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第13節「魔族の約束って重いんですよ?」


 その姿はまさに"生物の頂点"でした。


 なんて適当な私の柄でもないのに、そう表現してしまうほど圧巻の光景でした。

 日の光を受けて煌々と輝いているはずの鱗は魔力が滲み、元の色が分からなくなってしまい、青と白の大空を切り裂く膜の張った翼と人など簡単につぶせてしまうはずの手が小さく見えてしまうほど遠くの空。

 それが私たちに向かって確かに羽ばたいているのです。

 子竜という名の通り、子どもの竜には違いありません。しかし、竜車などの厚意で力を貸してくれている小型の竜種と比べ、今上空に飛んでいる竜は一回りも二回りも大きく、誰も乗りこなせそうにありません。

 孤高に空を飛ぶ姿はまさに空の王者の姿でした。


 ――今すぐ逃げるべき……ですよね? でも、このままだとここにいる人達は竜にやられてしまいますし……そうは言っても私だって竜族はちょっと……。


 ちらりと、近くで休憩をとっていたはずの兵士さんたちに視線を向ける。

 離れた場所でお茶していたアレシアさんたちよりも竜に近かった兵士さんたちは大慌てで武器を取り出し、中には震える声で周りを鼓舞する人も居ました。

 安全な場所から見たら笑ってしまいそうな姿でしたけど、それで彼らは勇敢です。格好悪いなんて口が裂けても言えません。

 魔法を扱う種族の中でトップクラスと名高い魔族でも数人で竜種を相手になんてしたくありませんもの。


「逃げろ! ブラン!」

「ぶ、ぶぶ、ブランですって!?」


 突然リオさんに名前を呼ばれ、心臓がときめきそうでついどもって反応してしまいました。

 だ、だって下の名前を呼ばれるの、慣れてないんですもの。


 ――じゃない! 今ぼうっとしちゃダメじゃないですか! この乙女脳!


 慌てて首を振って馬鹿な考えを振り払い、リオさんたちに視線を戻す。リオさんはいつの間にか先ほどの嫌な魔力をまとった槍を手に立ち上がり、兵士さんたちの場所へ駆け出そうとしているじゃないですか。

 ゾッとする。いくら帝国騎士が馬鹿強いと言っても、竜種を相手にするのはむざむざ命を落としに行くと言っているようなものです。


「っ、だ、駄目ですリオさん!」


 気が付いた時には走りだそうとしているリオさんの腕をつかんでいました。リオさんは無理に振り払おうとせず、固く緊張した面持ちで振り返ってくれる。

 固いドワーフのような筋肉の感触が伝わってきて、ぽかぽかしてる頭で思わずあ、男の人だなんて思ってしまいました。

 私も馬鹿です。


「離せ、ブラン」

「ま、また名前……ああもう馬鹿なことを考えてる場合じゃない――。り、リオさんはどうするつもりなんですか!」

「ここでドラゴンを止める」

「な、ばっ、リオさんまで馬鹿なことを言わないでください! 相手はドラゴンですよ? まだ子供とはいえ、大人になりかけた竜のフォーヴです!」

「危険なのは分かっている! だが、ここで食い止めなければ村が焼かれる。恩がある相手に何もしないのは帝国人の恥だ!」


 村が焼かれる。そう聞いてハッとしました。

 竜種が無益に人里を襲わないと相場が決まってから運千年。たしかに、その発想が抜け落ちていましたけど、相手はフォーヴ――暴走した獣のような相手です。

 要はフォーブ化した竜は人を襲う竜と同一ってこと。

 先日、襲われたという村もあると聞きました、彼がここであの子竜を止めたいと口にするのも、恩に報いるべきと育てられる帝国人で、しかも外面が大事な騎士様なら確かにするでしょう。

 でも……。


 ――でも、でも! 一人でやるのは危ないじゃないですか!


