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第54話 雪のディフェンス術

『さぁ!やってまいりました!クリスマスバトル準決勝!第一試合!今年1年を賑わしたルーキー同士のライバル対決となります!』


ワァァァァァアアアアアアアアアアア…


『可愛らしいアイドルソングで入場し、リングに上がった池田 雪選手!9月13日に誕生日を迎えて18歳!高校3年生です!まだまだ若いですが、本日対戦する鈴音選手と共に切磋琢磨し、今年1年の成績は前回の常磐選手との試合も含め5戦5勝と堂々たるもの!カウンターを軸に、同じジムのチャンピオン相田選手直伝のパリィを引っさげて、誰も真似できないセンス抜群の戦いを繰り広げてきました!今日はどんな神業を見せてくれるのか!?今から楽しみでもあります!』

相変わらず誰の紹介なのか分からなくなるような内容ね。

気持ちはわかるけれど、ちょっと大袈裟なのよ。

マイクパフォーマンス用にとリング下より、運営の人からマイクを渡される。

ファンに向けて、営業トークもしなくっちゃ…

コホン…


「今日はぁ、雪の応援ん、ありがとぉ~~~!!!ライバル対決だけどぉ、精一杯頑張るからぁ、いっぱい、いぃーーーーーーっぱい、声援をくださいねーーーーー!!!そして!ファンの皆さんに、決勝で戦うという夢の舞台を見せられるよう…死力を尽くして頑張りま~~~すっ!!!」


ワァァァァァアアアアアアアアアアアッ!!!


「せーの!ゆっきちゃーーーーーん!!!!」


凄い声援に圧倒される。

震えるほどの勇気が体から溢れる。

今日は負けないんだから!

決勝行けたら、家族全員を招待して、チャンピオンに挑戦ガチバトルするんだ!


『続いて対戦者、鈴音 幸子選手の入場です!』


照明が一瞬で暗くなる。


バタンッ…


開いた扉からはドライアイスの煙が流れ出てくる。


エレキギターとドラムが激しく鳴り響く!


来るよ…


すっごい存在感を撒き散らしながら…


一撃で魂まで刈り取るスマッシュを手に…


あたいのライバルが!!!


ドコドコドコドコ『ハイッ!』 ドコドコドコドコ『ハイッ!』 ………


大量のスケルトン達が、合いの手で主を出迎える。


こーちゃんの持つ大鎌は、黒光りしていて禍々しい。


そして、リングの上に降臨した。


文字通り、死神のように―――


『池田選手と同じ学年、来月18歳を迎える高校3年生!圧倒的パワーを武器に、強打で格上を、文字通りなぎ倒してきました!成績は6戦5勝1敗、その1敗は目の前の池田選手によるものです!この試合でリベンジなるか!?男子顔負けの強烈な破壊力を持つスマッシュを武器に、夏に行われたベトナムのファン選手との試合ではシューティングスターという新たな武器も披露しています!ライバル池田選手を、どうす攻略するのか!?見所の多い、非常に楽しみな試合であります!』

彼女にもマイクが渡された。


「今日は、応援に来てくださって、本当にありがとうございます!沢山のスケルトンさん達が目に映っています…。凄く勇気づけられますし、力が湧いてきます!今日も、私らしいボクシングが出来るよう…、最後まで諦めずに戦います!どうか!声援を…、私に勇気をください!よろしくお願いします!」

さっちゃんらしい挨拶だと思った。


彼女は…


ブレないし、逸れない。

真っ直ぐ。

怖いぐらいに真っ直ぐなの。


そして、嘘も誤魔化しもない。

純粋。

信じられないぐらい純粋なの。


でも…

今日も勝たせてもらうよ。

人生少しぐらい闇がないと、生きていけないからね。


あぁ、そういう意味では…

普通なら抱えきれないほどの闇を、さっちゃんは持っていたね…

そう、もう過去形。

闇から這い上がってきた彼女は、強いよ。

闇の世界からやってきた死神は、油断も慢心も隙も無し!

