9999億枚目の鏡を割ったんじゃが、なにか質問あるかの?
かるく読んで笑ってもらいたくて書きました。よろしくお願いします。
『--創生の代より伝わりし深淵の闇よ、引き裂き、喰らい、飲み込み、此の者を打ち滅ぼっ・・・』
パリィン、、、
ガラスの割れるような美しく透き通ったような音が辺りにこだまする。
ふむ、今回の音はなかなかにいい音じゃのう。わし、ちょとだけ聞き入ってしまったぞい。さあて次じゃ、次。今回はどんな子が目覚めてくれるのかのう。
こうテキトーに詠唱やら呪文やらをちょいちょいっと唱えて、なんかこうグアーーって感じで魔法陣とか書いていくぞい。それから鏡の中にいる子にお話を聞くのじゃ。そうそう、こんな風に。
「とりゃっ!!」
『「『私をを呼び出しますか、万物を見通し知覚する知彗の神が具現した私を。あなたの望む知識を授けましょう、すべては貴方の御心のままにお答えしましょう。』」』
おお、今回の子は物分かりがよくて助かるぞい。さっそく質問じゃ。
「鏡よ、鏡、世界で一番かわいいのは、わしの娘のアマリリスちゃんであろ?」
『「『いいえ、白石麻衣っッーー』」』
ピシッ、パリィンーーーーー
まったく、どいつもこいつも何にもわかっておらんようじゃな。世界一かわいいのはアマリリス、わしの娘のアマリリスちゃんに決まっておろうが。
ほんとに最低限の常識もないとか困ったものじゃ。義務教育以前の問題じゃぞ、知識とかどうたら言うまえに幼稚園から人生やり直してきてほしいもんじゃ。
もう少し常識のあるやつがおるといいのじゃが。
それにしても、思えばずいぶんと鏡を割ってきたぞい。今やわしの娘、アマリリスちゃんも御年87じゃ。最近体にガタがき始めたのか全身をチューブにつながれながら、嘘偽りなく世界で一番自分のことをかわいいと言ってくれる鏡を心待ちにしておる。そんなアマリリスちゃんとおしゃべりすることもわしの日課の一つじゃ。
今日もわしは自分の娘に話しかけるぞい。
「アマリリスちゃん~、元気ですかー?」
「こしゅー、こしゅー・・」
今日も元気そうで何よりじゃのう、最近は人工呼吸器にも慣れてきたみたいで、こうしてまたお話もできるんじゃ。わしはアマリリスちゃんと以心伝心、心が通じ合っているから今のやりとりでも意思疎通がちゃんとできておるのじゃ。異論なんぞ口にした奴らはみんな鏡みたいにバキバキに砕いてやったぞい。
というか自分の娘が87ってオマエいくつなんだよ、って思った人もおるかもしれんのう。内緒なのじゃ、それは。
さてさて、今日も鏡とおしゃべりするかのう。最近は喋れるようなランクの鏡の調達も困難になってきて、わしも結構な苦労をしておるんじゃ。
そうしてわしがいつものように鏡との対話を試みようとしたときのことじゃった。
ーーキィンン
気づけばわしの首に鋭利な刃物が突き立てられておる。危ないのう、わしが健康のために体を鍛えておらなかったら即死する一撃じゃったぞい。
それに続けざまにあらゆる属性の魔法が四方八方から飛んできおる。
ほほう、腕のいい術師もいたもんじゃのう。一見、多くの魔導士から攻撃されたように思うかもしれんが魔力の波長からしてこの魔法はすべて一人の使い手から放たれておる。魔法の軌道だけでなく属性までも完璧にものにしておるし、なかなかに威力もある。これは厄介な相手じゃ。
「師匠、久しぶりですね。」
「やめろ、帝国の定めるS級犯罪者に口なんかきくな。」
ほう、二人とも見知った顔じゃ。わしの首に刃を突き立ててきた若僧、コイツは確か以前の勤め先で見た覚えがあるぞい。相も変わらず剣ばかりふるっている役所の犬って感じの堅物じゃ。それに、どうやら支給されている武器から装備に至るまで帝国の至宝と呼ぶにふさわしいものばかりじゃ。出世したんじゃのう。
