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第64話 幸子の闘争心

いよいよ試合が始まった。

まずは…

まずはチャンピオンを肌で感じること。

やっぱり直に戦ってみないと、本質は見えないと思う。

ガードを固めて、ゆっくり近づいていく。

インファイト対決宣言の通り、相田さんも防御姿勢を取りながら近づいてくる。


シュッ…


先手を撃ってきた。

スウェーで交わしていく。

私達の一挙手一投足に会場が湧く。

でも、私からは安易に手を出さない。


相田さんは、スロースターターだと言われている。

でもね、きっとそうじゃないの。

試合開始早々は、相手の状況をしっかり把握することに集中している。

解析が完了すれば、即反撃…、つまり倒せる準備が出来たってこと。

そんな試合が多かったと思う。


今回のように初対決だと、この流れはゆっくり長くなる時もある。

解析に時間がかかるからじゃないかな。

だから、安易に手を出しちゃ駄目。

解析を少しでも遅らせて、本気モード、ハンティングモードになる前に仕留める。

混乱のうちに倒しきる!

これが勝利への大前提。

だけど攻めないと警告されちゃうから、必要最低限は出すよ。

でもその時は…


確実に当てに行く時!


左ジャブで執拗に牽制してきた。

近寄れないし攻撃的なディフェンスも出来ない。

追い込んでおいて、どう反撃してくるのか探っている…

いや…

こっちの選択肢を狭めているんだ。


でもね…

私は上下左右からフィニッシュブローが撃てるよ!


相田さんは連打で私の動きを封じ込める作戦みたい。

クリスさんのニューマシンガンにちょっと似てる。

軽い代わりに速い感じ。

そんなんじゃ、本家に失礼ですよ!


集中力を高めろ!


視界に青いグローブが映る度に感じる!


こーちゃんも一緒に戦ってくれているって!






!!!!!






相田さんの4連打を全てスウェーで交わし、最後の1発で右下に潜り込みながら体を捻り上げていく!


全力…


相田さんは知っていたかのようにガードを固めた!


スマッシュだぁぁぁああああ!!!




ズドンッッッ!!!




体が浮くほどの衝撃!

ガッチリとガードされ、体へのダメージは少ないと思う。

けれど、腕は痺れているでしょ!


ここぞとばかりに攻めに転じる。

相田さんはガードせず、距離を取りながら交わそうとしていた。

逃さない!


器用に交わされ続けられる。

足を使って距離を取り、不用意に近づいた時は反撃を喰らってしまう。

私だってレオさん相手にアウトボクシング対策はしっかりやってきたんだから。

運良くコーナーに追い詰め、低く小さく構える。


クリスさん見てて…


『なんと!これは愛野選手のフィニッシュブロー!!!鈴音選手によるニューマシンガンだぁぁぁああああ!!!』


交わしきれなくなり、ガードが増えてくる。

時々当てられているけれど、上手く急所を交わされているように感じる。

相田さんの恐ろしいところ…

どんな時でも、冷静に確実にやれること全部をこなしてくる。


もう直ぐ1ラウンド終了のはず!


このまま押し切って…


もう一回スマッシュを叩き込んでやる!






!!!!!






『ここでチャンピオンのパリィが炸裂!!!』






ズドンッ!!!






パリィからの反撃が…、速すぎる…!!!

交わすとかカウンター入れるとかってレベルじゃない。

速すぎる!!!


あっ…


反撃にくるはず…


集中力を切らすな!!!


視界の端に影を捉え、直ぐに体を反転する。

相田さんはコーナーから脱出していたけれど、反撃はしてこなかった。

ギラギラした視線で私を捉えている。


その視線を受けて私は…


心の奥から、得体の知れない何かが訴えてきていた。


早く殴りかかれと訴えてくる…


お互い申し合わせたかのように引き寄せられ、距離が縮まっていく…




カーンッ




『第1ラウンド終了!!!壮絶な撃ち合いは、五分と五分だったでしょうか!?正確に当ててくるチャンピオンと、豪快な1撃を放つ鈴音選手といった印象でしょうか…』


コーナーに戻ると、こーちゃんが真剣な表情で待ち構えていた。

イスに座りうがいをする。

「どうだった?チャンピオンは…」

「人間だった…」

「???」

「相田さんは神様でも化物でもなかった。」

「まだまだこれから。相田さんの恐ろしいところは…、あれ…?」


こーちゃんが何か考え込んでいた。

「どうしたの?」

「さっき相田さんはパリィしたよね?」

「あっ!!!」

思わず、同時に驚いた会長とも目があった。


「もうハンティングモードなの?」

「いや、わからない。そんな雰囲気はないし、パリィでコーナーから抜け出したのに反撃はしてこなかった。」

こーちゃんは迷っているように見えた。

ハンティングモードに見せかけたのか、自然と出てしまったのか、それとも本当にハンティングモードなのか…


会長が助言してくれる。

「あいつの計算機が狂ったのさ。」

「親父…、どういう意味だ?」

「文字通りさ。さっちゃんの全力スマッシュで、全ての計算が狂った。男子相手に練習してきたらしいけど、それとは違う。魂まで刈り取るスマッシュは、あいつにとって予想外、つまり計算外だったのさ。それで試合の組み立てが狂ってしまって、ついパリィが出てしまった。」


つまり…

相田さんは最初から最後まで計算して試合を組み上げているってこと?

