放課後の死神 相対の心
たんぺんむず
「──やっとお前を殺せるよ」
背筋を貫く衝撃と共に誰かが独り言を呟く。
「あ、がぁ……いや……」
ひどく鋭利なそれは、華奢な体など貫くに障害などなかった。
「がっ、がふッ……!」
私は込み上げてくる何かに嗚咽する。感じたことのない激痛と既視感のある衝撃に悶えながら大量の汗を流す。
背中を貫かれた事実。そんなのは二の次と言わんばかりのショッキングな衝動が全身を震わせる。
「ハァ……ハァ……」
ゆっくり……
「ハァ、ハァ、ハァ、」
殊更にゆっくり……
「ハァハァハァ……」
私は振り返った。
相反して荒れていく呼吸に更に吐き気を催しながら──。
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私が初めて人を殺したのは1年前。
全くの恐怖はなかった。罪悪感のカケラすらなかった。
肩にかかるほどのあの綺麗な髪が嫌いだった。
凛とした瞳が嫌いだった。
一匹狼のくせにミステリアスを気取ったあの女が嫌いだった。
何より私が好きだった人を夢中にさせたあいつが大嫌いだった。
だから殺した時はスカッとした。憎悪に満ち溢れた私の心が浄化されたようにすら思えた。
欲を言えば血みどろの血だるまな姿が見たかった。痛みに打ちひしがれるあの女が私に命乞いする姿が見たかった。
それでもこの女を殺せた快感は計り知れない。憎い女の肉体を纏う事だって我慢できる。
それに──放課後窓を眺めるだけであなたは私を見てくれる。昇降口とは反対方向の教室にいる私をわざわざ見てくれる。
生前の私に向けた目とは裏腹な瞳。背筋が反り返り足がすくむほどの目を、あなたのその瞳が全てを上書きしてくれる。
それが今の唯一の楽しみ。救い。
あんなクソ女のクソみたいな行動をトレースする私のぐちゃぐちゃの心中を潤す僥倖。
だから私は今日も放課後に────。
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「ハァ、ハァ、ハァ、」
心臓がバクバクと鼓動する。ドクドクドクと冷や汗が噴出する。
だってその声は──
い、い……や。いやいやいや!嫌嫌嫌ァアアッ!
私は殺される。一番好きな人に殺される……いや、そんなの嫌!
それでも──
「ハァハァハァ……」
堪らず振り返ってしまった──。
「あ…………がっ……」
絶句。
そこにはあの人は居なかった──。
憎くて大嫌いっだったあの女が舌を出して嗤っていたから──
「ッッみハァァアア゛────────」