何かのようにパキャッと音を立てて割れてしまった。他の生物がどの程度か分からないが、私の常識と比べると非常に強靭な体にしてもらえたようだ。
周りの環境の基本は地球と同じように感じた。
優先順位を考える。まずはこの世界の文明の程度を知る必要がある。とりあえず移動し、人と接触するのだ。
ただ、その前に水を確保しなくてはならない。少なくとも人は水が無ければ3日と生きられない。
ジャングルは水の宝庫だ。植物があるということは水もある。
つる状の植物の根には水がたくさん含まれている。また、湿った地面の下を掘れば地下水がわいているかもしれない。
どの方法が最善か考えていると何かの気配を感じた。聴覚が鋭くなっているのか、嗅覚が鋭くなっているのか、とにかく近くの茂みに何かが居るのが分かった。自衛手段があるので恐怖は感じない。人かどうか確認した方が良いだろう。
「そこに誰かいるですか?」
返事は無い。野生生物か?ここから人のいる場所までどれほど離れているのか分からないが、エネルギーの摂取は必要不可欠だ。動物からはタンパク質、脂質、その他必要な栄養素がまるまるとれる。捕獲しない手は無い。
ゆっくり茂みに近付いていくと、それは突然飛び出し襲い掛かって来た。
私はそいつの攻撃を受け止め、万力のような握力で頭を掴むと、ペットボトルの蓋をあけるように回した。パキャッという音とともに動かなくなったそいつを見て呟いた。
「いきなり飛び掛かってきて驚いたですぅ…でもこれは…角の生えた、白い虎ですか?」
ホワイトホーンタイガーとでも言うべきか。ただ、やたらでかい。体長5mはあるだろうか。明らかに地球ではない場所へ来たのだと実感する。
まずは水分補給をする。頭をねじ切ると、首にある太い動脈から大量の血が湧き出した。のどが渇いていたのでそれを500mℓほど飲む。これでしばらくは水を補給しなくても平気だ。
生肉は腐りやすい。できれば川の近くで解体したかったが、すぐに解体を開始する。血の匂いに誘われて野生動物が集まってくる可能性があるが、自衛手段があるので問題は無さそうだ。爪がナイフの代わりになったので、いやナイフよりも良い切れ味だったのですぐに解体できた。日差しが強い場所で薄く切った肉を石の上に並べた。干し肉にして長期保存するのだ。
「わぁ…なんですかこれは?」
解体していると内臓の中にボウリングの球のような大きさの黒い塊が存在していた。石のように固く、魔石とでも言うべきものだろうか。珍しく、また価値がありそうなので肉を綺麗に落とし持っていくことにした。
「立派な角ですぅ、これも価値がありそうですぅ」
角は頭蓋骨と繋がっていたので根本から折って角だけ持っていくことにした。
「解体できたですぅ!」
内臓はすぐに食べるしか無い。生肉は寄生虫などによる感染症のリスクがあるので、できれば焼いて食べたい所である。火をおこす必要があるが、まず本能ができるといっていることを試してみる。また、多分言う必要は無いが気分的に言ってみたかったので言ってみる。
「ファイヤーブレス!」
火が出た。そして驚いたことに湿った木材がすぐに燃え出した。あまりに高温であるため中の水分を瞬時に蒸発させ燃やしているのだ。ただの火では無いようだ。少し乾燥させる必要があると思っていたが、杞憂であった。
少しずつ焼く方法もあるが肉の量が多いため、まとめて焼くことにした。まずは穴を掘りその下に石を並べ火を入れて加熱する。十分に加熱したあとに火を消し肉を入れ、水分を保つためにみずみずしい葉っぱを乗せ、その上から土を被せ4時間ほど待つ。
4時間待つ間に細長い葉っぱを編み込み、簡易的なかごを作成した。かごの中に焼きあがった肉と、回収した干し肉を詰め込み、人里を目指し出発する。もちろん魔石と角も入っている。持ちきれなかった肉がほとんどであったが残りは焼却処分した。
―――――――肉を食べながら歩くこと1時間。明らかに人が作ったような道に邂逅した。この道沿いに進めば人の住む場所へ行けるはずである。
―――――――道沿いに進むことさらに1時間。ようやく人里に到着した。1時間もの間馬のように走っていたが全く疲れる気がしなかった。
町は大きな壁でビッシリと囲まれており、入り口には門番のような人間が居た。人との初めての接触でやや緊張するが言葉が通じるか確かめるために話しかけた。
「門番さんこんにちはなのですぅ~」
「やぁ可愛いお嬢ちゃん、市民カードはあるかな?」
「持ってないですぅ…市民カードってなんですか?」
「市民カードの存在を知らないのかぁ…うん、分かった。じゃあそこの小屋まで来てもらおうか」
門の裏側にある小屋はしっかりしたつくりで、文明はかなり進んでいるようだった。
「じゃあ、まずはそこに座って」
門番はそう言うとドアのカギをかけた。不穏な空気を感じつつ、私は椅子に座る。
「じゃあまずは服を脱いで」「何か危ないものを持ってないかどうかの確認だよ」「僕は町を守りたいんだ」
私は正直可愛い。体格は華奢で小柄。そして男は、私を力が弱いと勘違いし、立場が弱いと知り、秘密裏に自らの性欲を満たそうとしているのだ。予感していた通りの展開に私は内心溜息をつきながら調教を開始した。
「これを見るですぅ…」
ミリッという音と共に机の端を指でちぎって見せた。そしてそれを机の上に置く。そしてまた机の端をちぎり、ちぎった欠片を机の上に置くということを繰り返した。繰り返す度に机の端が指の形にくりぬかれた部分が増えていき、くりぬかれた机の端が増えていく。厚さ10cmはある机の端が、くりぬかれた力で厚さ1cm以下まで圧縮されている。
「まだ分からないですぅ?分からないなら体に教えてあげるですぅ」
男はしばらく茫然としていたが、目の前で起こっていることが手品ではないことを理解すると顔面が恐怖でひきつり、ものすごい勢いで扉に向かって走り出した。自分がかけた鍵のことを忘れていたのか、パニックになり、開かないドアを何度も押し引きする男の肩を掴むと、ささやいた。
「落ち着くですぅ」
肩にほんの手を添えただけのつもりだったが、男は苦悶の表情を浮かべ、おとなしくなった。
男からこの世界の情報を聞き出すことに成功した。今日起きたことは誰にも言ってはいけないと伝えると、顔面蒼白で何度もうなずいていたのが印象的だった。