 振り払って行ってしまいそうだったリオさんの腕をもう一度しっかりと引き寄せる。今度は忌々しそうに振り返って立ち止まる。

 不器用な騎士様です。自分を心配する相手とはいえ、私は今邪魔なんですから、無理にでも振りほどけばいいのに。

 急がなきゃいけないのに足を止めるその矛盾にちょっとだけむっとしてしまいます。


「子竜を止めるのは分かりました! でもどうやって!」

「お前には関係のないことだ! いいから離せ!」


 リオさんが苛立ったように振り返りあの槍を持っていない方の右腕を振られてしまう。来るな、と訴えたいみたいです。

 まるで役に立たないと言われているようで、こんな時にもかかわらずちょっとムカついてしまいました。


「はあ? ふざけないでください! ただの人間の癖に偉そうな顔をして、笑わせるんじゃないですよ!」

「お前こそ帝国騎士の俺を舐めるな! この槍があれば竜種であろうと止められる!」

「それを人間の癖に偉そうにって言ってるんですよ!」


 命を粗末にしそうなリオさんに腹が立って、思わずそう怒鳴ってしまっていました。

 いつもいつも偉そうに人のやることなすことにケチをつけておいて、こんな時ばっかり黙ってみてろですって? 私の言い分も意味わかりませんけど、とにかく腹が立ちました。

 とりあえず私も手伝います、そう訴えかけようとする。



 その瞬間、子竜の唸り声が響き渡り、視線が子竜に引き寄せられてしまう。そして、彼らの特徴的な縦割れの瞳が確かにこちらを見ているのが目に入りました。



 先ほどよりも大きくなるスピードが上がったかと思うと、まっすぐこちらに向かって飛んでくるじゃないですか。

 ピーチクパーチク怒鳴りすぎた時が付いた時にはもうすでに子竜は交戦できる距離まで近づき、慌ててリオさんの腕を引っ張る。


「っ、り、リオさんはとりあえず逃げないとだめですよ! ほら!」


 腕を引いて逃げようとするとすぐ後ろでアレシアさんとクレイさん――いえ、正確にはクレイさんの

「うわっ!」という悲鳴が聞こえて二人がまだ逃げられていないことを思い出させられてしまう。


 ――っ、いけない! このままだとリオさんだけじゃなくてアレシアさんたちも!


 咄嗟に守るために魔法を使おうとして、この人たちに秘密にしていた魔法を見せても世界は変わらないだろうかと魔族特有の不安に駆られてしまう。

 なんでかって魔族にとって普遍は命よりも重い価値観です。

 普遍は何よりも価値があって後ろにいるこの人はただの人間。いくら聖人だったとしてこの人たちが亜人種でもなかなか使うことができない純粋魔法を見て性格が変わらないとは限りません。

 馬鹿な人間さんたちは魔法一つを物にしようとしてほろんだ国だってあります。

 もちろんこのまま守らなくても助かる可能性はありますけど、仮とはいえご主人さまであるリオさんが守れと命じた家の持ち主でありなにより一応助けてもらった恩もあります。

 それに……それにですよ。

 この村にはシュクラさんに、カリーナさん。それに、町を守る兵士さんと道であいさつをしてくれたらプールの家族も住んでいる村だって、この人がいなければ回りません。

 レユラル村の人たちの大半は普通の人間さんで、仮にラプール達でも身体強化しか持っていない彼らでは子竜の甘噛みでお腹に牙が突き刺さるでしょう。

 知っている人たちがそんな目に合うのなんて死ぬほど嫌でした。

 自分の魔族らしさに嫌気がさしつつも、ぎゅっと歯を噛みしめる。

 本当に……この辺の葛藤は人間さんなら絶対にしないでしょうね。


「ああもう! 隠してる場合じゃないですよ、私!」

「な、なんだどうした、気でも触れたか?」

「いいから! リオさんちょっと退いててくださいね、っと!!」


 そう叫びながらリオさんから腕を離した。

 ドラゴンとはいえ子竜の攻撃くらいなら、魔力特化してない戦闘特化魔族たちでも十分耐えられるのは見たことがあります。

 それなら魔力特化の翼魔族である私の魔法ならある程度までなら防げるはずです。

 リオさんから腕を離した反動でジャンプし、踏ん張った反動の土砂が後ろの二人に飛ばないように体を魔力で浮かしながら突進してくる子竜に指をさす。

 突進してきた子竜と私の間、ちょうど勢いつけて降りてこようとしている中空に魔力で円を思い描き、ふぅと息を吐き出しながら、指先から思い描いた通りに魔力を注ぎ込んでいく。


 ――あんまり、人間定義の魔法は得意じゃないんですけどっ!


