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幕間「生還祝い」



「いやあ、しかし、あの魔族は素晴らしいお人だな! そう思うだろう、リオ!!」



 兵士たちが集う街中の酒場――。

 旅人向けの内装をしている白い兎亭とは違い、武骨な兵士向けにシンプルかつ飲むことを最優先に考える男たちの場所。

 突然、隣のテーブルの兵士――討伐隊に加わっていたリコールという人形娘の屋敷門番をしているやつが同意を求めるように話しかけてきた。

 今日は先日終わった子竜討伐戦を無事生き延びたという宴の真っ最中。いち兵士として参加するべきだと思い俺も参加したのだが……。

 だが、振られた内容に思わず、顔をしかめてしまう。


 あの女はお小言の多い使用人みたいな女だぞ、本気か、この男は。


 文句を言おうとしたところでブランがまだ住んでいる場所を明言していないと気が付き、慌てて口を噤んだ。

 自分に語り掛けてくる口ぶりからして、ブランを良く思っている類の人間。ここで俺がそんなことを口走れば、朝まで呑まされ、文字通りすべてを吐かされるまで帰れないだろう。

 長年兵士をやっていた英断で黙ることに成功したリオは「そうか」と冷たく返す。

 騒がしい事は嫌いではないが、こうも鬱陶しいと飲む酒もまずくなると、一人で雪リンゴ酒を楽しもうとすると背中をものすごい勢いで叩かれ、テーブルにつんのめりそうになる。

 イラっとして振り向けば、先ほどとは別の兵士……人形娘の屋敷で門番をしているリコールという名の茶髪の兵士が腕を振り上げていた。


「おいおい、テンション低いな英雄様は」

「やめろ、暑苦しいぞリコール! だいたい、お前はあの魔族が最初に人形娘の屋敷に来たとき会ってるだろう!」

「それとこれとは話は別だ。あの時お姫様に会いに来た魔族がまさかあんなに活躍するとは思わないだろ。なあ、ケガを治されたシャット! お前もそう思うだろ!」

「え? ああ、はあ、まあ……」


 リコールのダル絡みにシャットと呼ばれた腰の低い兵士見習いがためらいがちに苦笑する。

 ほかのやつらに舐められてしまいそうな態度だったが、返事をされたリコールは気を良くしたのか、さらに酒をジョッキからあおり、シャットの肩を抱いて立ち上がったかと思うと、わざわざ隣に腰を下ろした。


「くぅ! しかし、リオ。お前が宴会に顔を出すなんて珍しいな」

「気分だ。今回ばかりは俺がいないと盛り上がらないだろ」

「はっはっ、違いねえ。子竜討伐を果たした英雄様に乾杯だ!」

 リコールが腕を上げて背後に促すと、「うおおおおおおおお!!」「生きて帰ったぞおおお!!」「酒だあああ」とやかましいとすら思えるほどの轟音が鳴り響く。

 明日に響きそうだと一人冷静なリオはジョッキを傾け、はあとため息をついた。

「……大したことはしてない」

「よくいうぜ、竜種に人間の身で単騎突撃なんて、馬鹿しか居ねえよ」

「おい、ケンカを売るか、称賛するかどっちかにしろ、酔っ払い」


 ケンカを売ってるとしか思えないリコールが「はっはっはっ!」と笑い、机をたたきだした。

 酔っ払いめ、そろそろ井戸水でもぶっかけるべきか。

 ふんと無視を決め込むと、ちゃっかり俺を挟んだリコールの反対側に席を移したシャットが


「で、でも本当にすごいですよ、リオさん。子竜を討伐する際に力を貸し、傷をつけたのはリオさんの実力じゃないですか。俺なんかじゃとても立ってられませんでしたよ」


 ケガしちゃいましたし、と自嘲するシャットに言葉を詰まらせる。

 このまま黙って俺の功績だと思われるのもしゃくなので、否定しようと思うと「……じゃない」と喉が詰まり、酒で流し込んだ。


「え? 今、なんと?」

「んっ、ん、はあ……。俺じゃない。あの子竜を倒したのも、お前たちのケガを治したのもあの魔族……ブランだ。俺はあいつの口車に乗っただけ。何もしてなんかいない」


 実際、あいつの魔法が無ければ五体満足で切り抜けるなんて出来なかった。

 空中で尻尾の攻撃を受けた時、間違いなくブランだけが負傷をしていた。攻撃を受けたのは俺なのに、だ。つまり、魔法を使って俺を守り、代わりに負傷をし、あまつさえそれを隠して何も言わなかった。

