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第12節―3

 

 このままでは教えてくれないと察して、仕方なしにとクレイさんに話を振ることにしてみました。


「クレイさんは何かご存知ですか?」

「はい? ああ、護衛の件についてですか?」

「そうそう、そうです。アレシアさんが意地悪で教えてくれないので、クレイさんなら教えてくれるかなって」

「あはは、アレシア様はたしかに口を噤まれることが多いですが、アレシア様が黙るということは相応の理由がおありになる時です。アレシア様が黙っていらっしゃられるのであれば、付き人である私が口を開くわけにはまいりません。ということで、諦めてください」


 そう言って笑顔のまま断られてしまいました。

 意外と忠誠心が旺盛で、人間にしておくのはもったいないと感じてしまいました。

 私も魔族の端くれ、そういう気持ちはとてもよくわかります。なので、彼から聞き出すのは諦めざるを得ません。



 ――でも、すぐわかるってどういう……。



「お前ら、こんなところで何をしてるんだ」


 思考していると、聞きなれた声が聞こえてきて、声のしたほうを振り返りました。そこには私たちのことをいぶかしげに見下ろしている帝国騎士装束の男――リオさんが立っていました。


「リオさん。どうしてこんなところに?」

「仕事だ」


 リオさんはそう言って親指で後ろを指差しました。彼の体を避けて、指差した先に視線を移すと、重そうな金属の鎧やらなんやら身に着けた人たちがいました。

 その中の一人は見たことのある顔で、アレシアさんの館で取り次いでくれた人もいました。

 ということはあの村の兵士さんたち、ということでしょうか。


「お仕事、ですか。あれでも、遠征に行っていたのでは……」

「ああ。その帰り道で偶然お前たちが座っているのを見つけた」

「偶然って怖いですね」

「それが偶然ならな。……偶然じゃなくてもか。それで、お前たちは何を?」


 リオさんにそう聞かれてしまい、どうやって答えようか迷ってしまいました。

 普通に答えてもいいのですけど、それはそれでなんだか負けた気分になってしまいます。

 負けたくはありません。……今は何も関係がないかもしれませんが。

 つい思考に呑まれて黙ってしまっていると、アレシアさんが唐突にリオさんに向かって手を上げるのが視界の端に映りました。


「迎えご苦労」


 アレシアさんの行動に意味も解らずにいると、リオさんの方から「は?」という明らかに私と同じ意見の声が漏れ聞こえてきました。


「ここ、座って」


 そう言ってアレシアさんは自分と私の間を指しました。それは本気ですかアレシアさん。

 リオさんはどうするのかとみていると、明らかに動揺したように視線を泳がせていました。なぜそんなに動揺しているのでしょうかこの人は。


「っ、だが俺には仕事が……」

「平気。日が沈むにはまだ時間はある。リオが心配することじゃない」

「……断るな、ってことか」

「そう」


 有無を言わさないといったアレシアさんの様子にリオさんも気が付いたのでしょう。仕方がないと呆れ貯めたかのように私の隣へと腰を下ろしました。


 ――何故私の隣に?


 そうは思いましたけど口にはしませんでした。

 私がお口を閉めっぱにしていると、リオさんの前にも紅茶が置かれ、なぜかリオさんは紅茶を置いたクレイさんを睨みつけました。

 何が不満だったのかはわかりませんが、ご機嫌斜めのようです。


「それで、なんでこんな場所で茶会などを開いているんだ」

「お迎え。それと報告を聞きたかった」

「向かえってことは兵士たちのか。だが“それ”も持ってか?」


 彼が“それ”と言ってあれ四阿さんの近くにある棒状のものを指差しました。

 あ、それやっぱりリオさんの私物だったんですか。


「必要になると思った」

「はっ、まさか今この場所にドラゴンが来るとでも? 何もないこんな辺鄙な平原にか?」

「あれ、リオさんそれは実際にドラゴンが来るやつ……。というか、あの棒が何かリオさんは知ってるんですか?」

「あ? ああ……。まあな」


 疑問を口にするとリオさんは口ごもってしまいました。いつもの彼なら馬鹿にしながらも教えてくれると思っていたのでちょっと意外でした。

 ……ここ最近、彼の意外だと思う顔を見まくってる気がします。意外と表情豊かなんでしょうか。


「リオの武器」

「リオさんの武器、ですか?」


 まったく同じ言葉をアレシアさんに返してしまうと、隣でため息が聞こえてきました。どうやら秘密の道具らしいです。


「アレシア」

「教えない理由がない。それとも言う?」

「いや、俺が言う……。いいか、ブラン。このままでは望まぬ言葉が人形娘から飛び出るから俺が言う」

「はあ、どうぞ」

「アレシアが持ってきたあれは、帝国の兵士時代、俺が使っていた俺の槍だ」

「リオさんの槍? あんな、禍々しい物が、ですか?」


 意味が分からなかったのでまた同じ言葉を聞き返してしまいました。とんでもないド下ネタを言ったのでなければ――そもそもこんな時に言う人でもないですが――、彼が帝国に居た頃に使っていた槍、という認識であっているんでしょうか。

