消えたティアラ
「「「「「え、ティアラが消えた!?!?」」」」」
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ぽかぽかした春。
6人は陽当たりのいいファルルの部屋に居た。
「あのさ、ちょっと相談があるんやけど…」
そう口を開いたのはルーチェ王女。
「ん、どした?」
「恋でもしたん?」
5人は首を傾げ、ウィンディが茶化す。
「私のティアラが消えてん…」
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「よっしゃ クロス探偵の出番やで!」
ソラがクロスの背中を叩く。
「最後に見たんはどこ?いつ?」
クロスは目をキラキラさせて身を乗り出す。
「えっとなぁ…一昨日の昼かな、ほら、ダンナイトの人達来とったやん」
「あー、君を拐ったあいつらな」
とカーレスが口を挟む。
ダンナイト国はサラチア王国の南西に位置する国で、
「魔法なんて古い」という思想の元科学が発展している。過去にコレクターと呼ばれる美しいものを集める貴族にルーチェは拐われたのだ。その後5人が救出&成敗し、コレクターはお詫びにと科学の技術を学んだ職人をサラチアへ寄越したのだった。
つい一昨日、新しい職人の件でダンナイト国の使者がサラチア王城へと謁見しに来ていた。
「公式の場やったから被っといてて、帰りはった後に外していつものとこ置いとってん」
いつものところとは、ドレッサーの引き出しである。
6人は高価で特別なアクセサリーを持っているので鍵付きの引き出しにしまっているのだ。王女ともなれば当然のことである。
だが…
「置いとったん?入れたんじゃなくて?」
「え、あ、入れt…あれ私置いたまんまやったかも。
んーでもその後はみんなで屋上で久しぶりにちゃんとお茶会してたやろ…?」
5人は頷く。
「帰ってきたときドレッサーの上にはなかったで…?」
「てことは 午後1時から4時頃の間に消えた、と」
クロスが何処からか取り出したメモにペンを走らせる。
「無いって気づいたのはー?」
レティシアの毛を無意識に弄りながらファルルが聞く。
「さっき起きた時やな。ドレッサーちょっとごちゃごちゃしてたから片付けてんけど引き出し開けたときに無くて…ありそうなとことかも全部無かった」
「なるほどね…」
「使いさんには言ったん?」
「まだ〜。大事にしたくないし、第一お父様とかにバレたら終わる」
「確かに」
5人が声を揃えた後一瞬の沈黙。
「さて、一連の事ぞうつぉう取(事情聴取)が終わったところで」
「噛みすぎや」
立ち上がったウィンディにクロスがツッコむ。
笑いながらソラが「どうしようか」と締めくくった。
「あれ、そのティアラってどんなんなんやっけ?」
「金の針金で出来てて、アーチ型が5個ぐらい並んでるやつ。ダイヤモンドが散りばめてあってキラキラして綺麗やねん!」
ルーチェが最後語気を強める。
「あー!あれか!」
「確かに綺麗よなー、あれ」
「つーかまたダンナイト盗ったんちゃうか」
「いくらなんでもそれは無いやろぉ〜」
「あんだけ反省しとったしなー、
てかうちらあれだけしたんやから再犯するとかメンタル強すぎん?」
「まあまあ、取り敢えず城で探そ!」
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「どう?ハイト、ありそう?」
まずはハイトを連れてソラが城を歩き回ることになった。
ハイトはエコロケーションでティアラを探すが、
見つかっていなさそうだった。
「なんか城にはないみたいや…」
部屋に戻ってきたソラが残念そうに言う。
「まじかぁ…」
「あとは…学校?」
「まっさかぁ!」
「もうこれ使いさんに言わなあかんのちゃう?」
困り眉でウィンディが提案する。
「うーん…」
「口止めしたったらええねん!!」
悩むルーチェに喜々とクロスが言う。
「なるほどね、そっか、そうしようかな」
「くれぐれも誰かに言わんように、ってな!」