計算通りにいくかどうかを前半で解析して、予定通り試合をするめていたと…

「ふふふ…。チャンピオンすげーや。けど!」

こーちゃんがニヤリと笑う。

「計算が狂ったのならチャンスは増えたはず。次のラウンドは攻めるぞ!」

「………」

会長は何か言いたげだった。

直感的に、大切なことなんじゃないかと感じた。


「会長!ちゃんと言ってください!」

こーちゃんが不思議がって会長を見た。

「んー、あー、さっちゃん。こうなってしまったら自分が感じたことを最優先して。今までの相田の情報は一旦リセットするんだ。」

「どうしてだよ?」

「素のあいつは、死ぬほど怖いぞ…」


『セコンドアウト!』


ど、どういうことなの…?


カーンッ


第2ラウンドが始まってしまう。

えぇーい!

迷ったって仕方ないよ!

今まで通り、様子見なんかしない!

いけるなら一気にいくんだから!


!?!?


相田さんが猛ダッシュで距離を縮めてきた。


!!!


顔と顔が近い!


ズバンッ!


ズバンッッ!!


なっ…


なんて暴力的なの!?

いつもの華麗で芸術的な動きとは程遠い。

恐怖を叩きつけるような視線で、私を睨んでいる。


すると、1ラウンド終了間際に感じた感触が蘇ってくる。


(足を前に出せ…)


(早く殴りかかれ…)


誰かが私に訴えかけてくる。


その要求には逆らえない!




シュッ、シュッ…


ズバンッ!


ガシッ!


バンッ!ズバンッ!!




『おでことおでこがくっつきそうな距離で、激しい攻防だぁ!!!両者一歩も譲らず!一歩も引かない!!!被弾覚悟の殴り合いだぁぁぁぁあああ!!!』


何が起きているのか、正確には理解していない。


頭の中が空っぽで、体が勝手に反応しているような感覚。


周囲の音も聞こえない…


リング以外も真っ黒で見えない…


この世には、私と相田さんしかいなくて…


ただひたすらに殴り合っている…





気持ちいい………




ずっと殴り合っていたい………




心が満たされていく………







「さっちゃん!!!」






グローブが喋った!?

違う!

こーちゃんの声!!


眼の前がクリアになって、相田さんの姿を認識した!

今の感覚は…、一体…


迷っている場合じゃない。

相田さんはガンガン前に出て、鋭くインファイトを仕掛けてきている。

まともに応戦しちゃ駄目。

気が付くと、体のあちこちに被弾の感覚が残っている。

きっと防御無視で手を出していたんだ。


相田さんもそうなのかも…


だったら…


目を覚まさせてあげなきゃ!!!




バンッ!ズバンッッ!!




ワンツーが決まった!




怯んだ彼女は、それでも目をギラギラさせて襲いかかってくる!




反撃のワンツーがくる!




ガシッ!!!




1発目をしっかりガードして、二発目のパンチの下に潜る。




相田さんはスマッシュを警戒し始めた!!!




このまま右スマッシュで―――




ガードされていくボディを狙う―――




のではなく―――




左で―――






流 れ 星(シューティングスター)―――――』






ズドンッッッッッ!!!!!




不意を付いた攻撃だったはずなのに―――




相田さんは辛うじて片手でガードしていた―――




スローモーションのように右へ吹っ飛んでいく―――




体が勝手に反応していた―――




さっきの不思議な感覚が残っていたのかも知れない―――




このままじゃ倒しきれない――――






皆の想いを拳に宿せた―――――







拳を―――






叩き込め!!!






アアアアアァァァァァッァアアアアアアァァァァアアアアアアアア!!!!!!






ズッッッドォォォォ…ン










ハァ…、ハァ…、ハァ…

相田さんは…、相田さんは何処に…


!?


突如レフリーが目の前に来る。

「ニュートラルコーナーへ!」


!?


「ワン…、ツー…、スリー…」


えっ!?







『ダッ…………、ダウン!!!ダウンです!!!チャンピオンダウーーーーーン!!!14年間ノーダウンだった相田選手から、初めてのダウンを奪ったぁぁぁああああ!!!しかも、ダウンを取ったパンチは、レオ選手直伝かぁ!?なんと!ジャベリンだぁぁぁぁああああ!!!』


…………ゥゥゥウウワワワァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!


ホールが地震で揺れたかと思うほどの大歓声があがる。

それにより私は、今、何が起きたのか理解した。


「よくやった幸子!!!」


レオさんの声が聞こえた。


私は…


体が震えて…


体の中心から熱くなってきて…


凄く興奮しているって気が付いた!


『流石に耐えきれなかったか!?左からのシューティングスターを辛うじてガードしたものの体勢が右へ大きく崩れたところへ、強烈な右ジャベリンという極悪なコンボ!!!チャンピオン相田選手も何が起きているのか分からない顔をしながら、ゆっくりと立ち上がる!!!』


カウント7でファイティングポーズを取ってきた。


「さっちゃん!畳み掛けろ!!!」


こーちゃんの声にハッとする。

そうだ…

試合していたんだ…

突然の出来事で何が起きているのか、全然わからなかった…

きっと相田さんもそうだった。


そう…

もう…、過去形…

だって…


吹き出すオーラが激しく燃え盛っているから。

これはもう本気モードを飛ばして、ハンティングモードに入っているはず。

恐ろしい形相で私を睨んでいた…


怖い―?


んーん


楽しいって思ってる―


体が前に進めって言ってる―


あぁ―


何故かニヤけちゃう―


だって―


相田さんもニヤついているから―――




カーンッ


これからって時に第2ラウンドが終了した。


逸る気持ちを抑えて、コーナーへと戻っていった。






激動の第3ラウンドに向けて―――






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