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第55話 幸子らしいボクシング

凄い…


凄いよ雪ちゃん…


パリィなら、ワンチャン反撃の余地があった。


けれど、パーリングだと反撃はほぼ出来ない気がする。


私のパンチが強ければ強いほど、体が泳がされちゃうから。


そして、警戒すればするほどパンチの威力が下がっちゃう。


これだとジリ貧…


けど…、こーちゃんが言ってた。


無理に当てるより、当てられる状況を作るんだって。


だから強引に撃ちにいっちゃダメ。


ハァ…、ハァ…


肩で息をしながらも、まだ体力的には余裕がある。

その事を確認し、兎に角足を止にいかなくっちゃ。

ボディを狙う。

今はそれに集中するんだ。


ガードしながら距離が縮まっていく。

近寄らせない為の左ジャブが飛んでくるなか、シャドウアサルトで一気に近寄る。


!!!


ガッツリガードする雪ちゃんに向けて、右ジャブ、右ストレート主体で強引に崩していく。


!!!


パーリング!!


右ストレートが左方向へはたき落とされていく!


ここは…、敢えて…!


そのまま前に進んでいき、無理やりバタつく足元のリズムを整える。


振り返った時には…


私の距離!!!


ドッドンッ!!


ワンツーから左フック!!!


!!!


またパーリング!!!


体が回転しそうなほどの勢いにボディがガラ空きに…


ズドンッ!!!


グッ…


ヤバイ!


このボディを切っ掛けに、雪ちゃんの猛攻が始まった。


リズム、テンポ良く色んな角度からのパンチは、防ごうと思っても防ぎきれない!


「さっちゃん!ディフェンス!!!」


こーちゃんの声が遠くに聞こえる。

そうだ、あんなに練習したディフェンス…

答えは雪ちゃんの瞳の中にある!






!!!!!






『な…、なんと!池田選手の猛攻を、至近距離で交わしていく鈴音選手!!!』






雪ちゃんが焦ってる!

一瞬の隙から…

リセットするための…






全力スマッシュ!!!!






!?!?!?






こ…、これもパーリング…!?






ズドンッッッ!!!!!






ッ………






視界がボヤケて…






「………ちゃん!離れて!離れて!!」






こ…、こーちゃん…






何も考えずに、急いで後ろに下がっていく。

ギューっとロープの感触が背中から伝わってきた。

視界が戻ってきて、雪ちゃんが突っ込んできているのが分かった。







ヤバイヤバイヤバイ…






!!!!!






今だよ…






使うなら今だよ!!!






私が考えた新しいフィニッシュブロー!!!






アサルト・ランス!!!





ズッッッドンッッッ!!!!!





『た、大砲!!まさに大砲!!!ダッシュアサルトと同時にボディに重い一撃ぃぃぃぃ!!!!池田選手がその勢いでバタバタッとよろめきながら倒れた!!!ダウン!ダウンです!!!』


ハァ…、ハァ…


何とかニュートラルコーナーに戻り、ロープにしがみつく。

体が重い…

歓声がうねり声に聞こえる…


『おぉっと!池田選手立ち上がってきました!辛そうではありますが、その目は闘志に溢れている!突撃と同時に真っ直ぐ突き出されたランスのように、鋭く重く突き刺さるような攻撃でした!そして…、ファイティングポーズをとって…、続行です!』


お互い傷が深いと思う。

いつもの軽快な動きが消えた雪ちゃん。

でもそれは私も同じ。

さっきのアサルトランスで力をかなり使っちゃった。


お互い力なく距離をおく。

でも…

狙ってる…

すっごいオーラ吹き出しながら、私を倒すチャンスを狙っている…


私は勝つの!絶対に!

チャンスはいつ訪れてもおかしくないから!

ジリジリ距離が詰まっていく。

雪ちゃんのオーラに圧倒されそう…


けどね…


私の拳は、私だけのものじゃないの…


私をリングにあげてくれた、全ての人のものなの!


その時―


雪ちゃんが何かに気づいて、ニヤリと笑った。


!!!


懐に飛び込んでくる雪ちゃん!


体は、今までに無いほどの警告を感じ取っている!






ブレークハート!!!






鋭い3連打が私を襲う!

か…、交わしきれない…

上下を不規則に、そして何度も何度も繰り返し3連打(ブレークハート)を撃ち込んでくる…

ヤバイ…


マジでヤバイ…


リセットしなくっちゃ…


一瞬の隙を付いて…


全力スマッ―――






これはダメ!!!