人差し指を唇に当て、クロスがウィンクする。
「クロス テンション高いなぁ」
「そらそうやん!事件やで?事件。
しかもティアラ消失事件とか完璧やん!!」
いつもクロスがテンション上がるときはサイコパスな考えをしている時やけど今回はちゃうんやな、いや、ちゃうくないわ、なんて思いながらファルルは「何がやねん」と笑ってツッコんだ。
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チリンチリン
ルーチェは召使いを呼ぶ紐を引っ張る。
しばらくすると扉がノックされ、ルーチェの専属の召使い、レオルの声が聞こえた。
「失礼します、ルーチェ様。どうかなさいましたか」
レオルが入ってくる。
「急に呼んでごめんなさいね。ちょっと相談があって…」
「なんなりと」
「くれぐれも誰にも言わないで頂きたいのだけど、一昨日ティアラが無くなって…良ければ探して頂けないかしら。ソラのところのハイトに探してもらったんだけど城には無いみたいで」
「承知しました。口外致しません」
「兎に角お父様には伝わらないようによろしくお願いしますね」
「分かりました」
レオルは少し口元を綻ばせた。
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「あ、おかえり」
「ただいま」
「口止めした〜?」
「したよー、まぁ探してって言っても誰にも言わんっていうのは流石に無理やろうし、取り敢えずお父様には言わんでねって言っといた」
「なるほどねー」
「あ、そういやさー…」
そうしていつも通り雑談が始まっていく。
コンコンコン
「失礼します」
レオルの声だ。
「え?あぁせやせや、どうぞー!」
「忘れてたんかい」
「探索犬に少し探らせたところ、街の修理屋の方へ向かったため誰かが修理に出させたのでは無いかと…」
「分かった。ありがとう。その探索犬には大きな骨クッキーをあげてね。レオルももう休んでていいわ。」
「了解致しました、失礼します」
「骨クッキーて」
「美味しそうやな」
カーレスとファルルが笑う。
「修理屋…行こか〜」
「でもみんな外出んの危なくない?」
「変装しよーや!!」
またクロスが目をキラキラとして提案する。
「面白そうやな!私もやってみたい!!」
ウィンディも目を輝かせた。
「変装…やなこと思い出したやん…」
ファルルが目を細める。ファルルは前にルーチェの変装をしていわく付きのパーティーに行ったのだ。
「結局あん時また成敗したんやしええやろ!」
ソラは満面の笑みでそう言った。
「でもそれいいな!私もそんな外出られへんし」
ルーチェが賛同する。
「ルーチェも賛成ならみんなで変装やな!」
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30分後。
ファルルの部屋には村に住んでいるような娘が6人いた。
「服は完璧やな!」
「問題は髪と目やな〜」
「レスとハルとクロスはまだ髪はいけるんちゃう?」
「クロスその黒いとこ隠さなな」
カーレスは赤毛、ファルルは金髪、クロスは灰色に一房だけ黒の髪だ。
「青髪は少ないやろうし白髪はほぼ王家だけやし私なんかいる訳ないもんな」
ウィンディが言う。
ソラは青髪、ルーチェは白髪、ウィンディは焦げ茶から毛先にかけてミント色だ。
「ウィンディ強い風吹いたら一瞬でバレるでな」
ヴィエトル家の者はどんな風が吹いても髪がボサボサにはならず、綺麗になびく。サラチアの不思議の一つである。
「あー、じゃクロス、闇魔法で3人の髪暗くしてくれん?」
「おけおけ」
クロスが3人の髪に手を当てると、ソラは紺の髪に、ルーチェは灰色の髪に、ウィンディは焦げ茶の髪になった。
「ありがとー」
「私とルーチェおそろやな!」
「せやな!」
灰色髪のクロスとルーチェが笑い合う。
結局目は髪を変えていない3人にルーチェが光魔法をかけ、色が違うように見えるようにした。カーレスは青目、ファルルは赤目、クロスはピンクの目になった。