もう一人の術師は見違えたが間違いないぞい。なんとコイツ、以前にわしが面倒見てやったことのあるガキんちょじゃ。当時は学生の分際で、学業そっちのけでしつこくわしに付きまとって教えを乞うてきおったやつじゃ。仕方ないのでいろいろ教えてやったのう。まさかこれほどの逸材に育つとは、そればかりに惜しいわい。わしの老後の生きがいを邪魔したばかりにその才能を無に帰してしまうのじゃからのう。
わしは仕方なしに術式を展開する。
それにしても、たまにはアマリリスちゃんとその辺の鏡以外とも話さなければ世間に疎いただの爺になってしまうんじゃないかって心配しておったところなのじゃ。ちょうどいいときに人が来たもんじゃわい。少しは楽しませてくれそうじゃしのう。
「そうれッ!!」
わしは今しがた組み上げた術式を魔法へと変換して、目の前の2人がいる空間ごと覆い尽くすようにして電撃を発生させる。これで今夜の晩ごはんは役所の犬の丸焼きじゃのう。
「ジークっ!!」
「わかってる。」
そうしてジークとかいう魔術師のガキが半透明な壁を作り出しおった。やりおる、土属性と火属性の合わせ技でガラスをつくり、この一瞬で発動させるとは。これではわしの電撃もガラスのせいでとおりが悪いのう。
ならばそのガラスごと溶かしてやるわい、わしの十八番、炎熱魔法じゃ。
わしがすでに練り上げておる分の魔力から即座に魔法を発動させようとした、そのときじゃった、
「チェックメイト」
わしの心臓が背後から貫かれたわい。
・・わしの背後をとったうえに、致命傷か、
「年は取りたくないもんですね、師匠。この程度の分身も見抜けないようではさすがの貴方もおしまいです。」
「ふん、言うようになったのう。」
正直、わしもこんなガキに不覚をとるとは驚きなのじゃ。
「ええ、自分の娘と勘違いしてあなたが溺愛してきたそこのチューブまみれのババアくらいおわっていますよ。」
・・なにをを言うておるんじゃ、
わしがその言葉の意味を理解できずにいるのをおかまいなしにジークは続けおる、
「声も出ませんか、いいでしょう。冥途の土産に教えてあげます。
先代の王の娘ですよ、アマリリスは。当時、強力な魔法使いの血を王家は絶えず求めていました。戦争から国民の生活に至るまで魔法は役に立ちすぎる。そしてあまりにも希少だった。
そこで先王は国中を探し回って優秀な魔法使いの妃を探していました。しかし探せど探せど見つからない。とうとう先王も魔法使いの遺伝子を諦め、血筋だけは由緒正しい娘を妃にし子をつくりました。女でしたよ、その赤ん坊は。
そうして当時、王宮ではもう一人、赤ん坊の女の子が生まれていました。どちらも優秀な魔法使いから生まれた赤ん坊です。」
「・・・・ 。」
「そう、貴方の娘です。
もうおわかりでしょう。すり替えられていたんですよ、あなたの実の娘は。
今は先王がつけたリリーという名前で生きています。
そうそう、リリー王妃はいま子ドぼおッ・・!?」
ふむ、なんか手が勝手に動いたぞい。
おや、なんかさっきから師匠、師匠と連呼しておったガキんちょの頭が消し飛んでおる。ジジイになるとこんなこともあるんじゃのう、こわいこわい。わし、気づいたら歩いていて全然知らん街にいたとかイヤじゃぞい。脳トレとかしようかのう。
そうじゃ、忘れておったが、もうついでじゃから役所の犬その2も今のガキんちょと同じところに送ってやるわい。
「さよならじゃ。」
不思議ととっても気分がいいから特別大サービスで全身を消し炭にして火葬してやったぞい。Mr.役所の犬その2がこちらを驚きの表情で見ておったが気にしないことじゃ。
それになにやら犬がキャンキャンほえておったようじゃが、それも気にしないのじゃ。
胸のあたりがポッカリ穴が開いたみたいにスースーするのも同じじゃ。気にしないことじゃ。その方がいろいろ気にして生きるよりも楽なのじゃ。
さて、また始めるぞい。
「鏡よ、鏡、世界で一番美しいのはわしの娘、アマリリスちゃんであろ?」
ーーパリィン
百合の花言葉は"偽り"、
アマリリスの花言葉は"強い虚栄心"。
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