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第31話 幸子が見守るタイトルマッチ

『さぁ、いよいよ本日のメインイベント!女子フライ級タイトルマッチが行われます!チャンピオンはご存知、雷鳴館所属、相田 小百合選手!32歳でありながら、13年間チャンピオンであり続ける、まさに生ける神様!フィニッシュブローはワンツーからの強烈なストレート、通称「ライトニングボルト」!迎え撃つのは、三森ジム所属、水谷 レオ選手!25歳!今、一番神様に近い存在と言われています!前回対戦したクリスマスバトルでは敗北を喫しましたが、対策を練ってきたと自信満々!フィニッシュブローは強烈な右フック「ジャベリン」!今日のタイトルマッチを楽しみにしている会場はほぼ満員です!さぁ、間もなく試合が始まります!」


ワァァァァァァァァァアアアアアアアアア………


「凄い歓声だね!」

「うん…」

隣に座る雪ちゃんは、歓声の大きさに感動しているようだった。

ちなみにクリスさんと常磐さんとお母さんとナナちゃんとマー君、それに合宿3日目にやってきたフェザー級の沢村さんも近くにいる。


「まっ、伝説の目撃者となろうじゃないか。」

そんな事をさりげなく言いつつ笑っているけど、沢村さんには凄く感謝しているって、帰りの電車の中でレオさん言ってた。

階級は五段階も上だけれど、沢村さんのセンス・技術は勉強になったみたい。

私ともスパーリングしたけれど…、全然相手にならなかった。


選手入場が始まった。

そうそう、控室にも皆で激励しに行ったよ。

レオさんは去年のクリスマスバトルとは違って、凄くリラックスしながらも闘志が漲っているように感じた。


「俺様が前回、タダで負けたわけじゃない。あいつのイメージはしっかり刻んである。後はハンティングモードをどう攻略するかだ。対策は考えてある。化物退治、しっかりと目に焼き付けておけよ!」

そう言っていた時のレオさんは、凄く輝いていた。


レフリーからの注意事項の伝達も終わり、相田チャンピオンと挑戦者レオさんがそれぞれのコーナーに戻ってきた。

「レオさん頑張れーーーーーーっ!!!!」

私は目一杯大きな声で声援を送った。

他の人もレオさんへの応援の言葉を叫んでいる。

会場は始まる前から両陣営への声援が飛び交い、お祭りのように騒がしくなっていく。


カーンッ!


ワァァァァァァァァァアアアアアアアアア!!!


『注目のカード、日本女子フライ級タイトルマッチ10回戦!絶対王者 相田 小百合選手vs不屈の挑戦者 水谷 レオ選手の戦いが始まりました!歴史に名を刻むのはどちらか!二人の熱い戦いに期待しましょう!』

アナウンサーの言葉が歓声にかき消されそう。


立ち上がりはどちらも静かな感じだった。

パンチが放たれる度にちょっとした歓声があがる。

レオさんはアウトレンジからの攻撃に徹している。

反撃する相田さんの攻撃も、冷静に交わしていた。

良い感じ、良い感じ。


相田さんは前回のようにジャブでレオさんの動きを封じようとするけれど、対するレオさんは上手く距離を取って相手のペースに乗らない。

「レオさんがペース握っているよ!」

雪ちゃんが興奮気味に話す。


同じ所属ジムの相田さんの応援をするべきなんだけれど、雪ちゃんは相田さんが神様になった理由を知っている。

だからジムの関係者とは観戦せずに、私達とレオさんに声援を送っていた。

うちの会長と相田さんの因縁に、決着がついて欲しいと彼女は言っていた。

私も、そう思っている。


1ラウンド目、2ラウンド目とポイントはレオさんが取っていく。

大きな動きはなく、終始レオさんのペースだ。

前回のクリスマスバトルとは違い、冷静沈着な試合運びに、相田さんも迂闊に攻められない感じ。

期待が膨らんでいく。

それは観客が一番感じ取っているようだった。


3ラウンド目。

いよいよ相田さんが仕掛けてきた。

今までとは打って変わって、積極的に距離を縮めて撃ってくる。

だけれど慌てることなく、まるで最初から分かっていたかのように冷静に捌いていくレオさん。

前回とはまるで安定感が違う。

先輩は言っていた。

去年の対戦は、背負っているもんを意識しすぎて焦っちまったって…


「今日のレオさん…、相田さんを上回っている…」

雪ちゃんが冷静に分析する。

確かにそう見える。

「見たこと無いほど、凄く集中してる…」

私がそう言うと、「うん…」とだけ言って試合に夢中になる。


もしかして…


そんな空気が漂い始めてきたところで、3ラウンド目が終了した。

セコンドの会長が何かを言っているけれど、慌てた様子はないかな。

こーちゃんも献身的にレオさんのサポートをこなしていた。

セコンドの雰囲気も良い感じ。

対する相田さんサイドは…


まったく慌てた様子はなかった―


あれ?

想定の範囲内なの…?