ちなみに髪型は髪の長いルーチェとファルルがおさげ、クロスとウィンディとソラがポニーテール、カーレスは顔の横が三つ編みだ。
「さて、行きますか!」
6人は城の裏口からこっそりと出ていく。
「こういうのほんと好き、憧れやわ」
ウィンディがヒソヒソ声で言う。
「のこのこと外出られんもんな」
クロスもまたヒソヒソ声で相槌を打つ。
「だって外出るん公務かアニメイトだけやしね」
「しー!」
ファルルが注意する。
目を上げると、馬を連れた召使いが歩いていた。
「馬は使えへんな」
「まぁ近いし歩きでええやろ」
「せやね」
城門を出て、しばらく歩いたところで足を止める。
「よし、ここまで来たら大丈夫っしょ」
そう言ってカーレスが上着のフードを外す。
それに続きみんなもフードを外した。
ここからは商店街だ。
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「すごー!」
「見てあれめっちゃ綺麗!」
6人は街を歩き、あまり見ることの出来ない光景にテンションを上げる。
「こんなん見てたら目的忘れそうやわ!」
「変装いいアイデアすぎる」
「んでうちら修理屋さん行かなあかんねやったな」
「そうやったな」
少し行ったところに金槌と金床の絵が描いてある看板を見つけた。『グリーバの修理屋』と書かれている。
「ここや!」
カランカラン
「ごめんください」
「おお、お嬢さん達、最近多いね、どうしたんだい?」
右腕に火傷の跡があるおじさんが奥からやってきた。
「金色のティアラを知りませんか?」
クロスが率先して聞く。
「あのダイヤモンドが散りばめてある高価そうなやつかい?」
「ダイヤモンドかどうかは分からないんですけど、キラキラしてて…」
「この子が持ってて、無くしちゃって、友達に聞いたらこの修理屋で持ってる人見たって言ってて…」
事前に話を合わせるのを忘れてごちゃごちゃになってしまったがなんとか伝わったようだ。
「ああそうかい。多分その友達の話はあってるね。
こないだお嬢ちゃん達ぐらいの女の子が来てね、割れたそのティアラを持ってきて『このティアラをできるだけ早く直して頂けませんか』って」
「割れた…?」
「そうだ。ティアラ自体強い魔力があったから割れるのも相当な魔力がかからないといけない。どうして街の人がこんな魔力を、って思ったけど願いなら聞き入れないとね」
「そうなんですか…」
「それで、直した後どうされたんですか?」
「その子が今朝取りに来たから渡したよ。そのティアラをどうするのか聞いたら『友達の誕生日に渡すものなんですけど鷲に壊されてしまって』って言ってすぐに出ていっちゃったんだ」
「鷲…」
「なるほど…ありがとうございます!」
「少ない情報量で申し訳ない」
「いえいえ、大丈夫です!」
「じゃあ失礼します!」
「またお越しくださいませ」
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「高い魔力の謎の少女!最高やね!」
クロスは前よりもテンションが上がっている。
「てかさ、これ私らっていう可能性ない?」
「え?」
「あー確かに?」
ソラの言葉に5人は驚きつつも納得する。
「同年代で魔力高くて…」
「まずまずティアラ何故か持ってて…」
「てか明日ルーチェの誕生日やし」
「辻褄合いすぎやろ」
「ほんまやね」
思えば思うほどこの中に居る気になる。
「まさに『犯人は…この中にいる!!』やん」
「おいそれ私のセリフ!!」
セリフをとってしまったカーレスをクロスがぺしっと叩く。
「そういやこないだ変身薬が1つ無くなってたな…」
ソラが呟く。
「え、それ確信犯やん」
ルーチェが目を見開く。
「1つを2回に分けて使ったら確かに性別と年齢までは変えられへんしな」
ファルルが頷く。
「疑心暗鬼もあれやし、またアニメイト行かん?ち、ちょっと好きな漫画の新刊が出てんけど…」
ウィンディが少し慌てたように誘った。
