思い出す事件・四
橋本は坂下の顔を見つめる。二人の鋭い視線が重なり、冷たい風が身に染みる。その時に橋本の後ろから少し怒っているような声が聞こえた。
「私を犯人にしたかっただけでしょ!」
中川だった。橋本が振り返ると、彼女は顔をしかめていた。彼女は橋本の驚いた表情を気にしないで、さらに怒鳴るように言った。
「今まで、こんな変態なことして、被害者とか言ってるのは変でしょ!」
心の中に溜まっていた怒りや苦しみを一気に吐き出しているように見えた。ここまで言われたので坂下も少しは驚いているだろうと思いつつ、橋本が坂下のほうへ顔を向けると、予想とは違って、彼は憎しみのオーラを顔面から漂わせていた。驚いて一歩下がっているのではなく、逆に反抗しているのだ。
彼は舌打ちをした。舌打ちをすることで、怒りが身体の外へ出ないように抑えているのかもしれない。一触即発の雰囲気だった。そして、その間に橋本が棒のように立っている。
場面が変わったかのように、マンションの入り口の前で三人の中に沈黙が流れる。吹き続ける冷たい風が二人の熱を冷やしてくれることを橋本は願った。その願いが通じたのか、中川が呆れたような口調で言った。
「部屋に戻る。橋本、ごめんね」
そして、彼女はマンションの中へ入ろうとする。その時に坂下が冷たい声で言い返す。
「逃げるのか」
彼が倒れていた時と今の彼では別人のように橋本には見えた。これが二重人格というものだろうか。彼の睨んでいる目は中川に向けられている。
中川は足を止めた。そして、面倒なことに巻き込まれたと思っているような表情を坂下に向ける。それを見た橋本が弱気な口調で彼女に言った。
「まあ、このままマンションに戻っても、坂下は諦めないと思うし……」
「……嫌な人」
彼女は諦めているように見えた。仕方ない、坂下の相手をするか、と思っているのかもしれない。本心がどうなのかはわからないが。もしかすると、彼女が犯人の可能性もあるし。
ということは、俺も容疑者の一人になるのか――という言葉が橋本の脳裏に浮かんだ。それと同時に、橋本の心の中に変な感情が生まれる。心が飛び跳ねて、「面白い」という感想が思いつく、この空気に一番合っていないと思われるこの感情は何だろう。
橋本が口を開いた。
「で、坂下。最終的にお前はどうしたいんだ?」
中川は坂下を嫌うような目で見つめていた。坂下は中川とは目を合わせないようにして、答える。
「謝ってもらうし、まあ、木村にも伝えておきたい。誤解されるのは嫌なんだよ」
お金のことを言わなかったことに橋本は少し感心した、……というのは、過大評価かもしれないのだが、本気のように見えたのは確かだった。
彼は続ける。
「僕を押した中川が犯人であると、伝える」
坂下と中川の危ない視線が重なる。口論になることを恐れた橋本は急ぐような口調で坂下に言った。
「まあ、決め付けるのは変だろう? 他にも容疑者はいるんだ」
すると、彼は橋本を見つめた。疑っているような目だった。俺が犯人だと言いたいのか、と心の中で反論する。
もうすぐでクリスマスですね。皆様は何をする予定でしょうか。僕は特に何もしません。友達と遊ぶかもしれません。カラオケとか行きたいです。――クリスマスが無くても良いような気もします。
意外と恋人がいる人って少ないような気がするのですが、どうなんでしょう。隠しているのでしょうか。クリスマスの夜は一人で小説でも読もうと思います。恋愛小説は何となく嫌なので推理小説にします。
こういうのが、僕には似合っているようにも思えます。