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第13節―2


 あまりに突然の出来事で、動揺してしまいました。

 子竜の突撃でも壊れなかった魔力糸が、ナイフで雪リンゴの皮をむくように簡単に切れてしまったじゃありませんか。

 そんな馬鹿なことありますか、この緊急事態に。


「どうした!」


 さすがに異変を感じ取られてしまったのか、リオさんがそう叫びます。どうしたって叫びたいのは私なんですが。


「う、嘘でしょ、信じられないですって! リオさん対魔法武具でもつけてるんですか――って、きゃあ!」


 私の魔力をはじき返したリオさんに文句の一つでも吐こうとしたら、咆哮の一つも上げずに光らせた喉をこちらに向けていたらしく、伸ばしたまま意識していなかった盾にさっきの突撃とは比較できないほどの衝撃が魔力を巡らせているはずの右腕に走り、腕の筋肉が引きちぎられるような嫌な感覚が脳裏をよぎっていきました。

 痛みと目を覆いたくなるほどの光、そしてすさまじい熱と風が体全体を包み込み、盾の裏にいるはずの私たちにすら鉄すらも溶かすような温度のブレスが照射され続ける。


「ぁああ!! あああああああああああ!!」


 声を張り上げて耐え続けていると、突然ブレスの光が消え失せ、腕にかかっていた重圧がふっと軽くなる。

 何が起こったのかを確認する余裕もなく、あと少しで灰になっていたという恐怖が後になって襲ってきて、震えてしまっている膝に腕を置いて何とか落ち着こうと努力しました。

 でも、水の精霊様の力をお借りした魔法の盾でも防ぎきれなかった分の痛みが腕にぶり返して、鼓動と共に血が流れだしていく鈍痛が腕にそのまま来たかのような痛みが広がっていく。

 額から流れる汗を拭く余裕もないですけど、目を閉じてなんとか呼吸を整えていく。


 ――ば、馬鹿じゃないですか!! 戦闘特化の魔族さんたちはいっつもこんなの平気な顔で防いでるなんて信じられない! 化け物なんですかあの人たちは!!


「盾にひびが入っている! 怪我はないか、ブラン!」


 軽々とこなしていた戦闘特化の人たちを恨んでいると、数歩は前にいたはずのリオさんが下がってきていたらしく、すぐ近くから声が聞こえました。

 悔しいですけど、この状況で心配してくれるだけうれしく感じてしまいます。


「ぇほ、い、命、だけは、なんとか……。さすがのブランちゃんもだいぶきっついですけど」

「何がさすがだ。……お前の言っていた例の魔法は」

「それが、その槍にはじかれちゃうみたいで……。たぶん、リオさんと槍の付き合いが長いから、槍に不穏分子としてはじかれてるんじゃないかと」

「なに? これはただの槍だぞ。そんなの魔族の魔法がはじけるはずが……」

「それ、天族のエンチャント――意味が付与された魔法がかかってるんですよ。言いませんでしたけど。たぶんそれが原因で魔族の魔力を弾いてます。過去に経験ありませんでした? 魔法を弾いたとか、呪いにかからなかったとか」

「っ――。くそ、前皇帝も騎士団長もそんなこと一言も……帝国が後生大事に守ってた槍というのはそういう訳か。だが、どうする。お前の盾にひびが入っている以上、もう一度あのブレスを受けるのは危険だ」

「わかってます。でも私の魔力を通せないのなら、もう一回は防いで時間を稼ぐしか……」

「……これ以上お前に盾を使わせるのは賛成しかねるな。ブランが無事だったとしても、味を占められて一生空を飛ばれたらそれこそ困るが……」


 リオさんは焦ったようにドラゴンを見上げました。

 その視線の先にはこちらをしっかりと見据えている……こっちをばっちり敵視してくれている子竜が羽ばたきを一切休めることなく飛んでいました。

 おそらく、リオさんが心配しているのは今も子竜の下で困惑して立往生してしまっている兵士さんたちでしょう。

 さっきブレスを受けた腕をさすると、冷や汗が首筋を伝っていく。


 ――その心配は最も、ですね。私とリオさんの二人はおそらく避けることはできますが、残りの兵士さんたちはまずそうですし。となると、どうなってもリオさんに魔法をかけなきゃいけない。残りの手段は……。


 一つだけ、最後の手段が脳裏をよぎって、リオさんという男性に対してのいろいろ言いたいことや、今日まで同じ屋根の下で過ごした経験も相まってもにょってしまいます。

 

「リオ、さん。最後に一つだけ、槍に見過ごされる可能性がとっても確率が高くて魔法を使う方法があるんですけど……」

「なに? なぜ、それを先に言わなかった」

「個人的な、はい。個人的に避けたかったんですけど……そうも言ってられない、ので。はい」

「……何を戸惑っていたかは知らないが問題ない。俺にできることなら協力しよう」

「いえ、その……実はですね? 魔族ってほかの物と仮でもいいので契約すると一応魔族の魔法を一時的に貸し与える敵なことが出来るんですが……」

「仮契約? なら、契約でも雇用でもしろ。許してやる」

「い、いえ。それが、その……き……」

「き?」


 いざ伝えようとすると、すぐ目の前に顔は理想のリオさんが居て、ついされることを想像してぼっと頬に火の精霊様が宿ってしまう。


 ――ば、ばかばかばかばか! こんな時に恥ずかしがるなんて、どんな純情乙女なんですか! ええい、魔族の女は一途にです!