雪ちゃんはこれを待っているはず!!!





止まって!





私の右手!!





止まって!!!





明らかにパーリングを狙っている雪ちゃんの鋭い眼光…





刹那―――





体の一番奥から何かが吹き出してきた―――





まるでスローモーションのように見える世界―――





急に動きを止めたことで、放たれるはずだったスマッシュに合わせてパーリングの動作をしてしまった雪ちゃん―――





ここから強引に…





いっけぇぇぇぇぇえええええええ!!!!!!





『シューティングスターだぁぁぁぁあああああ!!!!』





ズッッッドンッッッ!!!




!?




違和感―――



鈍い感触はあったけれど、クリーンヒットしていない…



多分…


咄嗟に出した右手で、パーリングを試みようとしたんだ…


だから、微妙に軌道がズレて、狙ったところに当たらなかった…


『ロープまで後ずさりしつつも、何とか倒れなかった池田選手!しかし、何という威力!何という破壊力!!』


カーンッ


『ここでゴングです!お互い一歩も引かない、壮絶な撃ち合いに会場は大興奮です!………』


アナウンサーが試合を振り返えりながら解説するなか、私は何とかコーナーに戻ってこられた。

「大分やられちゃったね。」

「うん…、雪ちゃんのオーラ、凄かったから…」

「さっちゃんも負けてないよ。」

「でも…」

「負けてない!」

「………。こーちゃん…。でもね…、もう全部使い切っちゃったから…」

「新しいことだけが通用するわけじゃないよ。チャンスは必ずある。それをどう生かすかってこと。どのパンチだって、当たれば勝てる!当てる状況を作るんだ!」

「うん…、うん…!!」


彼の真剣な目に引き込まれそうになる。

二人の色んな記憶が蘇って…

沢山練習したことを思い出して…


アサルトランス…


シューティングスター…


ダッシュアサルト…


スマッシュ…


………


……



あっ…


一つだけ、教えてもらったのに使ってないのがあるよ…


「セコンドアウト!」


こーちゃんに相談しようとしたのに、次のラウンドが始まっちゃう…


思わずチラッと会長の顔を見て、小さく頷いた。


会長は不思議そうな表情をしながら「楽しむことを忘れずに!」と笑顔で送り出してくれた。


「さっちゃん!兎に角諦めないこと!集中して!チャンスを生かすんだ!」


「はいっ!」


カーンッ


確認出来ないまま第3ラウンドが始まる。

雪ちゃんは華麗なステップが戻ってきていた。

このラウンドも荒れそう…

覚悟を決めて一気に距離を詰めていく。


雪ちゃんは…


今まで以上のオーラを撒き散らしていた!


勝つ!絶対に勝つの!!


そして!ナナちゃんに勝ったよって報告するんだ!!!


顔と顔が近づく!


雪ちゃんの楽しそうな表情!






!!!






ブレークハート!!!






最初から一気に仕留めにきた!





『池田選手、第3ラウンドは最初から飛ばしてきたぁぁぁぁああ!これは激しい!!鈴音選手がジリジリと後退していく!!!』

これは…、重い…

それに、リセットしようとするスマッシュかシューティングスターをパーリングすることを考えているはず。

だけれど…

何とか…

しないと…


リセットするなら大振りなパンチじゃなくても、フックやストレート、アッパーだっていいはず。

3連打と3連打の間をタイミング良く狙って右フックを撃ち込んでみる。


ブオンッ…


空振りと同時に、一瞬で右側に回り込まれて、再びブレークハートを次々と撃ち込まれていく。


そうだ…


ブレークハートにだって…


目を覗き込めば…


防げるはず!!!






再び、体の底からドッと何かが吹き出してくる!






スローモーションの世界!






!!!!!






『な…、何と…。池田選手の鋭い3連打(ブレークハート)を全て交わしていく!!!』






驚く雪ちゃんの顔を見た瞬間―――






ズバンッ!!






さっきは交わされた右フックがクリーンヒットする―――






一瞬距離が開く―――






ここ!!!






ズッドンッッッ!!!!!