 あと少しで子竜が突撃してくるというタイミングで思い描いた円盾に魔力を注ぎ終える。

 その円楯を隙をおっぴろげた硫酸の目の前に差し出して、多少上の方向に傾けた。

 人間さんたちが第一魔法“魔力の盾”。そう呼んでいる魔法で盾を形成される。本当ならこれで大丈夫かもですけど……。



「私は魔法が苦手なんです! 念のため、もう一段階行きますよ! 『水の精霊よ、我が盾に氷の加護を』!」



 言葉をお聞きくださった精霊様が子竜と私の間に大きな盾に魔力を注がれる。ただの魔力で作り出しただけの盾に氷の魔力がまとわりつき、大きな氷の盾を生み出される。

 隣で驚きの声が上がった瞬間、突撃していた子竜が氷の盾にぶつかり、氷の飛沫が当たりに飛散し、受け止めたはずの腕全体に吹き飛ばされるような重みが後方に向かって飛んでいきました。

 子供でフォーヴ化したとはいえやっぱり竜族みたいで、魔力の混ざった突進の力は突風になって後方へ流れてくれました。

 魔力で強化していた肌に突進の衝撃が伝わってきて、久しぶりに感じた痛みと言う感覚が腕から背中へ駆け抜け、胴体に腕が引っ付いているのが不思議に感じるほどの痛みが掲げていた腕全体に沈殿するじゃないですか。

 

「っぁあ! 痛いですねもう!! ああもう、私が翼魔族じゃなかったらどうするんです、か!」


 誰に言ったのかも分からない愚痴を叫び、集中する先を指先から手のひらに変え、子竜の突撃を抑えている盾の向きを誰もいない空に向けると、勢いで突撃してきた子竜は縦の方向にあらがえず空に方向転換し、バランスを維持しながら回転してこちらに敵意を向けられてしまう。

 どうやら、今ので脅威判定されてしまったみたい……ですね。

 最も悪ですよ。まったく、誰が好き好んでこんな竜に手を出さなきゃいけないんですか、もう。

 ただ、見られたのなら逃げる方法はほとんどありません。

 精一杯の虚栄を張るためにきっと睨み返してなんてやります。


「あははっ、さすがフォーヴで思考を奪われても竜族ですね。ちょっとでもバランスを崩してくれたら時間を稼げたのに。戦う本能さまさまって感じの戦い方、大っ嫌いですよもう!! ――アレシアさんたち! 早く逃げてください!」


 私が愚痴りながらも叫ぶと、クレイさんが驚いた顔でうなずいて、アレシアさんを抱きかかえると一目散にその場を離れてくれました。

 これで、あの人たちは比較的無事なはずです。


「さて、あとは子竜のほう、ですね」


 息を整えるために土の地面に足をつけると、安心したおかげで流れ出していた汗が眉と鼻筋を伝って落ちてくる。視界の確保のために腕を使ってぬぐうと拭っていた腕をガッという音がしてしまうほど勢い良く疲れてしまうじゃないですか。

 誰ですか、もう。と思っていたら、そこにはすごい形相で怒った顔のリオさんが立っていました。

 あらら、かっこいい顔が台無しじゃないですか。


「っ、お前、なんでこんな事を!」

「こんな事ですって! せっかく守ってあげたのに何て言い草ですか!」

「違う! そんなことをしたお前まであの竜に攻撃を受ける! 何のために俺が逃がそうとしたと思ってるんだ!」


 あらあら、必死な顔。

 それがかわいく見えて、ちょっとだけうれしくなります。

 やっと私のことをなんて思ってるか口にしてくださったんですもの。かわいいって思ってもいいじゃないですか。


「約束! 約束をしましたから!」

「約束?」

「忘れたんですか! この甲斐性なしさんは! 家を……この村を守れってあなたが言ったんじゃないですか!」

「馬鹿なことを言うな、その程度でわざわざ子竜を相手にするなんて……!」

「馬鹿な事ですって! これだけは忘れないでください! 魔族にとって約束は命よりも重いものなんです! 命を捨てることもできない人間様がそれを馬鹿にするなんてこと絶対にしないでください! それに、リオさんもさっき言ったじゃないですか! ここで逃げたらあの村を守ることなんでてきません!」