 絶対に意味が違う言葉で勢いづけて、目をつぶって言葉にしました。


「わ、私に! き、きき、キスしてください!」

「キス? 口づけをしろと?」

「そ、そうです! わ、私だってしほしくて言ってるわけじゃなくて、魔族とほか種族との一時契約。私がご主人様って契約した相手なら、たぶん槍の魔力にもはじかれないかもって……! 私は水の精霊様の進行ですから、体の水を交換するのは一番早くてですね! だから――」


 他意はありません。

 いやまあ、リオさんはイケメンだと思いますし、実は血と血を混ぜて従者側にのませればいいとかありますけど。

 他意はないですよ。顔は良くても性格は難ありなんです。

 我ながら言い訳がましいなと思っていると、突然リオさんに引っ張られ、左手を伸ばされてそのまま首元へ。そして無造作に顎に触れられてしまいました。

 他人が私の体に触れるという感覚に戸惑っていると、目の前には比較的好みのリオさんの顔がありました。


「いくぞ」

「は? いくってなにを――んぅ!?」


 それは突然……でもないですけど、突然でした。


 混乱と恥ずかしさでぐちゃぐちゃになった頭のまま、盾に魔力を集中していると、無造作に顎に手を置かれ抵抗する間もなくかさついて、手入れのされてない男の人の唇を私のそれに押し付けられました。

 視界の全部を彼の整った顔が広がって、口腔を通って魔力の線がつながっていく。

 ちょんと触れるだけでいいはずの口づけが、彼の性格故でしょう、間違わないように慎重に、しっかりと私の唇を抑え続けて、漏れ出ていく吐息がこそばゆく頬を撫で、交換するといった唾液が口と口の間で行きかいました。


 ――はっ、え? もしかして、これ、本当にしたんですか、この人? 嘘、この人だってもとは農民とはいえプライドの高い帝国の騎士で準男爵級の貴族だったはずではないのですか!


 なのに、この人はためらいもせず私と契約のために口づけまで交わす。隣国の助けてもらったあの村を救うために……。

 ゆっくりとリオさんのとてもマジな顔と、ほのかに温かかった体温が遠ざかる。


「これでいいか、ブラン」


 人間でなければ、顔は好み一直線のイケメンさん。そんな人が自分の貞操や尊厳なんかよりも周りの事情や世界のことを優先してくれちゃったりして、人間もまだまだ捨てたもんじゃないぞって体現してくれている。


 プライドが高くって不器用で言葉足らずなうえに性格難。声をこちらからかけたって「ああ」とか「そうか」なんて冷めた事しか返さない、そんなひどい人だって分かっているのに……。


 自分なんかよりも自分を住まわせてくれている村のために動こうと、必死に助けになろうとするその姿に、不覚ながら初めて出会った時よりもドキドキとときめいてしまいました。

 こんな時に何言ってんだって思います? ええ、私もそう思います。

 でも……私は好きなんです。

 俺様系がじゃありません。自分の身を犠牲にしてでも誰かを救おうとする人種の姿が! 愛おしくて、触れたくて……当初の目的――この人になら、覚悟を示したリオさんになら仕えたいって感じてしまうほど、好ましい人間の姿でもあるんです。

 だから――。


「は、ははは、はひ……」


 なんて、すごい興奮して変な声で答えてしまって危うく展開していた盾が霧散してしまいそうでした。お馬鹿なブラン、私はそんなに好ましい相手に弱かったんですか?


「腑抜けるな。ここはお前の魔法にかかっている。気を抜くな、ブラン」


 なのに、この男ときたら散々呼ばなかった名前を軽く口にするじゃないですか。あの村がかかった瞬間、プライドなんてないみたいで、それがおかしくてつい噴き出してしまいました。

 どうやら私は、こんな人に弱かったらしいです。


「ぷっ、あ、あはは……! あはははは!」

「ど、どうした。突然笑いだして。また狂ったのか」

「ふふっ、いいえ、なんでもないんです。何日も一緒に過ごして、こんな危機にならないと尻尾を出さなかった人に、こんな気持ちを抱くなんて思わなかっただけです」

「こんな気持ち?」

「私、あなたみたいな人間、好きですよ」

「はっ!? お前こんな時に何を――」

「ふふ、慌てないでくださいって。ほら、構えてください。そんな好ましい人間のあなたを、この両手で守ってあげますから」

「……ふん、笑ってしくじるなよ」



 もう一度、魔力の糸を想像してリオさんの体に這わせていく。一度触れ合ったこともあって先ほどよりもずっと早く正確に彼の体に巻きついて行ってくれる。そして、彼の槍にも。

 正直、私もあまり自信はないのでしくじらないように信じてくださいね、っと。


「リオさん! 私の合図で階段を踏み出すように力強く駆け上っちゃってください! あなたの足元に直接足場を出します!」

「任せろ」


 リオさんがしっかりと槍を構えるのを確認して、私は子竜の舞う空を見上げました。


「さて、それじゃあ、空飛ぶリザードさん。ここからは私の反撃開始と行きますよ、覚悟しててくださいね」


 熱くなった自分を意外に思いながらも、この場を何とかしきれると確信した私は、空を高く舞うフォーヴ化した子竜にそう言ってやりました。



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