 いえ、あってないと困りますが。

 リオさんとその槍を交互に見つめて、すぐわかるように信じられないという顔をしていると、リオさんは重苦しいため息をついてしまいました。

 苦労してそうです。誰のせいとは言いませんが。

 ひどい人たちですね。


「その槍は……俺が帝国に居た頃、まだ騎士として働いていた当時の皇帝から頂戴した槍だ。作ったやつの話ではそれなりに魔法やら魔道具やらを使って仕上げた、教国の逸品だと聞いている。その名に恥じない名槍だったよ。俺が名を上げたのはその槍のおかげでもある」


「ま、魔法を使って作ったんですか?」


 魔法を使った、と聞いて思わず耳を疑いました。

 帝国は魔法を嫌う人間の国として有名で、それこそお隣のエルタニア教国と手を組むほど毛嫌いしていたはずです。それが魔法を使って作った武器を使っていると聞けば、耳を疑わずにはいられません。

 というか、魔族である私が禍々しいと感じる物をあの二つの国が作れるとは思えませんので。

 ええ、というか人間業じゃありません。

 しかし、リオさんは訝しんでこそいましたが、真剣にうなずきました。


「ああ、俺はそう聞いている」

「作ったのは……まあ、まあいいです。でも帝国人の貴方が、いえ、帝国の方がこの魔法の槍を使ってたんですか?」

「意外そうだな」

「意外も何も、抵抗とか……ほら、嫌悪感とかなかったんですか? 帝国と言えば魔力を持った亜人嫌いで有名ですし、なにより人間絶対主義のエルタニア教国とずぶずぶだったじゃないですか!」

「帝国のお偉い方は嫌な奴もいるだろう。確かに魔力という人間には扱えない力を持った亜人を毛嫌いする風習も強い。だが、帝国は武力で成り上がり、地位を得ている国だ。強大な力を持った武具を扱えるのなら、嫌悪よりも優先すべきことはある」


 なるほど、ある意味帝国らしい理由で納得しました。

 しかし……。


 ――人間にも扱える魔道具、ですか。リオさんがこれを使っていたのはちょっと複雑ですね……。


 もう一度、彼の槍と言われたものに視線を移す。

 布がまかれてしまっていて良くはわかりませんが、それでも確かに相応の使い込みと血の跡があるのでしょう。戦争に疎い私にもその使いこまれた魔力というものは伝わってきます。

 温かい、とでもいうべきでしょうか。人が扱った魔力には相応の残りがというものがあって、この槍には確かにその痕がのこっていたからです。

 ちらりとリオさんを見る。

 彼の瞳はどこか忌々しいものを見るようには見えたのですけど、それとは別に……。何というべきでしょうか。色濃い憧憬のような物も感じました。

 懐かしむというよりはもっと憧れに近い、といった感じでしょうか。

 リオさんは、何かの強い目的をもってこの槍を使っていたといわなくても伝わってきます。


 ――もしくは、誰のために、ですかね。


 自分で考えていて、この人が誰かに忠誠を誓っていると考えてもやっとしてしまいました。

 何故でしょう。


「ねえ、リオさん」

「なんだ」

「聞きたいことがあるんですけど」

「はぁ……どれについてだ」

「そんな慎重にならずに。簡単ですよ、槍の事です」

「言ってみろ。ただし、馬鹿には――」

「その槍は大事なもの、なんですか?」


 彼の言葉をさえぎってそう聞くと、驚いた顔ですぐにこちらを向いて、すぐに別の方向を――槍の方へと視線を向けてしまいました。

 その目には相変わらず憧憬がこもっていて、悲しさの色をにじませていました。


「……そうだな。持ち物の中では相応に大事なものだ」

「そうですか。なら、私はそれ以上聞きません」

「お前が、か」

「なんですか、その不謹慎の塊を見るような目は」

「そのままだろう」

「殴りましょうか? いえ、ただ今聞く気が無くなっただけですよ」

「はっ、殊勝な心掛けだ」


 普段ならイラッと来る上から目線です。そのはずでしたけど、今日ばかりは許してあげました。

 だってにやにやしそうでしたから。リオさん首筋が赤くなっているのを発見してしまって。

 私は、アレシアさんがこの場を設けてくれたことにまた感謝を追加しました。



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