「っ――くそ、言いたいことは分かった! だが、どうする。このままでは止めるどこでは済まなくなる」

「そんなもん翼魔族の私にあるわけがありません! 帝国の騎士さんなんでしょう! ではったからにはいい案はないんですか!!」

「……ある」

「あるんですか!?」

「武器を当てられれば、だが。フォーヴ化した竜なら一撃で仕留められる代物がある」

 リオさんはそう言って、片手に持っていた槍と言っていたものを持ち上げる。

「まさか、その槍ですか?」

「ああ。俺はこれで竜を落としたことがある。これが届きさえすればあの竜も倒せるかもしれん。だが……」


 リオさんと顔を見合わせ空を見上げる。まあ、当然羽ばたいて一向に降りてこようとしない子竜の姿があるじゃないですか。


「絶対に届きませんね、あれ」

「仮に届いたとしてあの鱗には通らないだろう。別の手立ても考えなければ無理だ」

「それならなきにもしあらずって感じです……けど」

「けど、なんだ」


「リオさん。あなたが生粋の帝国人で人間の男性だと理解して言います。魔法と私に頼る気はありますか」

「魔法に、だと?」


 竜から視線をそらさずリオさんとやり取りを交わしつつも、いつ子竜が攻めてきてもいいように盾を展開し続けるために腕に集中をし続ける。

 会話をするたびに盾がぶれそうになり、必死に同じ形を思い出していく。マルチタスク、苦手なので意識を蹴散らすようなことを言わないでほしいです。

 自分から話をふったのは気にしてはいけません。


「はい。帝国人が魔法嫌いでそういった類を頼りにしたくないのも知っています。ですから、リオさんのプライドとこの村を守るという恩義のお話になります。できますか」


 リオさんに訝しげな顔をされてしまって、何を言われてもいいようにと心で覚悟を決める。

 彼は帝国人で、情報が正しいのなら生粋の人間の国の騎士様でした。魔法を嫌う帝国の騎士。こんな提案をすれば、どんな罵詈雑言を飛ばされて殴られたとしてもまあ、割とあの国だしなって話になってしまいます。

 でも、あの村を守るためなら、必要な事項でした。

 覚悟して彼の言葉と子竜の攻撃を身構えていると、視界の端でリオさんはいつものように仏頂面で子竜に向き直る。


「ふん、プライド捨てられるか、か。お前に対しては言うまでもないと思っていたんだがな」


 彼はそう言って盾を張っている私と盾の間に陣取り、持っていた槍をふるう。包みを解いていたのか、ふるっただけではらはらと布が滑り落ち、その下にあった白銀の刃を称えた槍……思っていた通り、いやに天族の魔力を巻き込んだ槍が姿を現しました。


「なに意味深げなことを言って槍まで出してるんですか。できるかできないかって話をですね」

「プライドなど、前の帝国に捨てられたときに放り投げた。でなければ恥知らずと罵られてもなお隣国でなど生きていない」

「は? え、えっと……」

「何をするかは知らんが頼む、ブラン。お前の魔法で、あの村を救ってくれ。あの村を救うためならば、この槍も俺も、好きなように使え」


 驚きすぎて氷の盾がぶれてしまいそうでした。

 多少の罵詈雑言……それこそ吐き捨てるように皮肉でも言われると思っていましたのに。リオさんはそんなそぶりをかけらも見せず、むしろ頼むとまで言いました。


「ふ……ふふ、馬鹿な人ですね、もう」

「何か言ったか」

「いえ、ならいきますよ。槍を構えてください」

「問題はない。帝国……元帝国騎士、Dの称号を与えられたこともあるリオ・D・ハートネス。粗末な命を救ったあの村を、子竜程度に焼き尽くされるわけにはいかない」


 そう名乗ると、槍を左腕を前に構え、槍を子竜から隠すように背中に回して構え、それを見届けてから彼が持っていたとっても邪悪な魔力のこもった槍と彼自身に私たち魔族のように身体強化やら、別の魔法をのせていく。


「これから、リオさんとその槍と魔力を通して、私の作った魔力の足場に乗れるようにします。そうすれば何とでもなりますよね!」

「十分だ!」

「はい! ならいきますよ!」


 あの子竜を撃退……いえ、フォーヴ化した子竜を鎮めるために彼の持っている槍に全力で、水の精霊様をイメージした青色の魔力線をイメージして絡めていく。

 リオさんと盾の向こうで子竜の喉が発光し、これからブレスを吐きますよって宣言までしていました。


 ――この魔法が完成すれば、ブレスくらいなら防げるはず!


 そう思い、一本一本、丁寧に、切れないように。盾を維持しながらなので、慎重に糸を絡ませていき――。

 プツンと、リオさんに絡ませていた頼みの糸がやりに断ち切られてしまいました。

 それも核を失ったスライムを指で切るように、あっさりと。




続きは明日18時に。※2022年3月15日追記

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