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だから今日も首をかしげる

作者: 青春目録



 私には幼馴染がいる。



「おい」



 母親同士が高校時代からの親友で、結婚してもわざわざ引っ越して隣に住むほどである。そしてもしお互いに性別の違う子供が出来たら将来は結婚させようという約束(という名のこの場合は悪ノリ?)までしているまあありがちな、はいテンプレテンプレとでも言うような、そんな至極典型的な幼馴染だ。



「き、きっと聞こえてないだけ…なんだよな。……なあ、おいって!」



 そして母親同士の願望通りめでたく(?)私たちは異なる性の人間として生まれてきた。私が女であいつが男である。

 ちなみに父親同士も会社の同僚で仲が良く趣味も合うことから、しょっちゅう両親4人でどこかに出かけている。当然その間は互いの家には私たちしかおらず、最近ではそれが特に顕著になってきており、私一人でいるのもなんとなく性に合わないので、結局両親の思う壺なのかはわからないけれど、いや絶対そうだろう、あの両親共のことだからそうに違いない…はぁ。



「え、もしかして無視?無視なのか、いや待て早まるな。落ち着け、落ち着くんだ俺。こんなの毎日のこと…あ、なんか目から汗が」



 なんか後ろからぶつぶつ小言が聞こえてくるけど、まあ気にしない。だって私のキャラじゃないしー。

 まあとにかくそんなわけで、ひと昔前に数多くの学園恋愛ア○ベンチャーゲームの舞台として流行したような、家に子供がいるのに両親の描写が一切無いような、なんちゃってご都合主義設定の完成でーす。てってれてー。なにいまのふぬけたBGMは…!あぁ、ただの電波か。



「…お、おーい。み、雅さーん」


「え、どうしたの?太郎君」



 私は振り向きざまに唇に指を当て、前かがみになりながらわずかに首をチョンと効果音が付きそうな感じで横に傾ける。ついでに目を若干うるうるさせてまぁるくするのも忘れない。

 はい、内面とキャラが全然違うとか、あざとすぎるとかの細かいツッコミはご遠慮願います!それに、このカメラのフィルムにも残らないようなほんの一瞬の努力の甲斐もあって。



「う…か、可愛すぎ。天然でそれは反則だろ…」



 ほら皆さんご覧のとおり、おてんとさまがピッカピカに顔を出していらっしゃる状況の中、特殊耐久力皆無の鋼・草に対して火炎○射をぶっぱした如く、効果はぐぅれいとに抜群なのです!流石はわたし、えっへんまぢちょろいわぁ太郎君。

 というかいつも思うけれど、この距離で本当に聞こえてないとでも思っていらっしゃるのでしょうかこの朴念仁君は。



 「今日も学校疲れたね~。一日お疲れ様でした、太郎君♪」


 「……お、おうよ、お疲れ!一緒に帰ろうぜ雅!」


 「うん、勿論いいよ。なんたって私達、幼馴染だもん」


 「そ、そうだよな……なんたって幼馴染だからな!」



 ちなみに、我が幼馴染殿であるこの鈴木太郎君の返答までに若干のタイムラグがあるのは、私のぱーふぇくとな外面フェイス(暗黒微笑)に見惚れているからですにやり。

 はーい、もはやあざといすら生温いレベルの内外のギャップぶりと思った夢見る高校生男子の皆さん!……乙女は秘密が盛り沢山なのですから、やかましいツッコミと文句はNGなのですよー。















 「あ、あのさ雅」


 「んー?どうしたの太郎君?」


 「お、俺さ…雅の事が、す、すすす、すk」


 「あ、そういえば今日の数学の小テストどうだった?」


 「き……え?あ、あぁあんまりだった、かなぁ」


 「あー、今日のベクトル問題ってセンター試験の過去問だったらしいもんねー」


 「そ、そりゃ解けないよなーハハハ……またかー、ぐすん」


 「?」



 ここで表情では、鈍感っぷりを表現している私こと天草雅ちゃんじゅうろくさいかっこわらいですが、あのタイミングで太郎君の言葉を一刀両断にぶったぎってやったのは皆さんお察しのとおりもちろんわざとである。

 お互い好き合っているのに何故かって?やれやれ。どうも皆さんは乙女心というものをまったくイチミクロンもご理解いただけていないようで。



 「まあ数学はもういいや。ほら、はやく帰ろう太郎君?」



 私だって、いくら中身がココとは似たようなしかしてやはりどこか違っている異世界出身の、人生絶賛二週目中の、普通ならばもっと色々老成ないし枯れていそうなものであっても。やはり肉体に中身は引っ張られてしまうものであるからして。



 「あ、ちょっと待てよ雅。俺は……!」






 だからつまり。


 こんな、とある何でもないような日の放課後の、夕暮れせまる空に黒き翼の集団が群れをなして飛んでいるような。


 周囲には古ぼけた建物が並び立っているような学校からの通学路ではなく。


 たとえこの絶望的に色々とセンスのない、間の悪すぎる幼馴染様であっても。


 少しは幻想的な、あるいは煌びやかな思い出に残るシチュエーションを最初の一歩くらいはささやかながらでも望んでしまうもので




 


 「俺はお前が…っ!」


 「ほらほら、どうしたのー。早く帰ろうよー!」




 「今日のご飯は太郎君の好きなカレーライスだよ~?」

 そう言って、横に傾ける。

 



 だから私は、その時が来るまでは



 様々に混ざり合ったソレをごまかすように



 彼に対して今日も首をかしげて微笑むのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の流れが良かったです。 主人公の乙女心にまんまと引っ掛かりました。それまでは客観視&皮肉で通していたので、不意打ちで、それが良かったです。 [気になる点] 「小言」の意味 [一言] 異…
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