「せやな、行こか」
「おけー」
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「はえ、ただいまー」
ほぼ魔法が消えかけた6人が部屋に帰ってきた。部屋にはいつも通り使い魔達が寝そべっていた。
「ハイトーー!!」
クロスがハイトに抱きつきに行く。
「だから姉様、ダーネs…あれ?」
「ん?」
「姉様、ダーネスは?」
「あーえっとね、多分私の部屋にいると思う。
なんか機嫌悪くて、1人にさせろって私が追い出されちゃってん」
「あらら…」
「いつものツンデレやと思うけどな」
クロスは笑う。
「あのツンデレめ〜」
ウィンディが空中を突く。
「それでー…皆さん、何か隠してることはないですか!怒らないから出てきなさい!」
ウィンディが(どこかのねずみのような)変な声で言う。
「ねぇねぇクロス」
カーレスがクロスに耳打ちする。
「ん?」
「修理屋のおじさん、女の子が『鷲に壊された』って言ってたって言ってたやん、クロスちゃうの」
クロスは少し微笑んで、急に立ち上がった。
「いやぁ…バレちゃあしょうがねぇなぁ!」
「「「「え?」」」」
「え、クロスなん」
「あ、やっぱり鷲って…」
「明日にどどーんとするつもりやったんやけどなぁ!」
「どういうこと?」
ルーチェの言葉に4人は頷く。
「まぁ結論から言えば、ルーチェの誕生日サプライズという名のドッキリやねんけど…まさかティアラ無くなってることに気づかれるとは…流石ルーチェや」
まだ5人の頭にはハテナが浮かんでいる。
「まずね、普通に…普通ってのもおかしいけどルーチェへのサプライズを準備してたんよ。それにダーネスも手伝って貰ってたんやけど、そのティアラに仕掛けをしようと思ってダーネスにティアラを持ってこさせたの。そしたら急にドアがあいてウィンディが入ってきて。ダーネスに隠させたらその勢いで壊れちゃって…」
「あー、あのときやったんや」
ウィンディが申し訳なさそうな顔をする。
「そんときはまぁダーネスが下にネズミがおったからそれを追いかけて突っ込んだってことにしてんやけど…」
「だってやっぱ凄い音してんもん」
と口を挟む。
「そんで…ソラが言ってた通り変身薬を取ってきて、飲んで、修理屋さんへ行ったって訳」
「なるほどね〜」
「今朝また変身薬残り飲んで、回収してきたんよ」
「え、じゃあなんでハイトは城で見つけられんかったんや?」
ファルルの言う通り、ハイトのエコロケーションにかかれば何でも見つけられるはずだ。
「そう!私あれ初めちょっとヒヤヒヤしててん。見つかるかなって。でも見つからんかったな」
「あ、ハイト多分クロスの部屋にビビったんやと思う。クロスの部屋なんかいっぱい毒とかありそうやし。無いか聞いた時もちょっと自信なさそうやった」
ソラが言うならきっとそうなんだろう。
「あ、確かに怖いわ」
「怖いなぁ」
「なんかいい気分はしないけど、まぁ見つからなくて良かったよ」
「探索犬も欺いたん?」
ルーチェが聞く。
「欺いたって」
笑いながらツッコみ、話を続ける。
「探索犬は…またビビられたんちゃう?知らんけど」
「逆に凄いな、クロスの部屋」
「今度またみんなで行ってみっか」
「んで今ダーネスは?」
「追い出されたってのは嘘で、サプライズの準備してもらってる」
「言ってくれたら私の使い魔も寄越したのに」
「ていうかこんな思いっきりサプライズのネタバレしていいの!?」
「ルーチェ察し良いし結局バレそう」
「確かに」
「えー、してよーー」
「ほらぁ、言われてまっせ」
「いやぁやっぱルーチェには勝てへんなぁ…」
クロスがしみじみ言う。
「てかティアラになんか仕掛けようとしてたって、何しようとしてたん?」
ソラが聞く。
「なんか…爆発してる風に見える感じに」
「「「「「えええええ!?!?」」」」」
「逆にティアラ壊されて良かったかもな、ルーチェ」
「いや、見えるだけやから!!」
今回のティアラ消失事件は平和に終わりそうだ。