だから!全力でぶつかるだけ!


レフリーに呼ばれリング中央に呼ばれた。

「反則は厳しく取っていくからね…」

話の最中も、お互いがお互いを見つめていた。

何だか、さっちゃんが笑っているように見えた。

あたいも思わずニヤリとする。

「では、両者コーナーへ!」


あたいが右手を差し出すと、さっちゃんは迷わず右手で上から軽く叩く。

その手を再びあたいが上から叩く。

軽くグローブを正面でタッチさせ、肘を曲げてから相手に向けて拳を突き出した。


ワァァァァァアアアアアアアアアアア!!!


初めての試合の時も、こうやったよね。

ちゃんと覚えていてくれてた。

こうやってあたい達のライバル対決が、積み重なっていくんだ。


コーナーに戻り、マウスピースを付ける。

近藤さんが緊張した面持ちで指示をくれた。

「いいか、分かっているだろうが、大振りは貰うなよ。絶対にだ。」

「ハイッ!」

「だがな、絶好のカウンターチャンスでもある。特に混戦からリセットさせるように撃ってくる大振りは狙い目だぞ。その時は迷わず撃て!」

「ハイッ!」

「よし!いってこい!!!」

「ハイッ!!!」


カーンッ


クリスマスバトル、第二戦が始まった。

ちょっと緊張してる。

でも、ほどよい緊張だよ。

さっちゃんの動きが良く見えているから。


彼女はガッチリとガードを固めながら、あたいの様子を伺っている。

ならば、まずは先手貰うよ。

この程度で倒れないでよね!


アウトボクシングから、さっちゃんのダッシュアサルトと同等程度の突撃を試みる。

彼女が一瞬だけ驚き、不測の事態に対応しているのが分かる。

けどね…






遅いよ!!!






ドスンッ!






深々とボディが入る。

追撃の右を入れるけれど、スウェーで巧く交わされた。

チィィィィッ!

彼女の反撃を予見し、カウンターを準備する。


!!!


ここだぁ!!!


!?!?


フェイント!?


まずい!!!


直ぐに両腕を横に並べてガードする。


ガツンッ!


それでも体勢が崩れるほどの衝撃に襲われる。


迷わず…、逃げる!


流石に追ってはこなかった。

再びガードして様子をうかがうさっちゃん。

その視線は獲物を捉えた、肉食獣のよう…

鋭く突き刺さる…


ふつふつと、心の底から高揚感が襲ってくる。

あいたいは怯んだりしない。

アイドルを引退した時に誓ったんだ。

ボクシングを選んだ時に誓ったんだ。

絶対に逃げないって!


どんどん仕掛けるよ!

冷静に考える時間を与えない。

これもさっちゃんを追い詰める重要な戦略だから。


あたいはよく、ボクシングのセンスがいいって褒められる。


だけどね、さっちゃんは戦うセンスがずば抜けているの。


勝つための最短距離を、ものすごいパワーで突っ切っていく。


こーちゃんが言っていた、「1打目から、迷わずスマッシュが撃てる」ってのが証拠だよ。


だから、どんどん仕掛けて、混乱させる方へ持っていく。


さぁ、いけ!


怖がる必要なんてなんにもないよ!


ライバルから逃げようとする弱い心の方が怖いから!


もう一回、あたいから懐に飛び込む。

ボディを狙う、大袈裟なフェイントから一旦スウェーを挟む。

あたいの突撃を防ぐための鋭いフックが通り過ぎたところで、ストレートを叩き込む!


ズバンッ!


クリーンヒット!




!!!




ヤバイと感じた瞬間、直ぐにガード姿勢をとった。


ズドンッ!


深々とボディが突き刺さる。

ボディ?