このまま終わらない…、何かが起きる…、そんな感触は試合が進めば進むほど高まっていく。


そんな期待と不安を蹴散らすかのように、レオさんは生き生きとリングの中で暴れていった。

4ラウンド目もポイントを取ると、先輩はコーナーでニヤリと笑う。

慢心ではない。

確信なのだと思う。


「もしかすると…」

「もしかするかも…」

クリスさんと常磐さんも、明らかに優位に試合をすすめるレオさんに期待し始めた。

チャンピオンの動きも悪くない。

むしろクリスマスバトルでの動きと変わらない。

どちらかと言うと、レオさんの進化に追い付いてない感じがする…


「ここからどう相田さんが動くか…、そこが問題だな。」

沢村さんの解説に一同は固唾をのむ。

「レオちゃん頑張れーーーー!!!!」

前の席ではお母さんが大声で叫んでいた。


今度こそ…


観客の空気も、期待や高揚といった熱気に包まれていった。


そして5ラウンド目…

『あーっと!今度はレオ選手が積極的に仕掛けていく!インファイトで相田選手を射程内に捉え続けていく!』

アナウンサーさんの言うように、逃さず執拗に接近戦に持ち込む。

チャンピオンのジャブに対して、無理せず確実に防御しつつ撃ち返し、レオさんの反撃は相田さんを防御一辺倒へと押し込んでいく。


だけれど沢村さんが言うように、相田さんがどう動くかが問題。

だって…

ハンティングモードがまだ残っているから…

もしもそれすらレオさんが凌駕出来たら…


ゴクリ…


タイトルマッチという大舞台の緊張感に、私も襲われていた。


凄い…


体の内側から熱くなっていく…


そして、ここまで全ラウンドでポイントも取り、完全にレオさん有利のまま、運命の6ラウンド目が始まった…


セコンドアウトする時、レオさんが会長に何かを言っていた。


後でこーちゃんに聞いたの。


レオさんは会長に「ベルトの重みでも想像して待ってろ」って言ったって…


ゴングと同時に一気に距離を詰め、激しく攻め立てるレオさん。

相田さんは防戦一方だった。

でも…

虎視眈々と反撃のチャンスをうかがっている。

勿論レオさんも気付いているはず…


そして試合は一瞬で動き出す。


ドドンッッッ!!!


「なっ…」

誰かが叫んだ。

二人の拳が、一瞬だけ交錯した。

ダメージが大きいのは…、チャンピオンの方だ…


「レオさんが左フックでカウンター当てやがった。すげー集中してるぜ、今日のあいつは…」

沢村さんが感嘆するほど、レオさんの調子はいいみたい。

少しグラついた相田さんは、それでも直ぐに体勢を立て直す。


しかし、間一髪入れず動いたの相田さんの方だ。

今まで見せたこともないような連打。

焦っている?

いや、そんなことはない。

冷静に確実に撃ち込もうとしているのがわかる。


レオさんも冷静にブロックしていくけれど、上下に撃ちわけられると、何発か良いのを貰ってしまう。


ドンッ!!!


!?


突然レオさんの右ストレートが決まる。


ど、どこに撃ち返すスキがあったの…?


私には分からなかった…


後ろに退避した時の相田さんの顔が…


明らかに変化していた…


いつものポーカーフェイスじゃない…


キリッとレオさんを睨み、どちらかというと怒りを表しているようにも見える…


背筋が凍る…


見えるほどの闘争心が相田さんから放たれていたから…


「雪ちゃん…、あれがチャンピオンのハンティングモードなの…?」

「違う…。敢えて例えるなら本気モードかな…。ここから本番だよ。」

「えっ………」

ここから本気…?


不思議がっている間もなく、相田さんが再び反撃する。


シュッ…


ドンッッッ!!!


疾い!!


明らかにチャンピオンの動きが変わっている!


レオさんの攻撃を、ほぼ完璧に防ぎ、交わしながら相田さんが反撃してくる。

二人の攻防が疾すぎて、何が起きているのかわからない。

異常なほどの緊迫感がリングから噴き出している。

それは観客に伝わっていき、興奮と熱狂となって会場を揺らしていた。


どちらもダメージが目立つようになってきた。

今まで溜めに溜めた鬱憤でも晴らすかのように、激しく撃ち合っている。

一歩も引かない、ほとんど駆け引きのない殴り合い。

相田さんも…、こんなに激しいボクシングするんだ…


私だけかも知れないけれど…、チャンピオンから感じる胸が締め付けられそうなほどの緊張感が気になる…


絶対に勝たなければならない、負けたら死んじゃうぐらいの「勝利への執念」…


そのたった1点だけが、あの人を支え、拳を撃ち出しているようにさえ感じる…


そんな時だった―


相田さんが鋭いショートアッパーを繰り出す。


レオさんの顔が跳ね上がり、その一瞬のスキにワンツーを叩き込んできた!


ド、ドンッ!!!


くる…


リング上の緊迫感が尋常じゃないほど一瞬で高まる!


生きる神と化した相田さんのフィニッシュブロー「ライトニングボルト」!!!


ズバンッ!!!






……………






吹っ飛んだのは………






チャンピオンの方だった………






ワァァァァァァァァァアアアアアアアアア!!!






『カ…、カウンタージャベリン炸裂ぅぅぅーーーーー!!!!!』






大きくよろめきロープへ腕を絡ませる相田さん。






レオさんは躊躇なく一気に距離を詰め、右腕を振りかぶった瞬間―――






カーンッ






無常にも6ラウンド目が終了してしまった…






大きな溜息が会場の熱を冷ます。

息をするのを忘れるほどの緊張から解き放たれた。

「後1秒…、たった1秒が遠いなぁ…」

沢村さんが言った言葉が忘れられない。


インターバルでのレオさんは、それでも悔しがったり焦ったりしている様子はなかった。

まるで、いつでも仕留められる、そんな雰囲気さえ感じる。

対する相田チャンピオンは…






椅子にも座らず、コーナーポストに拳を振り下ろし、怒りを隠そうともしていなかった―






神の怒り―――






間違いなく来る―――






神の化身によりリング上で裁かれる時が―――






会場がざわめき、本気を超えた神様のボクシングが体現されると確信していく―――






ハンティングモード、開放!!!






迎え撃つレオさんは―――






ニヤリと不敵な笑みをこぼしていた―――






カーンッ






激動の、第7ラウンドが始まった―――――



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