 守れとは言った、しかし、自分を犠牲にして、それを黙って居ろなんて俺は言っていない。

 ギリっと不甲斐ない自分に怒りが沸き、もう一度ジョッキを傾けた。


「なるほど、傷を治しただけでなく、彼女が……」

「ああ」

「…………。あの、リオさん。もしかしてブランさんはそれを結構問題視していたり、したでしょうか?」

「なに?」


 突然聡い事を言いだしたシャットを見てしまうと、彼は困ったようにジョッキに手を置いていた。

 若干不穏な気配を感じていると、バンと思い切り背中を叩かれて、またイラっとさせられる。間違いない、先ほどと叩かれた時と同じ強さということは酔ったリコールだ。


「おい、何の話をしてるんだ?」

「あはは、リコールさん、飲み足りないのでは、と思いまして。あちらのお酒をもらって来てはどうですか?」

「おお? シャット気が利くな! お前の分ももらって来てやるよ!」

「ありがとうございます、あ、ゆっくりで大丈夫ですよ」


 笑顔で別の席とカウンターに突撃していくリコールにシャットはニコニコと彼の背中を見届ける。

 年上の先輩のあしらい方が上手いシャットに、リオは眉を寄せた。


「……なんの真似だ」

「リコールさんが居るとちょっとこじれますので……。リオさん、これはあくまで俺の考えですけど、ブランさんが竜を倒したって事、あんまり大声で自分じゃないって言わない方が良いと思います」

「根拠はあるのか? 竜を倒すという誉れをむざむざ放り出したんだぞ、あいつは」

「竜を討伐した件、リオさんの事を知っている人はリオさんがほとんど討伐をしただけ、と考えている人が多いです。実際、話を聞くまで俺もそうでした」

「ああ、だが……」

「待ってください。俺も兵士です、お気持ちは察しますが、リオさんは元帝国騎士様というのはもう暗黙の了解ですが、俺を治してくださったブランさんは翼魔族という珍しい種族の旅人です」

「それは知っている」

「無名の移住を希望した旅人が"子竜討伐に協力した旅人"という肩書と"子竜を討伐した旅人"という肩書では子竜討伐という称号は村に住むには重すぎるんです」

「…………。ブランもそう言っていたな」

「はい、彼女が移住を希望していたのはリコールさん越しにお聞きしています。ですが、もしそれが町民の耳に入ったら、恐れられる要因になる……すくなくとも、もっとブランさんの人となりが皆さんに広まるまでは隠しておくべき事案だと思います」」


 シャットという若い兵士の説明で、ようやくブランの言っていた言葉の意味を咀嚼する。

 帝国に居た頃は武勲を明らかにし、皇帝陛下に認められることこそが誉れであったが、無名の俺が騎士になった時、同じようなことを言われた覚えがある。

 曰く、強大な力には尊敬と畏怖が与えられる、だったか。

 帝国では単純に力の証明として誉れだったが……ここはコアコセリフ。国が違えば文化も違うし、なによりブランに至っては種族までときた。

 考えなしに肯定していた俺が間違っていたのだろうかと、持っていたジョッキと隣に居るシャットという青年を見る。

 リコールみたいな快活さはないが、今の言い回しからして俺よりも頭が回る。なによりブランの憂いを見事にあて、なおかつ俺の尊厳を気にしつつも上申をするその様はずる賢いともいえる。

 俺よりは若い、だが……。


「お前……シャットだったか」

「はい」

「覚えておく……。危険人物だ」

「は、は?」

「おーい、お前ら酒貰って来たぞ! あ? なんだよお前ら、シラケちまって」


 まだ残っている酒で言葉とイラつきを流し込み、手の甲で口元を拭った。

 あいつには、敵が多すぎる。



 人知れず自分が思いを寄せてしまった魔族が多方面に人気であることを知ってしまうなんて思わなかった。




 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

※少しでも良いと思っていただける部分があれば、↓にある評価、ブクマ等をしていただけると続きを書く際の目安になったり、色々な話を書こう! と言うモチベーションにつながるので助かります。



追記。

 だいぶ長い期間を使ってしまいましたが、他作品同様、おおよそ単行本一冊分の投稿をようやく終えました。正直まだまだ続きはあるのですが、この作品はマイペースに投稿することを心に決めた作品ですので、他作品のように続ける基準はありません。

 実は他作品と結構つながってたりするので時系列いじるの大変なんです……w

 例えば『死者の聖女』例えば『正しき騎士』。ちょっと毛色は違いますが『追放先の亜人領主は思い出の中に』とかも繋がっていたりします。

 まだまだ、表に出てはいませんが、結構な量の作品と繋がっていて、矛盾を作らないようにしています。

 たまにあるのはご愛敬。

 なので、時系列確認が大変すぎるという理由で更新が遅かったりしますが、その間にほかの作品も読んでいただけたらなと思います。

 長い追記も読んでいただき、ありがとうございました


 きっとそのうち、続きます。




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