やられた…

これは効く…


さっちゃんと撃ち合っては駄目。

絶対に勝てないから。

直ぐに引いて距離を取る。

距離を詰めようとした彼女だったけど、直ぐに止まってリズムを刻み直してきた。


冷静だね…

あたいがさっちゃんの動きが見えているように、さっちゃんもあたいの動きが見えているみたい。


カーンッ


『第1ラウンド終了!一瞬の攻防が、複雑で激しく濃い内容となっています!両者小手調べといったところでしょうか!?』

アナウンサーの言うことも、一理あるかも。

コーナーに戻りながらそう思った。


「いい調子だぞ、池田。」

「でも…、さっちゃんは何か狙ってる。」

「だな。徹底してこちらの出方を見ていたようだ。」

「あいたの武器のお披露目も近いかも。新しいフィニッシュブローを出してきたとしても、それに合わせてみせる。」

「池田…」

「合わせられたらあたいの勝ち、合わせられなかったら負け。そのぐらいの意気込みで突っ込んでくる。」

「よし!覚悟決めていってこい!」

「ハイッ!」


カーンッ


第2ラウンド―

ん?

さっちゃんの雰囲気の違いを感じる。

やっぱり何か狙っているね。

お互いの緊張感が増して―――




!!!!!




二人は同時に動いた。




サ…、サウスポー…??




そんなの通用しないんだから!!!




ズバンッ!!!




お、重い…

ジャブが半端じゃなく重い…

それともストレートだった?

いや、違う、やっぱりジャブだ…


ズバンッ!ズバンッ!!


連続して撃ち込まれると…、ガードが…


ズドンッ!!!


グフッ…


強烈なボディが…


あっ…


ガード!ガードしないと…


慌てて上げた右腕に、強烈な左フックが吹っ飛んできた。


ドスンッ!!!


ガードが…、ガードの役目をしない!


そうか…、そういうことか…


さっちゃんだからこそのサウスポーだ。


直ぐに気付けなかった代償は大きい。


でも…


カラクリが分かれば…






!!!






ズバンッ!!!






『パリィで一閃!!!池田選手の代名詞にもなりつつある、パリィ後の強烈な反撃だぁぁぁぁあああ!!!』

よろめくさっちゃんだけれど…

見える…、見えるよ…

彼女から吹き出る激しいオーラが!

私にも見える!


かなりのダメージだったはずなのに、全くと言っていいほど闘志が衰えない。

それどころか益々強くなってくる威圧感。

萌える…、いや、燃える…

あたいも体が熱いよ!


再び右ジャブで、ガードをこじ開けようとしてきた。

これは意外と厄介。

さっちゃんの右は男子並みだし、この場合の追撃用の左だって、女子の右以上の破壊力があるから。

考えたわね…


でも、慣れていない分、隙が沢山見えるよ!


ガードを崩しにきた強烈な右ジャブをパーリングする。


パリィは相田先輩が得意とするディフェンスなのだけれど、例えば相手の右ストレートを、自分の左拳で内側から外側へ軌道修正する。

こうすることで、ガラ空きになったところを叩く。


本来は逆だと思う。

例えば相手の右ストレートを、自分の左拳で包み込むようにし、外側から内側へ軌道修正させる。

パーリングと呼ばれるディフェンス術だ。

こうすることでパンチの勢いで前のめりになったところを叩く。

バランスも崩すし反撃もされ辛い。

もちろんガードもし辛いよね。

ただし、パリィよりも撃てる面積は減る。


さっちゃんのようなハードパンチャーには、パーリングの方が有効だと考えたの。


案の定、かなり驚くと同時に、大きく空振りしバランスを崩したさっちゃん。


容赦なく右ストレートを撃ち込む!


ズバンッ!!!!


かなりの手応えアリ!


直ぐに左フックを…


!!!


ダッキング!?


スッとしゃがんだ彼女は、その反動で飛び跳ねるように後方へ逃げていく。


ファイティングポーズを取った彼女からは―――


真っ赤に燃え盛る闘志オーラに満ちあふれていた―――


やってやろうじゃないの!






あたいは…、負けない!!!



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