『あっ………』






一瞬で静まる会場―――






私………






体が勝手に動いた…






雪ちゃんは…






静かにゆっくりと崩れていって…






倒れた…






『ダウン!!!攻勢に出ていたはずの池田選手の、一瞬の隙を見逃しませんでした!いや、隙があったでしょうか?恐るべし洞察力が、刹那のチャンスを見逃さなかったか!?』






ハァ…、ハァ…






撃てた…






ボクシングを始めて…






会長に一番最初に教えてもらったパンチ…






一歩離れたところから放つスマッシュ…






本当に体が覚えていた…






『カウントが進んでいます!池田選手立てるか?』






フォー…、ファイブ…、セブン…






雪ちゃんは…






エイト…






全然動けなかった…






ナイン…






仰向けに倒れたまま、大きく呼吸を繰り返したまま…






テンッ!!!





レフリーに右手を持ち上げられる。






ワァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!






今まで静まり返っていた会場が、観客の声援で溢れかえり爆発した。

私は何が起きたのか理解出来ないほど、あまり実感がなかった。

ヨロヨロッと雪ちゃんに近づき、隣でペタンと女の子座りした。

彼女は寝ながら右拳を弱々しく持ち上げた。

その拳に軽くタッチした。


トンッ…


「へへ…、立てなかった…」

雪ちゃんは悲しそうな顔をしながらも、笑っていた。

「私…、どうやって最後のスマッシュ撃ったのかわからなかった…」

「フフッ…、それがさっちゃんの凄いところ。」

「んーん、皆のお陰。勿論、相手が雪ちゃんだったから…、だから撃てたんだと思った。最高のライバルだから…」

「ありがと。」


二人共グローブを外してもらって、固く握手をした。


「次は負けないよ。」


「次も勝ちます。」


その時だった。

「お姉ちゃん!」

その言葉に二人とも反応した。

けれど、ナナちゃんは病院のはず。

雪ちゃんを見ると、凄く驚いた顔をしていた。


「雪!」

男性の声だ。

「パパ…」

パパ?お父さんってこと?

「いい試合だった!感動したぞ!」

「でも…、負けちゃった…。来てくれてたのなら、勝ちたかったのに…」

「次を頑張ればいい!今日のような試合をしている限り、雪はもっと強くなれる!俺は楽しみにしているぞ!」

「ありがとう…、パパ…」

「雪ちゃん、いつでも実家に遊びにおいで。皆、待っているからね。」

「ママ…、うん、今度帰るね…」

弟や妹達も、優しい言葉をかけていた。

「今日は『次も頑張るぞ会』するぞ!」


雪ちゃんは―


嬉しそうに泣いていた―


『さぁ!勝利者インタビューです!』

またもや、気付かないうちに隣にきていたアナウンサーさん…

やっぱり忍者の末裔だ…

そう想いながら、ゆっくりと立ち上がる。


『まずは決勝進出おめでとうございます!』

「あ、ありがとうございます!」

『今日のライバル対決、感想などありましたら、お聞かせください。』

マイクを向けられる。

「えっと…、凄く苦しかったです。スマッシュもシューティングスターもパーリングで防がれて…、どうして良いか分からなかったです…」

『しかし、2ラウンド目でダッシュしながらの物凄いボディでダウンを奪いました。池田選手用のパンチだったのでしょうか?』

「『アサルトランス』ってパンチで、スマッシュで下から、シューティングスターで上から、アサルトランスで真っ直ぐを狙いました。」


『フィニッシュブローを絞らせない為ですね。用意周到な準備が、勝利を呼び込んだのだと?』

「いえ…、どれも対策を練られていました。アサルトランスに至っては、使い所が限定されていますし…」

『そんな中最後に、一歩踏み込んでからのスマッシュが飛び出しました!タイミング、威力、どれも非の打ち所がありませんでした!』

「えっと…、あれは会長に…、ボクシングを始めた時に一番最初に教えてもらったパンチでして…。タイミングは感じましたけど…、体が勝手に動いたというか…」

『それほどの練習を重ねて、ついにクリスマスバトル初出場で決勝へと駒を進めました!王者との戦いとなりますが、健闘を祈っています!』

「ありがとうございます!沢山のスケルトンさん達…、今日は私らしいボクシング…、見られましたか…?」


………ッゥワァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


割れんばかりの拍手と、色んな応援が飛び交い―


ボロボロと泣いちゃった―


『凄い声援ですね。次も頑張ってください!』


「はい…、すみません…、涙が止まらなくて…、その…、褒められ慣れてなくて…」


更に大きくなる拍手に包まれて―


決勝戦―


何が何でも、どんなに無様な格好を晒しても―


絶対に勝つんだって―


私を見守ってくれる人達に―


誓った―――





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